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葉室 麟著「嵯峨野花譜」を読む

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葉室麟さんの最新作「嵯峨野花譜」を読む。

江戸後期の京都、

四季折々の美しい花に彩られた少年僧の成長物語。

丁寧に書かれた、感動の作品である。

華道流派、未生流の二代目当主不濁斎広甫が

真言宗大覚寺派大本山の大覚寺の花務職に任じられた翌年、

40歳の頃、この物語は始まる。

直ぐ近くには嵯峨野の大沢池があり、

池畔には、活花に活ける草花や花木が見られる。

大覚寺はかって嵯峨御所とも呼ばれ、

嵯峨天皇の皇太子時代の山荘だった。

その後、離宮となっていた嵯峨院を皇女である

淳和天皇皇后正子が寺院とした門跡寺院だ。

広甫(こうほ)の元には、20歳を過ぎたばかりの3人の門人、

立甫、祐甫、楼甫の他に、まだ10代半ばの幼さの残る

少年僧、胤舜(いんしゅん)、さらに30代後半の寺男源助。

胤舜がこの物語の主人公で、もともとは武士であった源助が

何かと胤舜の手助けをする。

年若くして活花の名手と評判の高い胤舜をめぐって

10章の物語が展開する。

1. 忘れ花

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   白磁の壺に、松の枝と二輪の白椿を活ける。

   胤舜は別れ別れになっていた母親の萩尾を目の前にして。

2. 利休の椿

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   常滑の大壺を広間に置いて蝋梅を活ける。

   日を改め、床の間の竹の花入れに淡紅色の椿をさりげなく。

3・ 花くらべ

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   公家の橋本家姉妹との花くらべ。

   活ける花は枝垂れ桜と山桜。

   姉の伊与子は大奥として第11代将軍家斎から

   第12代将軍家慶の治世まで務め、

   姉小路局として君臨する。

   妹の理子は水戸家の奥女中として活動、花野井と名乗る。

4. 闇の花

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   闇の中で竹筒の花入れに手探りで山梔(くちなし)の花を活ける。

   客人は目が見えない。

5. 花筐(はながたみ)

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   青銅王子形水瓶に桔梗を活ける。

   万葉集では、桔梗のことを朝顔の花という。

   ところが客人は活花を台無しにしてしまう。

   日を改めて、萩の花を活けるも、これも台無しに。

   また翌日、雁金草を活ける。

   桔梗同様に、雁金草にも別の呼び名があるのではと

   胤舜が聞くと、雁金草は帆掛船のような花の形をしているので。

   そこまで聞いて、胤舜は曾祖母の房野と確信する。

   母、萩尾の祖母に当たる。

6. 西行桜

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   胤舜は師の広甫から西行法師の桜を活けよ、と難題を与えられる。

   白磁の壺に桜の一枝だけを活ける。

   桜は未だ花弁を開いていない、蕾のまま。

7. 祇王の舞

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   江戸城西の丸、水野忠邦の家臣、椎葉左近と名乗る武士が、

七人の伴を連れて、大覚寺を訪れる。

祇王寺で床の間の青磁の壺に青紅葉の一枝を活ける。

左近と名乗った武士は偽名で、実は水野忠邦本人。

胤舜にとっては実の父親で、妻の萩尾の様子を見に来たもの。

忠邦は肥前唐津六万石の藩主だったが、出世街道に乗り、

身内のものを犠牲にしてまでも、西の丸老中に上り詰めた。

天保の改革でよく知られている。

萩尾は水野家に奥女中として仕えていた時に、

忠邦の手がつき、生まれたのが胤舜だった。

8. 朝顔草紙

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   竹筒に、まだ瑞々しく咲いている青い朝顔を活ける。

   十字の枝に朝顔の蔓が巻き付けられ、ちょうど十字の結び目

   あたりに朝顔の花が来ている。

9. 芙蓉の夕

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   大覚寺の庭先で摘んだ酔芙蓉の花を仏壇の供花として活ける。

10.花のいのち

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   大覚寺に引き取られた胤舜の母、萩尾は重篤な容態が続き、

   いよいよ最期の時を迎える。

   仙洞御所にて、光格上皇主催の立花会が催される。

   未生流を代表して胤舜が参加する。

   青竹の筒に白萩を活けた活花が上皇の目に留まる。

   傍らに置かれた短冊には「泰山府君」とある。

   胤舜の活花が第一番に選ばれ、宴席が開かれるが、

   「そなたの思いを母は知らねばならぬ時が近づいているようじゃ」と、

   帝の言葉を聞いて、胤舜は、はっとして大覚寺へ急ぐ。

萩尾の死後2カ月たって、水野忠邦が墓参りに
   大徳寺を訪れる。
   胤俊は母からの遺言があるからと、奥の部屋に忠邦を案内。
   鉄瓶に柘植の枝を入れ、それに絡めるようにして、
   白菊が活けられている。
   萩尾への手向けの花かと、忠邦がつぶやくと、
   胤舜は、影向の花でもございますと、応じる。

この作品は、2015年から2017年にかけて、

「オール読物」に掲載されたもので、今回単行本として、

文芸春秋から出版された。

1,700+税。

お薦めの葉室作品の一冊である。






by toshi-watanabe | 2017-08-03 08:54 | 読書ノート | Comments(0)

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by toshi-watanabe