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梶よう子さんの最新作「はしからはしまで ―― みとや・お瑛仕入帖」を読み終える。

江戸下町の陰影あふれる人情を描く、時代シリーズの第三弾。

新潮社発行、 1,700円+税。

両親が永代橋の崩落事故で命を落とし、

兄の長太郎とともに小さな商いをしているお瑛が物語の主人公。

まさに江戸の“百均”、「みとや」という、よろず屋繁盛記である。



江戸時代、文化48(1807)、深川富岡八幡宮の祭礼が行われ、

江戸市中から多くの町人が永代橋を渡って深川へ向かう。

詰めかけた群衆の重みに橋が耐え切れず、橋の中央部東側の部分が

数間にわたって崩壊してしまう。

死傷者・行方不明者合わせて1,400人超という大惨事があった。

これが実際に起きた永代橋の崩落事故である。



兄の長太郎が仕入れに出かけ、妹のお瑛が店番をしているのだが、

長太郎が遊び仲間と集まり、手に入れたフグを調理、

味見をした長太郎はフグの毒にあたり、

あっけなく命を落とす場面から、この物語は始まる。

一人で商いを切り盛りすることになったお瑛は、

長太郎が残した仕入帖を開き、小間物屋や工房を訪ね歩く。



「みとや」があるのは江戸の下町、茅町、

大川(隅田川)から神田川に入りすぐ、浅草橋の近くである。

半端モノや曰く因縁のある品物などを店先に並べ、

どの品物も38文という格安値で販売、

38文の値段から「みとや」、そしてどの品も同じ値段なので、

この小説の題名「はしからはしまで」となる。



お瑛はいろいろな事件に巻き込まれながら、商いを続ける。

もとは武士だった菅谷道之進の息子、直之(のちに直孝)や、

長太郎と仲の良かった商店の若旦那、寛平など多くの人たちに

助けられながらお瑛は生きてゆく。

直孝や寛平は、お瑛が仕入れで出かけている間、気分良く店番。

江戸の下町の人情がきめ細かく描かれている。






by toshi-watanabe | 2018-11-05 09:24 | 読書ノート | Comments(0)


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現在TBS系の日曜劇場で放映中の「下町ロケット・ゴースト」の続編、
「下町ロケット・ヤタガラス」を読む。


帝国重工がロケット計画を棚上げしたため、
農業用トラクター向けの小型トランスミッションに活路を求める
佃製作所の社長・佃航平とそれを支援する
帝国重工・宇宙航空部・部長の財前道生の
汗と涙の物語が進行する。


ヤタガラス(八咫烏)とは、東征を決意したものの、
険しく道を阻む熊野越えに難渋していた神日本磐余彦尊
(かむやまといわれびこのみこと)を助けるため、
天照大神が差し向けたとされる「神の遣い」である。
このシリーズでは、帝国重工の大型ロケットによって
宇宙に運ばれた準天頂衛星の名称。


佃製作所の経理部長を担っていた殿村直弘は
父親が倒れたため、退社して実家に帰り、稲作農家を継ぐ決意をする。
のちに佃製作が供給するトランスミッションを搭載した
無人農業トラクターの試運転が殿村家の農場で行われる。

佃製作所が農業トラクター用のトランスミッションを
開発するにあたって貢献したのが女性エンジニアの島津裕。
彼女は優秀なエンジニアにも拘らず、帝国重工では恵まれず、
一緒に退社した伊丹大とともに、ベンチャー企業、
ギアゴースト者を立ち上げるのが、仲違いし、
佃製作所に加わり、力を発揮する。


大企業である帝国重工内での派閥争いに
巻き込まれたり、いろいろな苦難の道を乗り越え、
財前道生と佃航平は、佃製作所の社員一同の
奮闘により、最新の無人農業トラクター「ランドクロウ」を
立ち上げる事に成功。


この小説はあくまでもフィクションだが、
日本の農業問題、農家の高齢化、農作業の自動化などの
問題点に光を当てているのがよくわかる。
作者も実際、関係者からの意見を聞いているようだ。

決まりきった筋ではあるのだが、面白く読み終えた。





by toshi-watanabe | 2018-10-27 11:16 | 読書ノート | Comments(2)


永井紗耶子さんの著書「横濱王」を読み終える。

小学館文庫、650円+税。

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永井さんの作品を読むのは初めてだ。

この作品は、20158月に小学館から刊行されており、

今回加筆改稿して文庫化されたもの。

巻末の解説において、文芸評論家の細谷正光さんが、

著者の経歴について詳しく述べられている。

書名の「横濱王」とは、三渓園で知られる原三渓のこと。

生糸で財を成した、横浜の豪商、原喜三郎の孫、

原屋寿(やす)と結婚し、原家に婿入りしたのが

原富太郎、号して三渓という。

原三渓が主題としてあるのだが、

この作品では主人公の青年実業家、瀬田修司を通して、

三渓の人物像が描かれている。

シュウと呼ばれた少年時代の修司は、唯一人の家族の妹、シズと

横浜で暮らしていたが、大正1291日の関東大震災に遭遇、

シズを見失い、天涯孤独の身となる。

シズを助けられなかったことは、後々まで瀬田修司を苦しめる。

物語は時を経て、昭和13年、青年実業家となった瀬田修司が登場。

横浜王と呼ばれる三渓に関心を抱き、三渓の情報を収集し始める。

何とか醜聞をつかみ、それを取引材料として使い、

自分のビジネスに三渓の出資を目指すのだが。

そう簡単には三渓と直接会うこともできない。

元娼婦で場末のバーのマダムをしている、お蝶から教えてもらい、

三渓と同業、坂崎商店の坂崎と会い、瀬田は三渓の話を聞く。

かって地唄舞の名手と謳われ、三渓が贔屓にしていた

お福は、すでに年老いて鶴見の長屋でひっそりと暮らしているが、

そのお福を瀬田は訪ねて話を聞く。

また原家で長年女中をしていた志乃という女性の所へも。

さらには画廊の紹介で画家の前田青邨を訪ねる。

三渓は美術への関心があり、

まだ無名だが有望な画家の卵を支援していたことがある。

その一人が若き日の前田青邨だった。

電力王と言われた松永安左エ門とも面会を求め、

三渓について、あれこれと瀬田は聞き出す。

松永安左エ門は、三渓に直接会うように瀬田に勧め、

三渓との予約を取ってくれる。

いよいよ大詰め、瀬田修司は三渓と会うことになり、

三渓園を訪れる。


三渓園といえば、過日観たばかりの映画「日日是好日」の中でも登場。
ご婦人たちがいそいそとお茶室へ向かう場面だ。

「他の誰でもなく、己の王でありなさい」

という言葉を瀬田は三渓から与えられる。

瀬田はすっかり解き放された気分になる。

原三渓という人物像が見事に描かれている。







by toshi-watanabe | 2018-10-20 13:39 | 読書ノート | Comments(0)

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内田康夫さんの著書「『須磨明石』殺人事件」を読み終える。
今から25年前に書かれた作品だが、
最近、徳間文庫の一冊として出版されたばかり。
660円+税。
この時代の作品はほとんど読んでいない。

「明石原人」を取材中の新米新聞記者の
前田淳子が須磨駅を出た後、行方を絶った。
彼女と最後に一緒だったのが、
前田淳子の女子大学の後輩で女子大生の崎上由香里。
新聞社の淳子の上司から依頼を受けて、
ご存知名探偵、浅見光彦が神戸に出かけ、
由香里とともに探索を開始する。

内田さんは、この作品を書くにあたり、
平成4年(1992)の初夏、須磨、明石を取材された。
作品にも登場する神戸女子大学へも取材、
大学の名前が出ることの許可も得られたとのこと。

出版されたのが同年の11月だったが、
その2年2か月後の平成7年(1995)1月17日、
「阪神・淡路大震災」が発生した。
そんな時代に書かれた作品なので、
現在ではだいぶ様子が変わっているかもしれない。
須磨、明石付近、全然知らない土地であり、
大いに興味をそそられる場面もある。

例の如く、浅見探偵の見事な直観と推理力により
事件の糸口がほぐれ、地元警察署員との
協力により解決に向かうのだが、
次々と殺人事件が起きるのには、
嫌な思いもさせられる。





by toshi-watanabe | 2018-10-09 11:13 | 読書ノート | Comments(2)


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葉室麟さんの作品「影ぞ恋しき」を読み終える。

文芸春秋出版、1,950円+税。

夫婦、親子、友との清冽なる絆を描いた、

葉室麟さんの最後の長編小説。

作品の題名は、古今和歌集にある紀貫之の歌から採り入れている。

 「色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき」

色も香りも昔のままに咲き香っている花を見ると、
この花を植えた亡き人の面影が恋しく思われる、という故人を慕う歌である。


本作品は「いのちなりけり」、「花や散るらん」と続いた三部作の完結編、

肥前佐賀、鍋島藩の支藩・小城藩の藩士だった雨宮蔵人と

妻の咲弥が三度登場する。

蔵人は咲弥の天源寺家に婿入りしている。

大石内蔵助ら赤穂浪人四十七士の吉良亭討ち入りを

目の当たりにした雨宮蔵人。

それから4年経ち、蔵人は妻の咲弥と娘の香也とともに

鞍馬山で静かに暮らしていた。

そこへ冬木清四郎という吉良家の家人だった少年が訪れる。

「花や散るらん」に出てくるのだが、

奇縁によって蔵人と咲弥の養女となったのが香也で、

香也は吉良上野介の孫娘である。

香也は次第に清四郎に恋心を抱く。

清四郎の主人を思う心に打たれて蔵人らは、

吉良左兵衛に会うため配流先の諏訪へ向かう。

これが発端となり、幕府の暗闘に巻き込まれて行く。

「いのちなりけり」に出てくるのだが、

蔵人が天源寺家に婿入りしたとき、妻となった咲弥は

思いがけないことを言い出した。

蔵人がおのれの心を表す和歌を示すまで、

夫婦の契りはしない、というのだ。

和歌に素養がなかった蔵人は当惑したが、

やがて咲弥の父親、天源寺刑部をめぐる騒動が起きた。

蔵人は出奔し、再会したのは17年後のことだった。

このとき、ようやく蔵人は

 「春ごとに 花のさかりは ありなめど

 あひ見むことは いのちなりけり」

といいう和歌を、おのれの心を示すものとして

咲弥に伝えることができた。

春ごとに花は咲くが、その花を愛でることができるのは

命あればこそである、といいう和歌だ。

物語の終盤、立ち合いに勝ったものの、銃弾を受けて

負傷したものの、命を取り留めた蔵人の元へ、

妻の咲弥が駆けつける。

咲弥は、

「お前さまは十七年かけて、わたくしに和歌を届けてくださいました。

ですが、わたくしはまだ和歌を差し上げておりませんでした」と

蔵人の耳もとで和歌を詠じた。

 「君にいかで 月にあらそふ ほどばかり

   めぐり逢ひつつ 影を並べん」

西行法師の月にちなむ歌である。

毎夜眺める空の月と競うほどに恋しいあなたとめぐみ逢い、

蔭を並べていたい、という思いの歌。

表紙カバーの挿画は平福百穂『荒磯(右隻)』(東京国立近代美術館蔵)
病床にありながら、最後に書き上げた、葉室麟さんの作品である。

あらためて故人に哀悼の意を表したい。

合掌





by toshi-watanabe | 2018-09-30 15:10 | 読書ノート | Comments(0)

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葉室麟さんの著書「蝶のゆくへ」を読み終える。

葉室さん、昨年末亡くなられているが、新刊が出版されている。

集英社発行、1,700円+税。

珍しくこの作品は、武士ではなく女性が主人公。

新宿中村屋といえば、皆さんよくご存じで、
何度か食事をされておられるのでは。

私も中学の同期会をこの店で開催したことがあり、
個人的に何度か新宿中村屋で食事をしている。

新宿中村屋の創業者、相馬黒光が主人公である。

第1章は「アンビシャスガール」。

著書の出だしをそのまま紹介すると、

 明治28年(1895)春―― 黒アゲハ蝶が飛んでいる。

 18歳の星りょうは、ゆらゆらと飛んでいく黒アゲハ蝶を見上げながら、

 この蝶は幸運の印なのだろうか、それとも死者の霊魂か
 化身しているのだろうかと考えた。

星りょうとは、旧仙台藩士の娘で、後の相馬黒光である。

仙台神学校の教会で開かれていた日曜学校に通うりょうは、

神学生から「アンビシャスガール」と呼ばれ、可愛がられる。

学問好きのりょうは仙台の宮城女学校へ入るものの、

友達が東京の明治女学校へ転校するのを追って、仙台を離れる。

最初は横浜のフェリス和英女学校に入るものの満足せず、

明治女学校に移る、明治28年(1895)のことである。

当時の明治女学校の校長は2代目で、巌本善治。

巌本夫妻には、りょうは何かと世話になる。

宮城女学校時代の友達で先に明治女学校入りしていた

斎藤冬子は20代の若き講師、北村透谷と恋仲になる。

ところが冬子は重い肺病を患い病床に就き、りょうは見舞いに訪れる。

冬子の療養中に透谷は25歳の若さで自殺する。

透谷には「蝶のゆくへ」という一遍の詩があり、

りょうは巌本からこの詩を教えてもらう。


第2章は「煉獄の恋」。

りょうが明治女学校で学ぶ英語の講師は、まだ23歳の島崎春樹(藤村)。

北村透谷とは銀座の泰明小学校の同窓生。

妻のいる透谷が芝公園で自殺したと知り、

藤村は透谷の家を訪れ、透谷の骸と対面する。

恋愛結婚していた妻を目の前に藤村には透谷の死が信じられない。

透谷の死後、書き散らされていた原稿をまとめて

「透谷全集」を作ったのは藤村である。

藤村は、授業に出ていた一人の女子学生に心を奪われる。

岩手県花巻生まれの佐藤輔子という。

りょうの学友であり、生徒の間でも噂になる。

ある女子学生が輔子からの文だと言って藤村に渡し、

藤村はいそいそと輔子と思われる女性の待つ家に出かけ、

一夜を共にするのだが、相手が輔子だったのかどうか、

藤村は後々までわからぬまま。

藤村は思い切って、りょうに頼んで、真相を確かめてもらう。

輔子への思いを「初恋」という名高い詩を後に書いている。

「まだあげ初めし前髪の

 林檎のもとに見えしとき

 前にさしたる花櫛の

 花ある君と思ひけり

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」


3章は「かの花いまは」。

りょうの従妹、佐々城信子と当時新聞記者だった

国木田独歩との恋物語。

結婚はするものの、すぐ離婚する。

信子は色々な変遷を経て同年齢の有島武郎と知り合う。

信子をモデルに、独歩は「鎌倉夫人」を書き、有島武郎は「或る女」を書く。


4章は「オフェリアの歌」。

井戸に身投げをした女性が星りょうであるかのように

新聞に載り、慌ててりょうは米国人講師のクララに相談する。

クララは勝海舟に話せば助けてくれるのではという。

当時海舟は73歳、伯爵となり枢密顧問官を務めている。

実はクララは勝海舟の三男、梅太郎と結婚し、

勝家の屋敷に住んでいる。

クララの住まいに行くと、模写の絵だが「オフェリア」の額。

シェークスピアの「ハムレット」に登場するオフェリアが

入水自殺をする場面だ。

絵画「オフェリア」はジョン・エヴァレット・ミレイの作品と思われる。

5章は「われにたためる翼あり」。

明治女学校が大火に遭い、校舎が使えなくなる。

そんな折にりょうは樋口一葉を知る。

一葉と斎藤緑雨との織り成す話が続く。


6章は「恋に朽ちなん」。

信州穂高の山村で養蚕業を営む相馬愛蔵のもとへ

星りょうは嫁入りするものの、単調な田舎生活に物足りず、

愛蔵を説得して再び東京に向かう。

本郷のパン店を居抜きで買い求める。 従業員もそのまま引き受ける。

暫くして新宿に店を移し、これが現在の新宿中村屋の始まり。

岩本善治から「黒光」というペンネームをもらう。

りょうは「相馬黒光」を名乗る。

新宿中村屋では、美術家や文学者が集まる場として、

「絵画・文学サロン」が自然と発生。

美術家や作家などが出入りするようになる。

ニコライ堂で山田郁子という女性と巡り合う

郁子は年下のロシア人留学生、ニコライ・アンドレーエフと恋に落ちる。

郁子は瀬沼夏葉とも言い、夫と5人の子供を残して、

ニコライとともにロシアへ向かう。


最終章の「愛のごとく」。

荻原守衛という青年を黒光は支援する。

守衛はパリに渡り、ロダンの下で修業する。

のちに黒光をモデルにした女性の裸像を彫る。

新宿中村屋では、インド人の独立運動家、ラス・ビハリ・ボースを匿い、面倒を看る。

ボースの提案により、インドカリーを店で出すようになり、

すっかり中村屋の名物料理、現在も続いている。

ボースは黒光の娘、俊子と結婚する。

相馬黒光は夫の愛蔵が亡くなった翌年の

昭和30年に78歳の生涯を全うした。


実在の人物、特に文学の人たちが登場し、興味をそそられる。
明治に入り、自己主張し、己の思うままに生きようとする、
新しい女性たちの姿が生き生きと描かれている。
新しい時代の流れに見事乗って、活躍の場を求め、恵まれた
星りょう(相馬黒光)の生きざまは素晴らしい。

大いに推薦したい作品である。






by toshi-watanabe | 2018-09-15 10:58 | 読書ノート | Comments(0)

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25回松本清張賞を受賞された川越宗一さんの著書

「天地に燦(さん)たり」を読み終える。

文芸春秋より出版、1,500円+税。

選考委員絶賛の松本清張賞受賞作品。

京極夏彦さんは「戦を描く作品の主軸に、

義でも忠でもなく、礼を選んだセンスに敬服する。」

三浦しおんさんは「激しく心揺さぶられた。」と。

松本清張賞と言えば、山本兼一、葉室麟、青山文平などの

歴史時代小説作家を輩出させている。


時は豊臣秀吉の朝鮮出兵により侵略の風が吹き荒れる戦国時代。

場面は朝鮮国を主に、琉球国にも広がる。

九州薩摩藩、島津家の重臣で、樺山家より大野家に婿養子に入った

大野七郎久高は薩摩軍と共に朝鮮国に出兵する。

同時進行で、朝鮮国では釜山の靴職人、明鍾が登場する。

彼は当時の朝鮮国の被差別民である「白丁」の身分に属していたが、

酒好きの「道学」先生から儒学を学び、やがて目覚める。

元々姓を持たなかったのだが、身分を隠して洪明鍾と名乗り仕官する。

また真市という人物も登場するが、琉球国の官人である。

「唐栄」という集団に属し商売をしながら、

大明国や朝鮮国、そして薩摩などの情勢を探る密偵の任に携わる。

史実を詳細に調べられた作者が、倭人、朝鮮人、琉球人

それぞれが秀吉の朝鮮出兵にどう思い、どう向き合ってきたか、

見事に描き切っている。


秀吉が亡くなり、朝鮮国より倭軍は撤兵に向かう最後の戦いとなる。

久高の軍に捕らえられた朝鮮人の中に明鍾がいるのだが、

偶々久高の近くにいた真市に救われて、琉球へ渡る。

大明国からの冊封使一行が琉球を離れ帰国の途に就き、

大明国と琉球国との文引を巡る交渉が始まる。

その一方で、薩摩の島津軍が琉球国へ向かう。

軍勢の総大将が樺山権左衛門尉久高である。

琉球での戦いを終え、首里城へ向かう久高、

「中山」の扁額が掲げられた門を潜ると、さらに先に赤い門があり、

そこには、琉球人の真市と朝鮮人の洪明鍾がいる。

久高は一人だけで足早にその二人に近づく。

門の扁額には「守礼之邦」と大書されている。

洪明鍾は久高に言う。

「なあ、礼を知らぬ樺山よ」

「礼を説く大明国を目指し、礼を尊ぶ朝鮮国を攻め、

礼を守る琉球国を獲る。

この後、倭は、どこへ行くんだ」

久高は「眠るさ」と実感のまま答えた。

二人の会話は続き、ふと、遠い未来を久高は思う。

この扁額は、ずっとここにあり続ける。

もし焼かれても砕かれても、また掲げられ、

訪う者を出迎え、この島が「守礼之邦」だと示し続ける。

きっとそうだと思った。

そうでないならそうあってほしいと心から願った。

「そうか」久高は気付いた。

「俺も、生きるのだな。これからも、この天地で」。

生を説くと言った洪明鍾が頷き、生き続けると言った真市が笑う。

この物語の終幕、そのまま原文を引用させていただいた.

新たな視点で書かれた朝鮮出兵、薩摩と琉球との関係、

朝鮮国や琉球国の人たちの思いなど大変興味深く読めた。

お薦めの一冊であるし、デビューされた川越宗一さん、

歴史時代小説の分野にデビューを果たされ、今後大いに期待したい。





by toshi-watanabe | 2018-09-04 08:58 | 読書ノート | Comments(0)

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朝井まかてさんの最新作「悪玉伝」を読み終える。

読者をぐいぐい引き込んで行く傑作だ。

角川書店発行、1,600円+税。

大阪商人のド根性が見事に描かれている。

主人公は、木津屋吉兵衛、この物語の始まる頃は36歳の男盛り。

薪問屋の辰巳屋に生まれ、辰巳屋当主の久左衛門は実兄。

父親の実家の木津屋に跡取りが居らず、

次男の吉兵衛が木津屋に養子入りし店を継いでいる。

切れ長の目元に高い鼻梁を持つ吉兵衛は学問と風雅を好み、

家業はそっちのけで道楽と放蕩の日々を過ごしていた。

「文雅堂」を起こし、若者20人ばかりが学ぶ面倒を看たり。

道頓堀の芝居茶屋「升屋」に顔を出し、升屋の主、三郎太や

中ノ島指折りの両替商、太和屋惣右衛門などとも遊び仲間。

先妻に病で先立たれ、16歳のお瑠璃を後妻に迎えたばかり。

先妻との一人息子、17歳の綱次郎は修行中。

突然50歳を前にして実兄の久左衛門が倒れて亡くなる。

18歳の一人娘、伊波の婿にと、泉州佐野浦の廻船問屋、唐金屋の

息子、乙之助を迎え入れているのだが、まだ見習い中、

二人の婚儀に至っていない。

ところが、久左衛門の葬儀を前に、伊波に何も言わず、

ただ書置きを残して、乙之介は実家に帰ってしまう。

吉兵衛は後見人として、辰巳屋に乗り込む。

辰巳屋内で実権を握っていた大番頭の与兵衛たちを首にし、

乙之介との縁を切り、辰巳屋の経営を手掛けるのだが、

これからが事件の発端。

乙之助が辰巳屋の相続について奉行所へ訴え出る。

大阪東町奉行所、稲垣淡路守の用人である馬場源四郎は

文人仲間でもあり、乙之介の訴状は却下される。

安堵したのも束の間、乙之助は江戸表に出て訴えを起こす。

泉州の唐金屋は手広く商売をしており、

岸和田藩の財政を支えているとさえ言われている。

当主であり乙之助の父親、与茂作は吉兵衛を落とし込めようと、

あらゆる手立てをとることに。

大岡忠相越前守や8代将軍、徳川吉宗まで巻き込む大事となる。

吉兵衛は捕らえられ、江戸へ護送され、伝馬町の牢に入れられる。

牢内での長い苦難の生活、己の筋を通し、

何とか乗り切るものの、全てを失ってしまう。

本のカバーに牡丹の花が描かれているが、

吉兵衛の幼い後妻、お瑠璃が何よりも鉢植えの牡丹を愛していた。

小説の題名「悪玉伝」とあるが、決して悪玉という印象はない。

終わりの部分に、「悪玉」という言葉が出てくる。

「兄さん。、

 胸の中で呼びかけた。

 さすがは兄さんや。 きっちり見通してはったんやな。

 わしこそが、亡家の悪玉やった。

 欲を転がして転がして、周りの欲もどんどん巻き込んで、

 江戸にまで転がったわ。

 けど、わしはこの通り、この世に生き残った。

 しかも船出するのや。 惨めな、見っともない船出やけど、

 その船にはこの弁財天が乗る。」

 (弁財天とは、お瑠璃のことをさす)






by toshi-watanabe | 2018-08-15 15:05 | 読書ノート | Comments(0)

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池井戸潤さん待望の「下町ロケット」シリーズの第3弾、

書き下ろし「下町ロケット・ゴースト」が発売され、

早速買い求めて読み終える。

お馴染みの帝国重工の財前道生や佃製作所の佃航平など今回も登場するが,

トランスミッションの開発・製作専門メーカーで、

ギアゴーストというベンチャー企業が新たに登場してくる。

書名にある通り、ギアゴーストを中心に、物語は進展する。

帝国重工からドロップアウトした伊丹大と島津裕の二人が

このベンチャー企業の社長と副社長に付き共同経営している。

島津は女性ながら帝国重工勤務時代、天才エンジニアと呼ばれ、

ギアゴーストでは技術担当として開発をリードしている。

創業して未だ5年、製造部門は持たず、あくまでも企画設計会社、

すべての部品製造と組み立てを外部の契約企業に発注している。

(参考までに、現実にこうした形で業績を伸ばし、

優良企業として格付けされているのが、キーエンス)

ギアゴーストは技術力を売りに、可能な限り固定費を削減して、

効率を上げており、それなりの年商を稼いでいる。

一方、前回から続く佃製作所では、新型エンジンの試作が完了し、

大口取引先のヤマタニとの商談に入るものの、

ヤマタニではエンジンの性能よりもコストを重視とのトップの意向で、

新型エンジン採用の話は白紙とされる。

佃航平社長は、苦慮した結果、トラクターなど農機具に目を向ける。

トランスミッション参入の構想だが、先ずはトランスミッションの

メーカーと共同で開発することが考えられる。

得意先のヤマタニから紹介されたのが、ギアゴーストである。

トランスミッションに必要な新型バルブを佃製作所が開発し、

ギアゴーストに納める話から協力体制を目論む。

いずれは佃製作所自体がトランスミッションの製造を目指す。

ギアゴーストの島津が開発したのは、トランスミッションの中の

プーリーを小型化し、副変速機を採用して、レシオカバレッジを広げた点。

事前の特許調査では問題なかったのだが、

大手企業のケ―マシナリーの取得している特許に侵害しているとして、

ギアゴーストは提訴される。

物語の終盤、前作でも活躍した佃製作所の顧問弁護士 

神谷修一の活躍もあり、被告側のゴアゴーストにとっては幸い、

特許無効の勝訴判決が裁判官により言い渡される。

この結果、佃製作所は新型トランスミッションの共同開発

となるはずだったのだが、新たな難問が立ちはだかる。

この続きは、「下町ロケットシリーズ第4弾」の

「下町ロケット・ヤタガラス」に。

今年の秋に発売予定である。

私自身、現役時代製造業で仕事をした身であり、

大企業に対する中小企業、或いは下請け企業の悲哀、

或いは社内での勢力争いなど見苦しい場面や競合関係、

実によくわかるし、大いに興味を持ちながら読み終える。

次の作品が待ち遠しい。







by toshi-watanabe | 2018-08-03 08:45 | 読書ノート | Comments(0)


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木内昇(きうち・のぼり)さんの著作「火影(ほかげ)に咲く」を読む。

「小説すばる」に掲載された6作品をまとめて、

今回ハードカバーで集英社から出版された。

1,600円+税。

幕末活躍した人物が登場する短編集である。

この著者の作品を手にするのは初めてだが、

歴史・時代小説の優れた作家の一人だと思う。

「紅蘭」。

詩人・梁川西巌(やながわせいがん)の奥方が物語の主人公。

幼名は稲津きみ、そして張紅蘭と号した。

西巌は頼山陽を師と仰いでいた。

西巌の主催する梨花村草舎に顔を出した紅蘭は、

すっかり漢詩に取り憑かれてしまう。

西巌が亡くなった後、尊攘派の疑いをかけられた夫の身内として、

捕縛されるが、やがて保釈される。

後年、紅蘭は西巌が残した市の編纂に没頭し、「西巌遺構」を上梓する。

「薄ら陽」。

長州藩士・吉田稔麿は久坂玄瑞等と共に京で活動。

会合に使っていたのが、三条縄手通りの料亭「小川亭」。

そこで若女将のていと知り合い恋仲になる。

「日なたにある者が、わざわざわしのような影に潜ることはないんじゃ」

と、ていの望みを断ち切る稔麿。

「吉田はんは影やおへんえ」とていは控えめN声で言うのだが、

稔麿は応えず。

池田屋の二階で、宮部鼎三をはじめ20名ばかりの壮士が

集まっているところへ、御用改めと、近藤勇以下の新選組に襲われ、

多くの命を失う。

世にいう「池田屋騒動」である。

利麿は何とか逃げ、藩邸に駆けつけるものの、

城戸に閂が掛かっており屋敷に入ること叶わず。

その場で自刃して果てる。

「呑龍」。

新選組の沖田総司が物語の主人公。

新選組副組長の土方歳三が総司の病を心配して、

碓井良庵なる町医者を探し出し、総司はその町医に時折通う。

診療所でよく顔を合わせるのが、お布来(ふき)さんという

年齢のよくわからない女性。

診療部屋でも威勢のいい啖呵を切る、この女患者さん、

総司に「呑龍」とあだ名をつける。

呑龍とは、浅草の奥山で興行していた舌耕芸人の名前だという。

布来は作り話を総司に語り、総司もその話を信じてしまう。

この物語は実に面白い。

短編ながら、素晴らしい作品に仕上がっており、

読者をひきつけてしまう。

この身寄りのない女の遺骨を引き取り、壬生の光縁寺に墓を建てる。

総司は墓参りをするところで物語は終わる。

「春疾風」。

祇園新地の置屋「島村屋」の君尾が芸子に出て、評判をとる。

この一番の芸子の心をとらえるのが、長州藩士・高杉晋作。

晋作は京から江戸行きとなり、その代わりに登場するのが、

同じ長州の井上聞多、二人はすっかり意気投合。

やがて聞多も去り、次に君尾の前に現れるのは長州の品川弥二郎。

明治に入り、弥二郎の子を産む君尾だが、見受け話を断り、

子を育てながら独り身を通す。

君尾の心の奥深くに残るのは晋作だったのだろうか。

剃髪して「東行春風じゃ」と高らかに笑った晋作の顔を

思い浮かべる君尾。

この作品も、心温まる素晴らしい作品だ。

「徒花」。

土佐藩士・岡本健三郎は、京に上り、藩邸近くにある、

河原町四条下ルの売薬商・亀田屋が宿泊先となる。

この宿には美貌で評判のタカがいる。

坂本龍馬や中岡慎太郎が登場する。

健三郎はすっかりタカといい仲になる。

近江屋で竜馬と慎太郎が落合い、健三郎も同席するのだが、

用事があると席を立つ(タカとの約束があり)。

ところが、竜馬の用心棒役だった健三郎が近江屋を発った後、

龍馬と慎太郎の二人は刺客に襲われ、命を落としてしまう。

下手人は誰とも知れず。

タカが絡めてくる手指を邪険に払い、

「すまんが、ひとりにしれくれんかえ」と声を上げる健三郎。

「光華」。

薩摩の藩士、中村半次郎の物語あり。

西郷隆盛や長州藩士・品川弥二郎も登場する。

四条小橋東詰に暖簾を出している村田煙管店に

弥二郎は立ち寄り、店内に足を踏み入れるわけではなく、

土間の縁台で店の者と世間話を交わす。

この店にさとという娘がおり、いつの間にかいい仲となる。

さとの父親からも縁談の話を持ち掛けられるが、

己の行く末を感じ取っている半次郎は首を縦に振らない。

思い立って、半次郎をさとを連れて、大阪屋という写真場へ、

そこで二人の記念写真を撮影してもらう。

最後はお互いに心にもない言葉を交わして別れて行く。

感動的な短編集で、お薦めの一冊である。






by toshi-watanabe | 2018-07-30 11:26 | 読書ノート | Comments(0)