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玉岡 かおる著「花になるらん --明治おんな繁盛記ーー」を読み終える

玉岡かおるさんの作品「花になるらん --明治おんな繁盛記ーー」を読み終える。
3年前の9月に単行本として新潮社から出版された作品で、
本年4月に新潮文庫として出版された。800円+税。


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玉岡さんの作品を読むのは、千姫の物語「姫君の賦」以来である。

あと2年で古希を迎える勢田雅(みやび)の長寿を祝って、
京都伏見街道の閑静な地に新たに建てられた勢田家別荘に、
多くの客人を招き祝宴を開く場面から物語は始まる。
招きに応じて来られた山縣有朋公から問われて、
「雅楽山荘」にしたいと、雅の次男で高倉屋の四代目、
勢田義市が応じた。
時に、明治35年10月の事だった。
「雅楽」とは、この物語の主人公、勢田雅(四代目の母親)が
幼いころに自分の名前はどう書くのだと父親に聞いたところ、
雅楽の雅と教えられ、仲間にも
「うちの名前のみやびの漢字は、””ガガッ”のガ、なんや」と答え、
いつの間にか”ががはん”で通ってしまった。
物語の中では、”ががはん”がたびたび出てくる。

祝宴の最後の客は若い女中風情で、ちりめんの風呂敷包みを置いて、
そのまま帰ってしまう。
包みを開けると中には画集があり、「月季花」とある。
1ページごとに、鮮やかな水彩の花の絵、月季花とは薔薇の事で、
季節なしに咲くことから月季花と呼ばれる。
画集の最後には、碧龍とある。
この謎は物語の最後に判明する。

勢田雅が娘の孝子に問われるまま、
時代をさかのぼり、女手一つで苦労した昔ばなしが始まる。
雅の父親は勢田家に婿入り、商売替えして呉服屋に、
烏丸松原に店を構え。初代儀一を名乗った。
雅には男兄弟がおらず、妹のおきぬとの二人姉妹。
跡取り娘として、雅は婿の鉄太郎を迎えた。
二代続いての婿取りである。
丁稚奉公から鍛えた鉄太郎で、義父の初代儀一からも目をかけられていた。
その一方で、子供の頃から商売に関心の強かった雅も商売人そのもの。
何かと口出しをする雅に鉄太郎、二代目義市一も気苦労。

元治元年(1864)、蛤御門(禁門)の変が起こり、
兵火により京の街は焼け野原に、高倉家の家屋も全焼。
かろうじて別の場所の倉だけが焼かれずに済み、
何とか商売が続けられた。
他家に嫁入りしていた、妹のおきぬも焼きだされ瀕死の重傷、
身ごもっていた赤子は無事出産したものの、
おきぬ自身が病弱で、子供が女の子ということで嫁ぎ先あら追われ、
雅が二人を引き取る。

修行のため近江へやられた長男の礼太郎は元々蒲柳の質で、
病を得て自宅に戻ってくる。

さらに追い打ちをかけるように、雅の夫、二代目義市が
有馬温泉の宿で心臓麻痺により急死。
それも島原一と知られる太夫が一緒だったという。
しかも二人の間に男の子がいることが分かった。
仁三郎と言い、家に引き取ることに。

雅は物を見る目は確かであり、新しいものへの関心も強く、
商いの幅をどんどん広げて行く。
特に明治に入り、海外との交流が盛んとなり、交易も進む。
神戸に出かけ、外国人商人との接触を図り、
積極的に海外で喜ばれる品物、デザインなどの情報を手に入れる。
明治10年(1877)、京都で開催された博覧会では出品受賞。
明治18年(1885)にはロンドン万国発明品博覧会に出品。
会社内には、デザインを手掛ける部門や貿易の部門を設けたり。

三代目義市を継いだ長男の礼太郎は生涯病床で過ごし、
高倉家の経営は雅が長いこと頑張ってきたが、
次男の智次郎が四代目を継いだ。

娘の孝子の息子で、雅にとっては孫の恵三が絵を学びに画塾に行きたいという。
画塾の師匠は若い画学生で、碧龍と名乗る。
雅はやっと思い出す。
妹のおきぬの孫娘に間違いないと。

物語る終盤の文章をそのまま列記したい。

古来稀なる道を生き、そしてまた巡り来る、えにしの花。
今、みやびには、あの歌の下の句が見事に完結するように思われた。
季節がいくつ移ろうとも、そのつど咲かす新しい花。
自分がいなくなっても、残る地面にその花は咲く。


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この物語に出てくる「高倉屋」とは百貨店の高島屋の事である。
主人公の勢田雅は実在の人物、飯田歌子をモデルにしている。
飯田歌子に関する資料はほとんど残っいないようだ。
明治40年に76歳で亡くなられた。
この物語はあくまでも小説であるが、
時代の流れは史実に添って語られている。
飯田家の家紋が、高島屋で使われており、
碧龍が好んで描いた薔薇の花が高島屋の包み紙のデザインに使われている。
因みに、仁三郎がトップを務めることになる貿易部門は、
後に貿易商社、丸紅飯田、丸紅となる。

面白く読めたし、大変興味深い内容になっている。








Commented by semineo at 2020-05-06 11:27
こんにちは~
長い自粛暮らしが続き、読書をゆっくりと楽しめる時間も多くなりました。
私も本棚から昔の本を出し、寝る時に読む習慣になりました。

花になるらん、実話の小説ですね。
実話物語が大好きで、宮尾登美子をよく読んだものです。
詳しいあらすじを書いて下さり、読んでみたくなりました。
この時期がネット注文が良いですね。
Commented by toshi-watanabe at 2020-05-06 13:45
semineoさん、
こんにちは。
早速のコメントを有難うございます。
テレビばかり見ているわけに行かないので読書です。
書店で新刊書を眺めて買い求めていたのですが、今回は通販で4冊ばかり購入しました。
その1冊目です。
幕末から明治にかけて生き抜いた女傑の一人なのでしょうね。
Commented by banban0501 at 2020-05-06 14:16
高島屋のお話なのですね
老舗を守って育てた女の一代記もの
私は こういう物語がすきです

粗筋を紹介してくださることは
購買意欲をかりたてます
アマゾンで注文してみよう!!
Commented by toshi-watanabe at 2020-05-07 08:56
banbanさん、
早速のコメントを有難うございます。
高島屋の創業について、この作品で初めて知りました。
私もこういう話は大好きです。
ぜひお読みになってください。
コロナは大丈夫でしょうか。
どうかお元気で!
by toshi-watanabe | 2020-05-06 10:41 | 読書ノート | Comments(4)

日々見たこと、 感じたこと、気づいたことをメモする


by toshi-watanabe