内田 康夫著「不等辺三角形」を読み終える

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内田康夫さんの著書「不等辺三角形」を読み終える。

幻冬舎文庫、650円+税。

どうも妙な題名である。

二等辺三角形と正三角形を除けば、

どの三角形も不等辺三角形であり、あえて不等辺三角形というのも面白い。

この不等辺三角形が出てくるのが丁度小説の真ん中あたり、

やっと題名の意味が分かってくる。

先ず登場するのが「陽奇荘」、

正岡家という、名古屋で一、二を争う富豪の別荘である。

戦災で本宅が消失して以来、正岡家は四十数年にわたって、

住居として使用していたのが別荘の陽奇荘。

その後、新たに本宅が再建されて、家族全員が移転した。

以来二十年間、空き家状態になっていたが、

管理人などが陽奇荘の保全管理を続けていた。

家具などすべて処分されたのだが、唯一、仙台箪笥が

地下室に残されていた。

この仙台箪笥が、これから起こる殺人事件に絡んでくるのだが、

先々代の奥様が嫁入り道具として持参した品物で、

一番大事にしていて、ここに残しておいてほしいとの遺言。

40歳代の半ばで他界したのだが、箪笥のところにその奥様が現れるという

噂話が出て、幽霊箪笥と呼ばれるように。

宮城県の東松島市にある井上箪笥工房のところに箪笥の修理依頼が届く。

仙台箪笥の腕の良い職人と知られる工房の主は

娘を伴い、名古屋の陽奇荘まで車で箪笥を引き取りに行く。

東北地方の箪笥と言えば、岩手県の岩屋堂の桐箪笥がよく知られるが、

仙台箪笥も欅づくりの素晴らしい和箪笥である。

取り付けられた金具が精巧な作りでこれまた素晴らしい。

著者は、陽奇荘のある名古屋、仙台箪笥の工房がある奥松島、

それに正岡家の先々代の奥様の出身地、宮城県の丸森町、

この三か所を頂点とする、不等辺三角形をイメージして書き始めたらしい。

奥松島とは、観光地として名高い松島の奥に位置する東松島市にある、

風光明媚な海岸沿いである。

丸森町は宮城県の最南端で、福島県に接し、近くを阿武隈川が流れる。

現在観光地としても知られる。

だが著者は小説を書いている途中で、三角形のイメージをがらりと変える。

問題の仙台箪笥には隠し棚があり、1枚の紙きれが入っていた。

そこには漢詩の手書きがあり、さらに隠し棚の蓋の裏側には、

「不等辺三角形之重心」と記されていた。

ここから謎解きが始まるのだが、二件の殺人事件が発生する。

中川区にある松重閘門で遺体が発見される。

殺害されたのは、自発的に陽奇荘を管理していた、古くから正岡家に

仕える男で、仙台箪笥を引き渡した、その日の夜に事件は起きていた。

その後、問題の仙台箪笥を見せてほしいと奥松島の箪笥工房を

訪れた男も、近くの野蒜海岸で遺体で発見される。

正岡家の主が浅見陽一郎を訪ねてくる。

2人は大学時代の同級生の仲。

正岡家が所有している陽奇荘の箪笥に絡んでの殺人事件発生に

余り公にしたくなく、警察とは別に、陽一郎の弟に調査をしてほしいとの依頼。

我が名探偵、浅見光彦の登場となる。

浅見光彦は依頼を引き受け、名古屋市東区白壁の高級住宅街にある

正岡家を訪れて、度肝を抜かれる。

一室を与えられ、陽奇荘を調べ、さらに奥松島、丸森町と

足を延ばして、警察署とも連絡を取りながら調査を続ける。

漢詩とは、

   春 水 満 四 澤

   夏 雲 多 奇 峰

   秋 月 如 陽 輝

   冬 嶺 秀 孤 岩

手書きをしたのは、陽奇荘に滞在したことのある

汪兆銘だろうと推測され、陽奇荘の庭園で三角形の重心にあたる部分に

何か重要なものを埋めて隠したのではないかと思われる。

これも謎解きである。

作者の内田さんは、5年にわたり現地を訪れている。

名古屋の陽奇荘は実在し、松坂屋の初代社長、15代伊藤次郎左衛門祐民の

別荘で、「揚輝荘」というのが実際の名称である。

現在は整備されて一般公開され、文化的なイベントなども開催されている。

千草区覚王山の閑静な丘陵地にある。

最初に建てられてから100周年を迎える。

因みに上坂冬子さんが著書「揚輝荘、アジアに開いた志 

選ばれた留学生の館」を出されている。

浅見光彦探偵の推理と行動力、いつものことながら面白く、

ついつい読み続けてしまう。

一緒に推理しながら読むのも楽しみである。

私自身、松島へは何度か訪れているが、奥松島を訪れたことはない。

ご存知の通り、東日本大震災では巨大津波により大きな災害を受けている。

モデルとなった、仙台箪笥の工房の皆さんも大被害を受けたが、

無事に過ごされているとのこと。

元の町並みが戻るのを祈るばかりである。

修理を終えた仙台箪笥は車で名古屋まで届けられるのだが、

その途中東京の浅見家に立ち寄り、光彦を含む浅見家の人たちは、

その素晴らしい箪笥に目を奪われる。






by toshi-watanabe | 2017-09-29 15:20 | 読書ノート | Comments(0)