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秋山 香乃著「龍が哭く」を読む

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秋山香乃(あきやまかの)さんの最新作「龍が哭く(なく)」を読む。
PHP研究所出版、¥2,100+税。

525ページに及ぶ大作である。

20152月から20173月まで、新潟日報など10紙で連載された話題作。

主人公は、新潟特に長岡出身の方ならだれでもよくご存知の河合継之助、

幕末困窮を極めた長岡藩を立て直した人物である。

著者は1968年、北九州市生まれ。

2001年、「歳三 往きてまた」でデビューし、

新選組関連をはじめ時代小説を数多く書かれている。

因みに秋山さんは柳生新陰流居合道の四段である。

黒船来航前の嘉永3年(1859)、24歳の継之助は

16歳のすが子と夫婦となる。

すが子の実家、梛野家(なぎのけ)に縁談の話が持ち込まれたとき、

すが子は自分の将来の夫が、城下でも大変な変わり者で

通っていることを知っていた。

継之助の父、河井代右衛門は長岡藩庁に勘定方として出仕していた。

継之助26歳の折、すが子を家元に置いたまま、江戸へ飛び立つ。

江戸遊学2年目、27歳の継之助は建白書が認められ、

家老を補佐する立場の評定方随役に大抜擢される。

藩政の愚を激しく批判し、時事を論じ、現状に沿った

改革案を述べた本人にとっては、驚きでもあった。

思い切った人材登用を断行した越後長岡藩藩主の期待に応えるべく

気負ったものの、何の力も発揮できぬまま、

あっと言う間に辞職に追い込まれる。

門閥の家老たちが、ことごとく継之助を無視したためだ。

藩の許しを得て、継之助は山田方谷の教えを乞うべく、備中松山へ向かう。

百姓の出自である方谷は、非協力的な環境、四面楚歌の中を、

松山藩の財政赤字を黒字に見事な逆転劇を演じた。

いったいどうやって己の理想を実際の政の中に落とし込み、

腐りかけた藩を、一つ一つどうやって方谷が変えていったのか、

継之助はどうしても知りたかった。

方谷の意見を取り入れて、支援した第7代藩主板倉勝静の力が大きかったが、

方谷の進め方を継之助は学び、納得する。

因みに、板倉勝静はのちに江戸幕府の老中首座となる。

方谷の元を訪れる数多くの人物との巡り合いにより、

新たな知識や情報を得た継之助は長崎を訪れる機会もあり、

多くの知己も得られる。

江戸に戻る折には横浜に立ち寄り、海外から押し寄せる

新たな展開を目の当たりにする。

文久4年(2月に元治元年)(1864)、継之助は38歳、

山田方谷のもとを訪ねてから4年半が過ぎていた。

そんな継之助のもとに、越後長岡第11代藩主、牧野忠恭(ただゆき)から

「江戸へ出て、我が為に尽力せよ」と声が掛かった。

その後一度は挫折、辞職するものの、

国家老に呼ばれ、外様吟味役を申し付けられる。

およそ1年ぶりのお役目復帰である。

こののち継之助は藩の改革のために生涯を尽くす。

外様吟味役から、郡奉行、町奉行、そして年寄役(中老)、

家老、長岡藩家老上席まで上り詰める。

その間、風紀粛正、農政改革、灌漑工事、兵制改革を実施、

藩の財政を見事立て直す。

ところが外国からの開国要求が強くなる一方で、

徳川幕府15代慶喜による太政奉還が行われ、

力をつけた薩長を中心とした新政府軍の勢いに江戸城開城となる。

長岡藩を独立した形で存続するのを継之助は目指すのだが、

新政府軍との話し合いは決裂する。

会津を中心として奥州列藩同盟との戊辰戦争に突入。

長岡では北越戦争が始まる。

河井継之助の指揮のもとに、新政府軍との戦いに入るが、惨憺たる姿で敗れる。

新政府軍に略奪された長岡城を何とか取り返すものの、

軍事力の差はあまりに大きく、長岡藩は新政府軍に敗れる。

戦の際の負傷が元で、継之助は41歳の若さで命を落とす。

長岡藩を見事に立て直した河井継之助なのだが、

長岡の街をすっかり廃墟と化してしまった戦争責任者として、

継之助を非難する声は今も一部に残っていると聞く。

河井継之助を取り上げた小説は数多くある。

その中でも傑作は、司馬遼太郎の「峠」だろう。

読み比べてみるのも面白い。





Commented by Jun at 2017-08-04 13:16 x
河井継之助と言うとやはり「峠」で知ってました。
でも去年姉にもらった秋山香乃さんの「五稜郭を落とした男」にも彼について書かれていました。こちらでは主人公が山田顕義(市之允)なんですが、司馬遼太郎と違う見方で河井継之助を見てまた興味を持ちました。
作者も、もっと継之助の事を書きたくなったのですね、きっと。
姉がこれも読んだか聞いてみます^^

Commented by toshi-watanabe at 2017-08-05 09:11
Junさん、
コメントをいただき有難うございます。
秋山香乃さんの「五稜郭を落とした男」にも河井継之助が登場していましたか。
この作品は読んでいません。
著者はあとがきの中で、こう書かれています。
「書き出す前より、ずっと継之助のことが好きになっていました。 長い時間ずっと継之助の心情を想像して寄り添う内に、意気込みは二の次で、ただもう等身大の継之助を描いていきたいと願うようになりました。
Commented by やぶひび at 2017-12-28 16:11 x
亡父が小千谷出身なので、河井継之助の事は聞いていました。
「峠」は、大河ドラマ「花神」の原作本の1冊でした。
ドラマ前にも、長岡駅ビルの書店に単行本が目立つように置いてありました。
「峠」では、河井継之助の死で終わりでしたが、
「龍が哭く」では、奥方様のその後が書かれています。
単行本化される前から、国会図書館の新聞閲覧室に通って、新潟日報を読んでいました。
中村麻美さんの挿絵も楽しみでした。
Commented by toshi-watanabe at 2017-12-29 09:06
やぶひびさん、
コメントをいただき有難うございます。
新潟日報の連載を読まれていたのですね。
新聞ではどうか知りませんが、本書では「峠」同様に河合継之助の死で終わっています。
by toshi-watanabe | 2017-07-29 09:00 | 読書ノート | Comments(4)

日々見たこと、 感じたこと、気づいたことをメモする


by toshi-watanabe