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葉室 麟著「星と龍」を読む

最近出版されたばかりの葉室麟さんの著書「星と龍」を読む。


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2年前の12月23日、66歳の生涯を閉じた葉室麟さんの
絶筆となった作品である。
2017年初めに発病され、その後病床にありながら、
この作品を手掛け、「週刊朝日」の同年4月14日号から連載が始まり、
11月24日号が最後となる。
未完の作品となる。
朝日新聞出版、1,700円*税。

鎌倉時代末期から南北朝時代に活躍した楠木正成が主人公。


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皇居外苑に立つ楠木正成の像



「星と龍」という書名だが、
理想の象徴としての星である後醍醐天皇と
天に駆け上がろうとする龍に見立てた楠木正成をさしている。
夢に生き、夢に死のうとも、正義だけは失わぬ正成は、
後醍醐天皇を奉じ、大塔宮(護良親王)と連携する姿が描かれる。
鎌倉幕府の大軍を迎えて少数の籠城兵力で戦う、
世に名高い千早城の合戦なども登場する。

作品の終わりは、楠木正成が夢窓疎石のもとを訪ねる。
茶室に入ると夢窓は清雅な佇まいで茶を点てながら
「さて、楠木殿は帝(後鳥羽天皇)と足利(尊氏)が争えばいずれにつかれる」と訊いた。
ここで筆は置かれている。
楠木正成の最期までは描かれず仕舞いとなる。
誠に残念である。

安部龍太郎さんが「夢と希望と作家の祈りと」と題して、
18頁にも及ぶ解説(あとがき)を書かれている。
これがとても素晴らしい内容だ。
年齢的には安部さんが葉室さんより5歳ほど若いのだが、
文壇デビューは安部さんの方が早い。
葉室さんが小倉生まれ、安部さんが八女市生まれと同じ九州の出身。
安部さんが葉室さんを心より尊敬しておられるのが良く分かる。

解説の最後の部分をそのまま引用させていただく。

葉室さんが楠木正成を描いたのは、夢と希望を持ち、
正義のために戦いつづける漢(おとこ)を書いてみたかったからかもしれない。
今や世の中は大変複雑になり、夢も希望も持てなくなっている。
日々殺伐としたニュースが流れ、多くの人々は身を守ろうと小さくちぢこまっている。
フェイクニュースやヘイト発言も飛び交っている。
こうしたご時勢だからこそ、夢と希望を持って快活に生きる漢を描いて、
読者に楽しんでもらいたい。
葉室さんはそう願い、祈るような気持で一行一行をつむいでいかれたのではないだろうか。

絶筆、物語が途中のままという作品で誠に残念だが
大変興味深い、いかにも葉室さんらしい、素晴らしい作品だと思う。
ほとんど一気に読み終えてしまう。






by toshi-watanabe | 2019-11-29 10:04 | 読書ノート | Comments(0)

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by toshi-watanabe