木内 昇著「火影に咲く」を読み終える


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木内昇(きうち・のぼり)さんの著作「火影(ほかげ)に咲く」を読む。

「小説すばる」に掲載された6作品をまとめて、

今回ハードカバーで集英社から出版された。

1,600円+税。

幕末活躍した人物が登場する短編集である。

この著者の作品を手にするのは初めてだが、

歴史・時代小説の優れた作家の一人だと思う。

「紅蘭」。

詩人・梁川西巌(やながわせいがん)の奥方が物語の主人公。

幼名は稲津きみ、そして張紅蘭と号した。

西巌は頼山陽を師と仰いでいた。

西巌の主催する梨花村草舎に顔を出した紅蘭は、

すっかり漢詩に取り憑かれてしまう。

西巌が亡くなった後、尊攘派の疑いをかけられた夫の身内として、

捕縛されるが、やがて保釈される。

後年、紅蘭は西巌が残した市の編纂に没頭し、「西巌遺構」を上梓する。

「薄ら陽」。

長州藩士・吉田稔麿は久坂玄瑞等と共に京で活動。

会合に使っていたのが、三条縄手通りの料亭「小川亭」。

そこで若女将のていと知り合い恋仲になる。

「日なたにある者が、わざわざわしのような影に潜ることはないんじゃ」

と、ていの望みを断ち切る稔麿。

「吉田はんは影やおへんえ」とていは控えめN声で言うのだが、

稔麿は応えず。

池田屋の二階で、宮部鼎三をはじめ20名ばかりの壮士が

集まっているところへ、御用改めと、近藤勇以下の新選組に襲われ、

多くの命を失う。

世にいう「池田屋騒動」である。

利麿は何とか逃げ、藩邸に駆けつけるものの、

城戸に閂が掛かっており屋敷に入ること叶わず。

その場で自刃して果てる。

「呑龍」。

新選組の沖田総司が物語の主人公。

新選組副組長の土方歳三が総司の病を心配して、

碓井良庵なる町医者を探し出し、総司はその町医に時折通う。

診療所でよく顔を合わせるのが、お布来(ふき)さんという

年齢のよくわからない女性。

診療部屋でも威勢のいい啖呵を切る、この女患者さん、

総司に「呑龍」とあだ名をつける。

呑龍とは、浅草の奥山で興行していた舌耕芸人の名前だという。

布来は作り話を総司に語り、総司もその話を信じてしまう。

この物語は実に面白い。

短編ながら、素晴らしい作品に仕上がっており、

読者をひきつけてしまう。

この身寄りのない女の遺骨を引き取り、壬生の光縁寺に墓を建てる。

総司は墓参りをするところで物語は終わる。

「春疾風」。

祇園新地の置屋「島村屋」の君尾が芸子に出て、評判をとる。

この一番の芸子の心をとらえるのが、長州藩士・高杉晋作。

晋作は京から江戸行きとなり、その代わりに登場するのが、

同じ長州の井上聞多、二人はすっかり意気投合。

やがて聞多も去り、次に君尾の前に現れるのは長州の品川弥二郎。

明治に入り、弥二郎の子を産む君尾だが、見受け話を断り、

子を育てながら独り身を通す。

君尾の心の奥深くに残るのは晋作だったのだろうか。

剃髪して「東行春風じゃ」と高らかに笑った晋作の顔を

思い浮かべる君尾。

この作品も、心温まる素晴らしい作品だ。

「徒花」。

土佐藩士・岡本健三郎は、京に上り、藩邸近くにある、

河原町四条下ルの売薬商・亀田屋が宿泊先となる。

この宿には美貌で評判のタカがいる。

坂本龍馬や中岡慎太郎が登場する。

健三郎はすっかりタカといい仲になる。

近江屋で竜馬と慎太郎が落合い、健三郎も同席するのだが、

用事があると席を立つ(タカとの約束があり)。

ところが、竜馬の用心棒役だった健三郎が近江屋を発った後、

龍馬と慎太郎の二人は刺客に襲われ、命を落としてしまう。

下手人は誰とも知れず。

タカが絡めてくる手指を邪険に払い、

「すまんが、ひとりにしれくれんかえ」と声を上げる健三郎。

「光華」。

薩摩の藩士、中村半次郎の物語あり。

西郷隆盛や長州藩士・品川弥二郎も登場する。

四条小橋東詰に暖簾を出している村田煙管店に

弥二郎は立ち寄り、店内に足を踏み入れるわけではなく、

土間の縁台で店の者と世間話を交わす。

この店にさとという娘がおり、いつの間にかいい仲となる。

さとの父親からも縁談の話を持ち掛けられるが、

己の行く末を感じ取っている半次郎は首を縦に振らない。

思い立って、半次郎をさとを連れて、大阪屋という写真場へ、

そこで二人の記念写真を撮影してもらう。

最後はお互いに心にもない言葉を交わして別れて行く。

感動的な短編集で、お薦めの一冊である。






by toshi-watanabe | 2018-07-30 11:26 | 読書ノート | Comments(0)