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梶 よう子著「葵の月」を読む

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梶よう子さんの作品を初めて読む。
最近、角川書店から出版されたばかりの「葵の月」である。

第10代将軍家治の長男、徳川家基は幼くして文武に優れ、
いずれは家治の跡を継ぐと目されていた。
ところが安永8年(1779)鷹狩りに出かけた帰りに立ち寄った
品川の東海寺(この作品では海晏寺)で突然、体の不調を訴え
3日後に亡くなった。
毒殺説が語り継がれているが、享年18歳(満16歳)の若さだった。
「幻の第11代将軍」と呼ばれる。
当時江戸幕府を牛耳っていたのは、老中田沼意次。
若き家基は意次の政策に批判的であったと言われる。

家基の毒殺をテーマとして、
そのテーマをバックに進展する人たちの物語である。
書名の「葵」は徳川家の紋どころ、徳川家を象徴しているのだろう。
「月」はこの物語に登場する人々の人生を照らし出す月の意味だろう。
目次をそのまま転記すると、

 昼月。。。。。。。。。。。立原志津乃
 月日星。。。。。。。。。.水沢孝安
 最中月。。。。。。。。。 新助
 月帰り。。。。。。。。。。池原雲伯
 雨世の月。。。。。。。。高階信吾郎
 有明の月。。。。。。。。塚本平八
 葵の月。。。。。。。。。。坂木蒼馬

志津乃は立原家の一人娘、許婚の蒼馬と一緒になる日を
夢見ていたのが、家基の死後、突然出奔行方をくらます。
志津乃は医師を務める叔父の孝安の家に出かけては
医療の手伝いなどをする。
幼いころから立原家で育てられていた平八は
志津乃を姉のように慕い、いつも志津乃のお供をする。
蒼馬は元西丸書院番を務めていた。
剣術に優れ、道場で同門で好敵手だったのが信吾郎。
信吾郎の上司だったのが志津乃の父親立原惣太夫という関係で、
お互いに顔なじみである。
蒼馬と信吾郎は、それぞれある上部の人間から特命を受けて、
誰にも漏らさず隠密に家基毒殺の真相を見出すべく奔走する。
蒼馬が姿を消した後、志津乃の父と継母は信吾郎との縁談を進める。
医師の雲伯は孝安とは一緒に医学を学んだ間柄、
今では出世して奥に出入りしている。
雲伯が調合した毒で家基が殺害されたのではと疑われている。

家治、家基の血筋は絶えたものと思われていたのだが、
家基が鷹狩りの折に知り合った小間物屋の娘との間に
一子が誕生していた。
元次という男子だったが、「おもと」と呼ばれて
女童として育てられている。
ところが生まれつき眼病を患い目が見えない。
元次は何とか命拾いして、眼病治療のために長崎に向かう。

こうした事件の背景にあるのは、お家騒動の一つ。
8代将軍吉宗の孫にあたる、
御三卿一橋家第2代当主、徳川治済は嫡子の
豊千代を第11代将軍に付かせる野望を抱いている。
同じく吉宗の孫にあたる松平定信も老中意次を面白く思わない。
意次を追い落とそうとする二人の画策があったのかもしれない。

その後いろいろと物語は進展するのだが、
信吾郎は命を落とし、蒼馬はめでたく志津乃と夫婦となる。
豊千代が徳川家斉と名乗り、第11代将軍に付く。
松平定信が老中筆頭に。

人間関係をしっかり頭において読む必要があるが、
途中まで進むと、すっかり物語に没頭し、
最後まで息つく暇なく読める面白さである。




by toshi-watanabe | 2016-07-31 11:15 | 読書ノート | Comments(0)

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by toshi-watanabe