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朝井まかてさんの最新作「悪玉伝」を読み終える。

読者をぐいぐい引き込んで行く傑作だ。

角川書店発行、1,600円+税。

大阪商人のド根性が見事に描かれている。

主人公は、木津屋吉兵衛、この物語の始まる頃は36歳の男盛り。

薪問屋の辰巳屋に生まれ、辰巳屋当主の久左衛門は実兄。

父親の実家の木津屋に跡取りが居らず、

次男の吉兵衛が木津屋に養子入りし店を継いでいる。

切れ長の目元に高い鼻梁を持つ吉兵衛は学問と風雅を好み、

家業はそっちのけで道楽と放蕩の日々を過ごしていた。

「文雅堂」を起こし、若者20人ばかりが学ぶ面倒を看たり。

道頓堀の芝居茶屋「升屋」に顔を出し、升屋の主、三郎太や

中ノ島指折りの両替商、太和屋惣右衛門などとも遊び仲間。

先妻に病で先立たれ、16歳のお瑠璃を後妻に迎えたばかり。

先妻との一人息子、17歳の綱次郎は修行中。

突然50歳を前にして実兄の久左衛門が倒れて亡くなる。

18歳の一人娘、伊波の婿にと、泉州佐野浦の廻船問屋、唐金屋の

息子、乙之助を迎え入れているのだが、まだ見習い中、

二人の婚儀に至っていない。

ところが、久左衛門の葬儀を前に、伊波に何も言わず、

ただ書置きを残して、乙之介は実家に帰ってしまう。

吉兵衛は後見人として、辰巳屋に乗り込む。

辰巳屋内で実権を握っていた大番頭の与兵衛たちを首にし、

乙之介との縁を切り、辰巳屋の経営を手掛けるのだが、

これからが事件の発端。

乙之助が辰巳屋の相続について奉行所へ訴え出る。

大阪東町奉行所、稲垣淡路守の用人である馬場源四郎は

文人仲間でもあり、乙之介の訴状は却下される。

安堵したのも束の間、乙之助は江戸表に出て訴えを起こす。

泉州の唐金屋は手広く商売をしており、

岸和田藩の財政を支えているとさえ言われている。

当主であり乙之助の父親、与茂作は吉兵衛を落とし込めようと、

あらゆる手立てをとることに。

大岡忠相越前守や8代将軍、徳川吉宗まで巻き込む大事となる。

吉兵衛は捕らえられ、江戸へ護送され、伝馬町の牢に入れられる。

牢内での長い苦難の生活、己の筋を通し、

何とか乗り切るものの、全てを失ってしまう。

本のカバーに牡丹の花が描かれているが、

吉兵衛の幼い後妻、お瑠璃が何よりも鉢植えの牡丹を愛していた。

小説の題名「悪玉伝」とあるが、決して悪玉という印象はない。

終わりの部分に、「悪玉」という言葉が出てくる。

「兄さん。、

 胸の中で呼びかけた。

 さすがは兄さんや。 きっちり見通してはったんやな。

 わしこそが、亡家の悪玉やった。

 欲を転がして転がして、周りの欲もどんどん巻き込んで、

 江戸にまで転がったわ。

 けど、わしはこの通り、この世に生き残った。

 しかも船出するのや。 惨めな、見っともない船出やけど、

 その船にはこの弁財天が乗る。」

 (弁財天とは、お瑠璃のことをさす)






by toshi-watanabe | 2018-08-15 15:05 | 読書ノート | Comments(0)

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池井戸潤さん待望の「下町ロケット」シリーズの第3弾、

書き下ろし「下町ロケット・ゴースト」が発売され、

早速買い求めて読み終える。

お馴染みの帝国重工の財前道生や佃製作所の佃航平など今回も登場するが,

トランスミッションの開発・製作専門メーカーで、

ギアゴーストというベンチャー企業が新たに登場してくる。

書名にある通り、ギアゴーストを中心に、物語は進展する。

帝国重工からドロップアウトした伊丹大と島津裕の二人が

このベンチャー企業の社長と副社長に付き共同経営している。

島津は女性ながら帝国重工勤務時代、天才エンジニアと呼ばれ、

ギアゴーストでは技術担当として開発をリードしている。

創業して未だ5年、製造部門は持たず、あくまでも企画設計会社、

すべての部品製造と組み立てを外部の契約企業に発注している。

(参考までに、現実にこうした形で業績を伸ばし、

優良企業として格付けされているのが、キーエンス)

ギアゴーストは技術力を売りに、可能な限り固定費を削減して、

効率を上げており、それなりの年商を稼いでいる。

一方、前回から続く佃製作所では、新型エンジンの試作が完了し、

大口取引先のヤマタニとの商談に入るものの、

ヤマタニではエンジンの性能よりもコストを重視とのトップの意向で、

新型エンジン採用の話は白紙とされる。

佃航平社長は、苦慮した結果、トラクターなど農機具に目を向ける。

トランスミッション参入の構想だが、先ずはトランスミッションの

メーカーと共同で開発することが考えられる。

得意先のヤマタニから紹介されたのが、ギアゴーストである。

トランスミッションに必要な新型バルブを佃製作所が開発し、

ギアゴーストに納める話から協力体制を目論む。

いずれは佃製作所自体がトランスミッションの製造を目指す。

ギアゴーストの島津が開発したのは、トランスミッションの中の

プーリーを小型化し、副変速機を採用して、レシオカバレッジを広げた点。

事前の特許調査では問題なかったのだが、

大手企業のケ―マシナリーの取得している特許に侵害しているとして、

ギアゴーストは提訴される。

物語の終盤、前作でも活躍した佃製作所の顧問弁護士 

神谷修一の活躍もあり、被告側のゴアゴーストにとっては幸い、

特許無効の勝訴判決が裁判官により言い渡される。

この結果、佃製作所は新型トランスミッションの共同開発

となるはずだったのだが、新たな難問が立ちはだかる。

この続きは、「下町ロケットシリーズ第4弾」の

「下町ロケット・ヤタガラス」に。

今年の秋に発売予定である。

私自身、現役時代製造業で仕事をした身であり、

大企業に対する中小企業、或いは下請け企業の悲哀、

或いは社内での勢力争いなど見苦しい場面や競合関係、

実によくわかるし、大いに興味を持ちながら読み終える。

次の作品が待ち遠しい。







by toshi-watanabe | 2018-08-03 08:45 | 読書ノート | Comments(0)


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木内昇(きうち・のぼり)さんの著作「火影(ほかげ)に咲く」を読む。

「小説すばる」に掲載された6作品をまとめて、

今回ハードカバーで集英社から出版された。

1,600円+税。

幕末活躍した人物が登場する短編集である。

この著者の作品を手にするのは初めてだが、

歴史・時代小説の優れた作家の一人だと思う。

「紅蘭」。

詩人・梁川西巌(やながわせいがん)の奥方が物語の主人公。

幼名は稲津きみ、そして張紅蘭と号した。

西巌は頼山陽を師と仰いでいた。

西巌の主催する梨花村草舎に顔を出した紅蘭は、

すっかり漢詩に取り憑かれてしまう。

西巌が亡くなった後、尊攘派の疑いをかけられた夫の身内として、

捕縛されるが、やがて保釈される。

後年、紅蘭は西巌が残した市の編纂に没頭し、「西巌遺構」を上梓する。

「薄ら陽」。

長州藩士・吉田稔麿は久坂玄瑞等と共に京で活動。

会合に使っていたのが、三条縄手通りの料亭「小川亭」。

そこで若女将のていと知り合い恋仲になる。

「日なたにある者が、わざわざわしのような影に潜ることはないんじゃ」

と、ていの望みを断ち切る稔麿。

「吉田はんは影やおへんえ」とていは控えめN声で言うのだが、

稔麿は応えず。

池田屋の二階で、宮部鼎三をはじめ20名ばかりの壮士が

集まっているところへ、御用改めと、近藤勇以下の新選組に襲われ、

多くの命を失う。

世にいう「池田屋騒動」である。

利麿は何とか逃げ、藩邸に駆けつけるものの、

城戸に閂が掛かっており屋敷に入ること叶わず。

その場で自刃して果てる。

「呑龍」。

新選組の沖田総司が物語の主人公。

新選組副組長の土方歳三が総司の病を心配して、

碓井良庵なる町医者を探し出し、総司はその町医に時折通う。

診療所でよく顔を合わせるのが、お布来(ふき)さんという

年齢のよくわからない女性。

診療部屋でも威勢のいい啖呵を切る、この女患者さん、

総司に「呑龍」とあだ名をつける。

呑龍とは、浅草の奥山で興行していた舌耕芸人の名前だという。

布来は作り話を総司に語り、総司もその話を信じてしまう。

この物語は実に面白い。

短編ながら、素晴らしい作品に仕上がっており、

読者をひきつけてしまう。

この身寄りのない女の遺骨を引き取り、壬生の光縁寺に墓を建てる。

総司は墓参りをするところで物語は終わる。

「春疾風」。

祇園新地の置屋「島村屋」の君尾が芸子に出て、評判をとる。

この一番の芸子の心をとらえるのが、長州藩士・高杉晋作。

晋作は京から江戸行きとなり、その代わりに登場するのが、

同じ長州の井上聞多、二人はすっかり意気投合。

やがて聞多も去り、次に君尾の前に現れるのは長州の品川弥二郎。

明治に入り、弥二郎の子を産む君尾だが、見受け話を断り、

子を育てながら独り身を通す。

君尾の心の奥深くに残るのは晋作だったのだろうか。

剃髪して「東行春風じゃ」と高らかに笑った晋作の顔を

思い浮かべる君尾。

この作品も、心温まる素晴らしい作品だ。

「徒花」。

土佐藩士・岡本健三郎は、京に上り、藩邸近くにある、

河原町四条下ルの売薬商・亀田屋が宿泊先となる。

この宿には美貌で評判のタカがいる。

坂本龍馬や中岡慎太郎が登場する。

健三郎はすっかりタカといい仲になる。

近江屋で竜馬と慎太郎が落合い、健三郎も同席するのだが、

用事があると席を立つ(タカとの約束があり)。

ところが、竜馬の用心棒役だった健三郎が近江屋を発った後、

龍馬と慎太郎の二人は刺客に襲われ、命を落としてしまう。

下手人は誰とも知れず。

タカが絡めてくる手指を邪険に払い、

「すまんが、ひとりにしれくれんかえ」と声を上げる健三郎。

「光華」。

薩摩の藩士、中村半次郎の物語あり。

西郷隆盛や長州藩士・品川弥二郎も登場する。

四条小橋東詰に暖簾を出している村田煙管店に

弥二郎は立ち寄り、店内に足を踏み入れるわけではなく、

土間の縁台で店の者と世間話を交わす。

この店にさとという娘がおり、いつの間にかいい仲となる。

さとの父親からも縁談の話を持ち掛けられるが、

己の行く末を感じ取っている半次郎は首を縦に振らない。

思い立って、半次郎をさとを連れて、大阪屋という写真場へ、

そこで二人の記念写真を撮影してもらう。

最後はお互いに心にもない言葉を交わして別れて行く。

感動的な短編集で、お薦めの一冊である。






by toshi-watanabe | 2018-07-30 11:26 | 読書ノート | Comments(0)

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最近出版された、葉室麟「洛中洛外をゆく」を読む。
KKベストセラーズから出された、この書籍は
正確には葉室麟さんの書かれたものではない。

葉室麟さんが3年間暮らした京都の町中の寺院などを
2017年春、出版社の編集部員は葉室さんとともに訪れた。
3冊の葉室作品に縁のある洛中洛外を歩き、
また数回にわたり葉室さんにインタビューをされ、
本書をまとめたものである。

取り上げられている、葉室さんの小説は、
「乾山晩愁」、「墨龍賦(ぼくりゅうふ)」そして「孤篷のひと」。

第1章の「乾山晩愁」で、小説では琳派の絵師、尾形光琳が亡くなった後、
5歳下の弟、尾形乾山の物語だが、光琳乾山兄弟を主題として、
縁の寺院を訪れ、葉室さんの思いが綴られている。
琳派始まりの地、鷹峯を訪れ、
光悦寺のご住職、山下智昭さんとの語らいも。
カラー写真も載せられており、光琳の名作、乾山の名作、
そして葉室さんの訪れた仁和寺や光悦寺の写真が見られる。

第2章は「墨龍賦」、小説の主人公は海北友松(かいほうゆうしょう)、
狩野永徳、、長谷川等伯とともに桃山画壇の巨匠と呼ばれる絵師だ。
父の戦死を機に武家を離れて京都の東福寺に入り、
禅僧になる修行を始めるが、絵を学び、やがて絵師として頭角を現す。
建仁寺、東福寺、妙心寺の写真があり、
寺を訪れた葉室さんも写真に登場。

第3章は「孤篷の人」、小説の主人公は小堀遠州。
千利休、古田織部、そして小堀遠州とつながる茶人の流れ、
そこには3人3様の茶道がある。
また小堀遠州には、官僚として、作庭家としての活躍も。
南禅寺や二条城などの写真が載っている。


興味深いのは、巻末に載っている澤田瞳子さんの
「葉室さんと『美』」と題したエッセイである。
4年前に、葉室さんと澤田さんが偶然、同時期に同じ雑誌で、
江戸中期の絵師、伊藤若冲を書こうとしていたところ、
「ならば若い人に」と葉室さんは澤田さんに譲られた由。
いずれは葉室さんも若冲を取り上げるものと思っていた
澤田さんは、その作品が出るのを期待していたのだが、
遂にかなわず。

葉室麟さんの人となりを知るのによい読み物、
そして京都のガイドブックとも言えるのでは。







by toshi-watanabe | 2018-07-24 15:30 | 読書ノート | Comments(0)

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葉室麟さんの著書「青嵐の坂」を読み終える。

著者が亡くなられて、すでに半年、

つい最近角川書店から刊行された、この作品が

著者最後の単行本となるのだろうか。

1,600円+税。

葉室さんは、秋月藩シリーズ、羽根藩シリーズ、

黒島藩シリーズと藩シリーズの作品を書かれているが、

「青嵐の坂」は扇野藩シリーズの一作である。

勿論、扇野藩は実在しない架空の藩だ。

このシリーズの第1作が「散り椿」、次いで「さわらびの譜」、

「はだれ雪」、そして「青嵐の坂」は第4作。

因みに「散り椿」は映画化され、本年9月28日に一般公開される。

「蜩の記」以来4年ぶりの葉室さんの作品の映画化。

「散り椿」の主人公、瓜生新兵衛の役は岡田准一が演じる。


映画「散り椿」の公式サイト

「青嵐の坂」では扇野藩の藩財政が破綻寸前の状況で、

古い体質を改革し、藩の立て直しに立ち向かう

若き藩士の立ち向かう姿が描かれている。

「政(まつりごと)を行うということは、

いつでも腹を切る覚悟ができているということだ。

それなければ何もできぬ」と語らせている。

扇野藩の中老・檜弥八郎は、破綻寸前の藩を救うべく、

倹約政策を断行したのだが、「黒縄地獄」と忌み嫌われ、

弥八郎は家老らの陰謀により切腹に追い込まれた。

時代は移り、弥八郎から目を掛けられていた親戚の矢吹主馬の所に

預けられていた弥八郎の娘、那美はやがて主馬の妻となり、

主馬が檜家の家督を継ぐことに。

扇野藩の新しい藩主として、若き千賀谷仲家が江戸から
お国入りする。

近習頭として従うのが檜慶之助、弥八郎の息子であり、那美の兄。

慶之介と主馬は対立の立場にあるようにお互いふるまうが、

実は目指しているところは同じ。

側用人となった慶之介だが、悪徳御用商人を刺し、自らは切腹。

古参家老二人は解任蟄居となる。


檜主馬は側用人となり、妻の那美と平穏な生活を送り始める

所で物語は終わる。

葉室ファンとして、今更ながら作品に感動させられる。

匠な筆致は実に素晴らしい。

お薦めの一作である。






by toshi-watanabe | 2018-07-04 11:41 | 読書ノート | Comments(0)


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内田康夫さんの著書「天河伝説殺人事件」を読み終える。

ご存知「浅見光彦シリーズ」の一冊。

すでに映画化されているので、映画をご覧になられている方も。

著者にとっては40作目の作品である。

初出は1988年にカドカワノベルズとして上下二巻。

今回1冊にまとめられ、角川文庫で刊行されたばかり。

880円+税。

東京新宿の高層ビルの谷間で、道行く人でにぎわう夕刻、

一人の男性が突然倒れて亡くなる。

原因不明の死に方で、警察が調べに乗り出す。

この男性、愛知県豊田市の住民で、家電メーカーの営業所勤務。

当日は大阪に出張の予定だった。

遺族も会社の同僚も不審に思う。

死んだ男の手元にはやや大型の銀製の鈴らしきもの。

「五十鈴」と呼ばれる、この鈴がその後の展開でキーワードとなる。

さて、浅見家に来客がある。

三宅譲典は光彦の亡き父親、秀一の学生時代からの親友で、

秀一の存命中は揺と仕舞いの仲間だった。

光彦の嫁さんを心配している三宅だが、

今回浅見家を訪れた目的は別の用件で、光彦への依頼だった。

それは出版社が企画した「能謡史跡めぐり」を

光彦に引き受けてほしいという話。

光彦は喜んで引き受ける。

光彦の母親、雪江や三宅がよく知っている能の水上流では、

宗家を継ぐはずだった水上和春が43歳の若さで急訃して6年、

7回忌の追善能が開かれることになる。

「二人静」を演じる「シテ」には宗家の和憲、

「ツレ」を演じるのは孫娘の秀美。

秀美には兄の和鷹がおり、和憲が引退後水上宗家を継ぐと

目されているにもかかわらず「二人静」の「ツレ」を演じず。

追善能では、「キリ」の「道成寺」を演じる。

山伏に恋した娘が山伏を追ってくる。

仕方なく白拍子姿の山伏は鐘の中に隠れる。

やがて鐘が吊り上げられると白拍子が蛇の姿に変わって

現れるという筋書きなのだが、

鐘の中からは蛇は現れず、演じた和鷹が死んでいた。

通常の死に方ではなく、警察の調べが始まる。

依頼を受けて、浅見光彦は奈良吉野の奥の天川村へ出かける。

芸能の神様として知られる天河神社がある。

土地の名前は天川(てんかわ)だが、神社の名前は

天河神社(てんかわじんじゃ)と、川と河が異なるのは興味深い。

スポンサー付きの旅なので、由緒ある旅館「桜花壇」に泊る。

実在の旅館で、作者の内田康夫さんが現地取材
の際に宿泊されている。

この奈良吉野の奥地に新宿で殺害された男性の娘、川島智春や

能の水上秀美もやって来る。
そして光彦は事件に巻き込まれ、

警察署の留置場に入れられたり。

上記の「五十鈴」は天河神社のご神体であり、

次から次と起きる事件解決の糸口となる。
水上流宗家、和憲の自殺により物語は幕を閉じる。
天河神社のことは今回初めて知り、
機会があれば訪れてみたい。















by toshi-watanabe | 2018-06-26 13:14 | 読書ノート | Comments(2)

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久し振りに、安部龍太郎さんの作品を読む。

最近角川書店から刊行されたばかりの「平城京」。

1,800円+税。

第八次遣唐使の一行は唐に渡り、無事役目を果たした。

二年後の慶雲元年(704)、帰国の途に就くことになった。

遣唐使船の船長だった阿倍船人(あべのふなひと)は、

出航の数日前に一人の老人に声を掛けられる。

白村江(はくすきのえ)の戦いで唐の捕虜になった者で、

それ以来40年近く奴婢として働かされてきた。

他にも何人かの仲間がおり、この機会に

祖国に連れ帰ってほしいと頼まれる。

彼らの釈放を蘇州の政庁に求めたものの、

逆に船人本人が捕らえられ、二年半に及ぶ抑留生活に、

そして慶雲4年(707)、無事に帰国したものの、

これが元で、朝廷により処罰を受け、逼塞していた。

そこへ、長兄(異母兄)の宿奈麻呂(すくなまろ)から

新都造営の手助けをしてほしいとの打診がある。

しかも、たった三年で、唐の長安に並ぶ新都を

奈良に建設するという大事業。

これは朝廷一の実力者・藤原不比等(ふじわらのふびと)からの

必達の命令だった。

この大事業に失敗すれば阿倍家が没落しかねないが、

白村江の戦い以来冷遇されてきた阿倍一族にとっては、

再興のチャンス、難事業を承知のうえ、船人は引き受ける。

藤原京に遷都してまだ13年、奈良(平城京)に都を造営するには、

反抗勢力があり、何かと妨害を仕掛けてくる。

まさに史上最大の国家プロジェクトであり、

土地の買収に始まり、道路づくり、河川の移動を含む開発。

1万人の人手が必要で、自宅から通える5千人の他に、

残りの5千人は、地方からかき集めねばならない。

20人が一緒に生活できる小屋を少なくとも250棟必要。

建築材料、建築職人の手当てをどうするか。

造営前の準備も困難を極める。

28歳の青年、船人は人々の手伝いを得ながら、孤軍奮闘する。


思えば現代に通じる一大プロジェクトだが、

幾多の困難を乗り越えて、タイムリミット内に

船人は見事造営を完成させる。

大変興味深く、面白く物語は進展する。

安部さんの筆力には大いに感銘を受ける。

主人公・安倍船人には5歳上の兄(三男)・船守(ふなもり)がおり、

その息子が世に名高い阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)である。

後に、船人が再び遣唐使船の船長を務め、

仲麻呂が唐へ留学する。





by toshi-watanabe | 2018-06-20 09:30 | 読書ノート | Comments(2)

最近中公文庫から出版されたばかりの
内田康夫著「坊っちゃん殺人事件」(改訂版)を読み終える。
640円+税。
オリジナルは1992年11月にノベルス版が出ている。


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内田さんご自身も書かれているが、
夏目漱石の名著「坊っちゃん」を読んでいると、
この作品が一段と楽しく読む事が出来る。
漱石の坊っちゃんは次男坊、浅見光彦も次男坊である。
光彦は愛媛県の松山に取材でやって来るのだが、
そこで巡り合う人物に、矢鱈とあだ名をつける。
「マドンナ」、「イノブタ」、「大学教授」、「ふんどしかつぎ」、
「トンカツ」、「ゲジゲジ」、「山嵐」、「うらなり」、「赤シャツ」と
見事なまでに作品に登場し、楽しくなってくる。

「坊っちゃん」には清という下女が出てくるが、
光彦シリーズでいつも登場してくるのが、
浅見家で家事手伝いをしているのが須美子。
須美子の実家から越後名物・笹飴が
浅見家に送られてくるところからプロローグが始まる。
光彦は取材のため松山に出かける。
母親からは、松山の「一六タルト」と内子の「ローソク」などを頼まれる。

岡山駅前でレンタカーを借り、瀬戸大橋を渡る。
途中、与島の「フィッシャーマンズ・ワーフ」のパーキングエリアで休憩。
そこで偶々一人の美女を見かける。
何とダークグレーのジャガーを運転している。
あとをつけているという訳ではないのだが、同じ方向に前をジャガーが走り、
あとをつける形になり、途中で交通巡査に注意されたりする。
松山に到着後も、偶然同じホテルに宿泊。
光彦は名前の知らぬ彼女に「マドンナ」とあだ名する。

母親依頼のローソクを買い求めて内子町へ出かける。
内子と言えば、芝居小屋の「内子座」。
1915年に竣工とあるから、すでに百年を過ぎている。
国の文化資産にも指定されている。
俳句の会があるということで、興味半分、光彦も内子座を訪れる。
ところが内子町の小田川付近で女性の死体が発見される。
その遺体の女性こそ、「マドンナ」、
警察署は状況から殺人事件と判断。
当時の状況から、浅見光彦が有力な殺人容疑者として浮かぶ。
遂には留置所に入れられてしまう。

悪いことに、内子座でも殺人事件が起き、
こちらの容疑者としても、光彦が挙げられる。
なかなか自由になれない光彦だが、
例の如く、実兄が警察庁刑事局長の浅見陽一郎と判明するや、
警察の対応ががらりと変わる。

光彦の勘と推理により、難事件も解決する。
思わぬ結果で終わる。

浅見光彦シリーズ、面白い一冊である。






by toshi-watanabe | 2018-06-09 10:41 | 読書ノート | Comments(2)

内田康夫さんの著書「隠岐伝説殺人事件」上・下二巻を読み終える。
1989年に刊行された作品で、この5月に光文社より、
文庫本として発刊されたばかり。
上巻:560円*税、下巻:600円+税。


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百を超える難事件を解決した名探偵、浅見光彦の最初の事件簿は、
1982年に刊行された「後鳥羽伝説殺人事件」だが、
第82代天皇、後鳥羽天皇をテーマにしている。
天皇を譲位した後、20数年にわたって上皇として院政を執り、
鎌倉幕府の混乱に乗じて倒幕を試みた。
しかし失敗、「承久の乱」により出家の上、隠岐の島に配流となった。
後鳥羽上皇は島で19年間、鎌倉幕府への恨みを抱きつつ過ごし、
島を二度と出ることはなく命を全うした。
後鳥羽上皇に纏わる数々の伝説が隠岐の島には残されている。

浅見光彦は、大学教授を筆頭とする後鳥羽上皇遺跡調査団の
一員に加わり、隠岐中ノ島へ向かう。
「旅と歴史」の藤田編集長からの依頼で、記録係として光彦は参加。
空の旅が苦手の光彦、他の団員と共に航空便で米子空港(出雲空港?)へ。
更にプロペラ機に乗り、島後の隠岐空港へ。
空港からタクシーに乗り港へ行き、フェリーに乗り、
目的地、海士町のある中ノ島へ向かう。
日本国内とはいえ、目的地に到着するまで、かなりの時間が掛かる。

隠岐の島、名前とどのあたりに位置するのかは知識があったが、
一度も訪れたことはなく、この著書を読んで、はじめて島のことがよく分かった。
隠岐は「島後(どうごと読む」と「島前(どうぜん)」の二つに分けられ、
更に「島前」は「中ノ島」、「西ノ島」、「知夫里島(ちぶりじま)」の
三つの島からなる。
四つの島と数多くの小島からなる隠岐諸島というべきだろうか。

調査団の個性ある5人のメンバーのうち、3人が遺跡発掘調査に当たり、
光彦とカメラマンは、観光も兼ねて島内を動き回る。
例の如く、次から次と事件が起こる。
団長格の教授が不慮の死を遂げ、
事故ではなく殺人ではと推測されるのだが。
この教授だけでなく、他にも何人かが亡くなり、殺人事件の疑いが生じる。
光彦も容疑者扱いされてしまうが、身元が分かり放免される。

後鳥羽上皇の存在を背景に、作者は色々な仕組みを考える。
島に漂う怨念、源氏物語絵巻という小道具、
旧日本陸軍の要塞、毒ガスなどという本当にあったような作り話が
出てきて、物語を大変面白くしている。
国宝の「源氏物語絵巻」は名古屋の徳川美術館と
東京世田谷区の五島美術館が保存しているが、
完璧にそろっているわけではない。
この作品に登場するように、
ひょっとして、国宝級の絵巻がこの世に出てきたらと思ったりする。


















by toshi-watanabe | 2018-06-05 09:25 | 読書ノート | Comments(0)


諸田玲子さんの最新作「元禄お犬姫」を読み終える。
とても面白い読み物である。

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書名の通り江戸時代、徳川五代将軍綱吉の治世で、
貞享4年(1987)、綱吉により出された「生類憐れみの令」が
時代背景となっている。

元禄8年(1695)、江戸の西部、中野の地に
「お囲(おかこい)」(犬小屋)が設けらた。
次第に広げられ、ついには30万坪に及び、
10万匹以上ものお犬様の面倒を見ていたという。
因みに現在は、中央線の中野駅から高円寺駅にかけての
広大なエリアで、中野区役所など中野区の中心地である。

中野で犬小屋支配の助役を勤めているのが森橋弾正右衛門。
父親と兄は中野を離れるわけには行かず、
森橋家の娘、知世は、母親。佐知の療養のために、
祖父、森橋善右衛門と弟。善次郎と共に小石川の剣術稽古場を営む
堀内家の離れに移り住む。
知世は、どんな獰猛な犬でも手名付けてしまうことから、
「お犬姫」と呼ばれている。
家族や道場の人々との語らいとともに、
色々な、特に犬に纏わる事件が周囲で起こる。
「お犬姫」の活躍の場面が登場する。

元禄時代と言えば、「赤穂浪士の討ち入り」。
元禄14年(1701)旧暦3月、浅野内匠頭は江戸城松之大廊下にて、
吉良上野介吉央に斬りかかり、刃傷事件を起こす。
浅野内匠頭は即日切腹、播州赤穂藩浅野家は改易、城明け渡しとなる。
そして大石内蔵助をはじめとする四十七士が
元禄15年旧暦12月(1702年ではなく1703年の1月)
吉良邸に討ち入り、主君の恨みを晴らす。
元禄16年旧暦2月(1703)、
赤穂浅野家の浪士四十七人は切腹を果たす。

この小説も、赤穂浪士の事件とともに幕を閉じる。
物語の中には、赤穂浪士の不破数右衛門、堀部弥兵衛、
大高源吾なども登場。
当時芭蕉の門弟、宝井其角が江戸の俳諧の世界では隋一の俳人として
知られていたが、大高源吾は、其角とは俳諧での交流があった。

「お犬姫」のモデルがあったのかどうかは知らぬが、
こういう女性を主人公に登場させて、
元禄時代の世相と共に物語が進行、
大変興味深い内容となっている。








by toshi-watanabe | 2018-05-30 09:46 | 読書ノート | Comments(0)