宮部みゆきさんの著書「きたきた捕物帳」を読み終える。
新しいシリーズの始まりである。
宮部さんは、ずっと書きたかった捕物帳だと語っている。
二人の若者、「きたさん」が事件を通して成長して行く物語。
PHP研究所発行、1,600円+税。
深川元町の岡っ引きで文庫屋の主、千吉親分が、
馴染みの小唄の師匠のところで、熱燗をやりながら
ふぐ鍋を喰っていたところ、中毒って死んでしまう。
享年46歳という若さだった。
文庫とは暦本、戯作本、読本などを入れる厚紙製の箱である。
文庫には家紋などが装飾されているのだが、
千吉は季節の花や縁起物の絵を貼ったりして
「朱房の文庫」と呼ばれ、評判をとっていた。
店に住み込み、文庫の振り売り(行商)をしているのが、北一少年、16歳。
3歳の折に、夕市で母親とはぐれてしまい、千吉親分が引き取り、
実子のように育てられたのが北一である。
迷子になったのか、捨てられたのかははっきりしない。
その日も文庫の振り売りに本所深川を回っていたところ、
お屋敷の前で北一は声をかけられた。
そこは小普請組頭、椿山勝元様の別邸のお屋敷で、
声をかけたのは用人をしている青海新兵衛で、
千吉親分が急死したのですぐに帰れと教えてくれた。
天秤棒や商い物は預かってくれた。
千吉親分のおかみさんは松葉と言い、千吉と同い年だ。
おかみさんは子供の頃に疱瘡に罹り、命拾いをしたものの
両目が見えなくなった。
文庫屋の商いは住み込みで商いの采配をしていた
万作と女房のおたまが継ぐことになり、
おかみさんは深川の差配人、勘右エ門、通称富勘の世話で、
冬木町のこじんまりした家に落ち着いた。
女中のおみつが一緒に移り、おかみさんの面倒を見ている。
文庫屋を継いだ万作夫婦、とくにおたまに嫌われたこともあり、
北一も店を出て、冨勘長屋に移った。
昼間の振り売りを終えると、北一はおかみさんの所へ出かけ、
風呂の釜焚きや力仕事に精を出し、おかみさんやおみつと一緒に
夕食をとるようになった。
「ふぐと福笑い」に始まり、「双六神隠し」、「だんまり用心棒」、
「冥土の花嫁」と続く。
閻魔の双六を拾って遊んでいた男の子の一人がいなくなり、
神隠しになったのではと大騒ぎ。
普段世話になっている差配人の富勘が誘拐されたり。
五本松の地主の屋敷の離れの床下から
ミイラとなった遺体が見つかり、北一は頼まれて掘り出した。
遺体とともに、真黒な天狗の顔の値付けが出てきた。
倒壊寸前で老夫婦が営む、扇橋町の湯屋「長命湯」で、
汚い恰好をして釜焚きをしている若者の
右肩に黒い天狗の顔の彫り物があると聞いて、北一は湯屋を訪れる。
若者の名は喜多次、北一と同年配だ。
喜多次の助けを借りて、冨勘を救出する。
千吉は、岡っ引きの手札を受けていたのだが、
生前、本所深川同心、沢井蓮太郎と己が亡きあとは
朱房の十手をだれにも継がず返却すると約束していた。
おかみさんの松葉や差配人の富勘、用人の新兵衛、
同心の沢井蓮太郎、それに喜多次などの支援を受けて、
北一は、いよいよ文庫商いの独立を決意する。
人情と謎解き、大変面白いシリーズのスタートである。
これからが楽しみだ。