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葉室 麟著「千鳥舞う」を読み終える

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1月に出たばかりの徳間文庫の一冊、「千鳥舞う」を読み終える。
またまた葉室麟さんの著書である。
この作品は、2011年から12年にかけて雑誌に連載、
2012年7月、単行本として発行されている。
書き始められたのは丁度、東日本大震災の直後。

江戸末期、筑前福岡藩第11代藩主、黒田長博(ながひろ)の時代。
福岡藩の御用絵師をしていた衣笠春涯の弟子で
当時珍しかった女絵師の春香が主人公である。
藩の作事方を務める箭内(やない)重蔵の三女として生まれ、里緒(りお)という。
幼いときから絵の才能を認められ、春涯に弟子入りする。

絵師として独り立ちしている春香23歳のころ、
10種の鳥を主題にした屏風絵を地元の寺院から依頼を受けて、
狩野派の絵師、杉岡外記守英が江戸からやってくる。
手伝いを頼まれた春涯は春香と兄弟子の春楼を差し向ける。
屏風絵の制作に共同作業をしているうちに、
外記と春香の心が通い合う。
外記は江戸に妻がいるものの一緒には住んでいない。
妻ある男と不義密通を犯したとして、春香は絵師としての仕事を
一切禁じられてしまう。
一方外記も狩野派を破門に。

そして3年後、師の春涯から許しが出、
博多織と博多絞りで財をなした亀屋藤兵衛から屏風絵制作の依頼を受ける。
「博多八景」の屏風絵を頼まれる。

この作品の第2章から第9章までは、「博多八景」が
それぞれテーマとなっている。
因みに第1章は「比翼屏風(ひよくびょうぶ)」、物語の序。
各章とも春香が八景の取材の過程で巡りあう人物の
哀しみが見事に描かれている。
単独の短編小説として読むことができるだろう。

第2章「濡衣夜雨(ぬれぎぬやう)」。
兄弟子の春楼と遊女の千歳が登場する。
第3章「長橋春潮(ながはししゅんちょう)」。
亀屋藤兵衛の屋敷内に部屋を提供され「博多八景」を制作するが、
藤兵衛が身の回りの手伝いにと、若いお文を付けてくれる。
途中から、別の中年女性も世話掛に加わるが、
お葉と言い、実は御救奉行に出世した白水養禎養左衛門の妻。

第4章「箱崎晴嵐(はこざきせいらん)」。
江戸から戻ってきた太鼓持ちの与三兵衛が登場。
外記の様子が伝えられる。

第5章「奈多落雁(なたらくがん)」。
八景の現場案内役をしてくれている、亀屋の丁稚奉公清吉が、
博多にやって来た海老蔵一座の歌舞伎興行を見物、
子役を演じる、弟の豊吉と劇的な対面を果たす。

第6章「名島夕照(なじませきしょう)」。
母親、おりうとの出会いに葛藤するお文の心情。

第7章「香椎暮雪(かしいぼせつ)」。
師匠の春涯は病重く、死の間際に
若いころに心を通わせた女性、お雪(湖白尼)が
枕辺に訪れる。

第8章「横岳晩鐘(よこだけばんしょう)」。
仙厓和尚が登場する。
仏門で修業中の若い僧、智照が恋に狂う。

第9章「博多帰帆(はかたきはん)」。
破門を許され江戸から船で博多の港に着くはずの
春香が3年間待っていた外記は姿を現わさない。

これで「博多八景」の下絵、そして屏風絵が苦難の末完成するのだが、
第10章は「挙哀女図(こあいじょず)」。
春香と外記、二人の愛の結末が描かれている。

文芸評論家の池上冬樹さんが解説文を書かれている。
「悲しみと苦しみを味わった人にお薦めしたい小説である。
これから悲しみと苦しみを味わうだろう人にも読んで
欲しい小説である。
絵師を主人公にした芸術家小説であり、恋愛小説であるけれど、
何よりも悲哀と苦悩を描いた小説であるからだ。」


by toshi-watanabe | 2015-02-21 09:39 | 読書ノート | Comments(0)

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