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伊東 潤著「横浜1963」を読む

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伊東潤さんの新作「横浜1963」を読む。
横浜生まれ横浜育ちの伊東さんは、
歴史小説を執筆されている作家として売り出し中。
今年5回目の直木賞候補として、
秀吉と利休を描いた新作「天下人の茶」が挙げられている。
今月19日の選考会で受賞が期待される。

歴史小説作家の伊東さんが、社会派ミステリーに初挑戦。
見事なハードボイルド作品に仕上げられている。
1963年は東京オリンピックの前年に当たる。
横浜でも、桜木町から磯子までの根岸線の一部が開通に向けて、
建設工事真っただ中の時代である。
この区間は予定通り1964年に開通を見る。
その後根岸線は大船まで開通し、現在では京浜東北線の一部に。

米軍の横須賀基地に近く、横浜には駐留米軍兵士用の住宅が建てられ、
米軍兵士とその家族が大勢住んでいた。
米軍兵士と市民との間にはなにかとトラブルが発生し易い雰囲気の中、
1963年横浜港で若い日本人女性の水死体が発見される。
現場近くの波止場で、大型の白い外車
(後で、ポンティアック・テンペストと判明)に
米軍将校と日本人女性が同乗していたとの目撃情報。
特命を受けて犯人捜しの内密の捜索に当たるのが、
神奈川県警外事課勤務のソニー沢田。
大学も出ていないソニーが警察組織に
迎え入れられたのには理由があった。
米国人の父親と日本人の母親(売春婦)を持つハーフのソニー、
見た目は白人で通り、英語力とその外見を買われて警察官に採用された。

日本は敗戦、そして米軍の進駐以来、米兵の無法は
当時猖獗を極めており、その被害は一般市民にまで及んでいた。
野毛や根岸では、酔った米兵の喧嘩や飲食代の踏み倒しが
日常茶飯事のように起こっており、その度に警察官が出動するものの、
逮捕できず、MP(Military police)を呼ぶだけだった。
殺害された日本人女性の身元は判明するが、
限られた状況の中で、一人黙々とソニーは捜索せざるを得ず、
仮に犯人の目星がついても、内密に基地のNIS
(Naval Investigative Service)に伝え、
当人を故国に送還してもらうしかない状況だった。

ソニーに思わぬ協力者が現れる。
横須賀基地勤務の兵曹長(Chief Petty Officer)、
ショーン坂口で、こうした事件の窓口となっている。
ショーンは日系三世、国籍は米国人、
戦時中戦後の厳しい状況で育った日系人のショーンは、
亡くなった父親から、白人には決して逆らってはいけないと、
繰り返し強く言われてきた。
それでも日本人の血が騒ぎ、上司の指示に逆らい
陰でソニーを協力するように。

第2の殺人が発生、またもや若き日本人女性が犠牲に。
犯人は同一人物と目星がつき、物的証拠探しも。
大型車ポンティアック・テンペストの持ち主が
間違いなく二つの殺人事件の犯人だと判断され、
ショーンは上司に報告するのだが、
犯人らしき人物とショーン自身が上からの命令で
ベトナムのサイゴン基地に転属される羽目に。
当時ベトナム戦争の最中、米軍が現地で戦っていた。

ところがポンティアック・テンペストが、
第3の殺人に向けて、若い日本人女性を乗せて基地から横浜の街へ。
ポンティアック・テンペストの元の持ち主を犯人だとしていたのは
大きな間違いを犯していたと、ソニーは気が付き、大型車を追跡する。
そして真犯人を追い込むのだが。

当時東京オリンピックに向けて、地球規模での衛星テレビ放送の
実験がちょうど始まり、米国からの中継が日本に
送られてくるのだが、その中継は誰も予想しなかった、
米国ケネディ大統領の暗殺事件だった。

この作品を読みながら、
最近沖縄で起きた米軍の軍属による日本人女性の殺害事件を思い出し、
沖縄ではまだ戦後をそのまま引きずっていいるのだと、
改めて考えてしまう。
米軍基地の問題、そして主人公として登場する日米ハーフのソニーと
日系三世のショーンの設定、二人が日米二つの祖国に
揺れ動くシチュエーション、大変興味深い。
読み応えのある作品である。




by toshi-watanabe | 2016-07-12 09:27 | 読書ノート | Comments(0)

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