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宇江佐 真理著「春風ぞ吹く」を読み終える

宇江佐真理さんの著書「春風ぞ吹く」を読み終える。
新潮文庫、630円+税。


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サブタイトルに「代書屋五郎太参る」とある。
幕府小普請組、村椿五郎太の悪戦苦闘の物語である。
五郎太の先祖は甲斐国の出で、農民に身を起こし、武田信玄の足軽だった。
徳田家康の家臣に仕え、江戸に於いて勘定奉行所の役人を仰せつかった。
ところが、何代か後の先祖が料理茶屋に刀を忘れたことが公になり、
この不始末により小普請組に落とされた。
五郎太の父親も、その不始末を呪い続け、今際に残した言葉が、「高を括るな」。

この作品は、5章から成っている。
「月に祈りを」
「赤い簪、捨てかねて」
「魚族(いろくず)の夜空」
「千もの言葉より」
「春風ぞ吹く」

主人公の五郎太は、小普請ながら無役、職禄もつかず。
水茶屋で代書屋の内職をしながら、御番入りを目指して学問所に通う。
幸運にも恵まれ、努力の結果、学問所の試験に通り、役職付きに。
そして幼馴染の紀乃と祝言を挙げる場面で、ハッピーエンド。

第3章の「魚族(いろくず)の夜空」とは、
谷川健一さんの作品
「海膽(うに)の怒り海盤軍(ひとで)のなやみ
 魚族(いろくず)のゑらぐ夜空はわが水鏡」
から、
宇江佐さんはヒントを得られたと書かれています。

第5章の「春風ぞ吹く」は、
大田南畝の狂歌
「早蕨(さわらび)のにぎりこぶしをふりあげて
 山の横つら春風ぞ吹く」
からだそうです。

因みに蜀山人・大田直次郎南畝はこの作品に登場し、
五郎太の実力を認め、援助の手を差し伸べる。

宇江佐真理さんの「文庫のためのあとがき」と、
歴史学者で東大名誉教授の
山内昌之さんの「しくじり小普請 汚名の遍照」と題したあとがきも。

宇江佐真理さんの感動の一冊である。
















# by toshi-watanabe | 2024-12-07 11:14 | 読書ノート | Comments(0)

宇江佐 真理著「(河岸の夕映え)神田堀八つ下がり」を読み終える

宇江佐真理さんお著書「神田堀八つ下がり」を読み終える。
文春文庫、650円+税、




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6編の短編小説を集めたものであるが、
サブタイトル「河岸の夕映え」とある通り、
いずれも「河岸」に縁のある作品である。

「どやの嬶(かか)」ー「御厩(おうまや)河岸」:
船宿「川藤」の女将は、五尺以上の上背に、二十貫はありそうな体格。
土地の人は「どやの嬶」と呼んだ。

「浮かれ節」ー「竈(へっつい)河岸」:
36歳の三土路保胤は幕府の小普請役。
一中節のおさらい会に参加。

「身は姫なり」ー「佐久間河岸」:
外神田の佐久間町界隈を縄張りにする岡っ引きの伊勢蔵。
橋の下で7~8歳の女の子を見つける。
声をかけても、「身は姫なり」と。

「百舌(もず)」ー「本所一ツ目河岸」:
本所相生町一丁目にある、わび住まいの横川柳平は、
かって津軽弘前藩の藩校「稽古館」の教官を務めていた。

「愛想づかし」ー「行徳河岸」:
33歳になる出戻りのお幾の住まいに、
一緒に暮らすのが旬助は25歳だが、
北鞘町石橋の傍らにある三枝屋の跡取りである。

「神田堀八つ下がり」ー「浜町河岸」:
米沢町の薬種屋「丁字屋」の主、菊次郎。

江戸の下町で大小さまざまな事件に巻き込まれながら
逞しく生きる住民の物語。
その生き様に、ほっとさせられる。

「新装版文庫のためのあとがき」と題して、
著者の宇江佐真理さんが、内輪話を書かれている。
宇江佐さんが高校生の時に体験した事や、
身内に起きたことなどから、題材のモデルがいたと。
このあとがきを書かれたのは、平成23年4月、
東日本大震災の起きた頃。

書評家の吉田伸子さんが「解説」を書かれている。








# by toshi-watanabe | 2024-11-19 11:06 | 読書ノート | Comments(0)

宇江佐 真理著「さらば深川」を読み終える

宇江佐真理さんの著書「さらば深川」を読み終える。
文春文庫、720円+税。


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宇江佐真理さんの髪結い伊三次シリーズの文庫、三冊目である。
この作品は、2000年7月、文芸春秋から出版され、
文春文庫としては、第1刷が2003年4月に出版され、
第20刷が出版されたのが、2022年2月と、好評を得ている。

床を持たない、廻り髪結い伊三次と、深川蛤町に住む辰巳芸者のお文の
2人を中心に、物語は進行する。
伊三次はいずれ己の髪結いの床を開いて、お文とともに夫婦になろうと
思いはあるものの、なかなか実現しない。

お文が紙入れを掏られる「因果堀」、
お文の身の回りを世話していた、おみつが嫁入りすることになり、
その後釜に紹介されるのが、おこなという女性で色々と訳ありの「ただ遠い空」、
日本橋の船宿で心中騒ぎが起きる「竹とんぼ、ひらりと飛べ」、
神田橋御門外に護持院ヶ原で人が袈裟懸けに殺傷される事件から
物語が展開する「護持院ヶ原」、
お文の家から出火して、住む家を失ったお文は
泣く泣く深川を後にして伊三次の塒への「さらば深川」と
5編の短編ストーリー下構成されている。

読み進むにつれて、自分自身、江戸の下町に入り込んでしまったような
錯覚、気分にさせられる。
宇江佐真理さんお筆力に脱帽です。









# by toshi-watanabe | 2024-11-04 10:08 | 読書ノート | Comments(0)

朝井 まかて著「恋歌」を読み終える

朝井まかてさんの出世作「恋歌」を読み終える。
講談社文庫、760円+税。


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朝井まかてさんの作品は、私にとっては愛読書の範疇。
「まかて」とは面白い名前だが、朝井さんの祖母が、沖縄出身で、新里マカテさん。
祖母の名前をそのまま頂いた、とのこと。
この作品「恋歌」は2013年8月に出版され、
翌2014年に、直木賞を受賞され、一躍文学界で認められ、
その後発表された数多くの作品で各文学賞を受賞されている。

物語は、明治期の歌人・中島歌子を主人公に、
幕末の動乱に否応なく巻き込まれた女性の喪失と再生が描かれている。
中島歌子は歌人であると同時に、
和歌と書を教える私塾「萩の舎(はぎのや)」を主宰し、
当時の若い女性たちを指導した。
一時、生徒が1,000人を数えたこともあったとか。
教え子の中でも名を知られたのが、樋口夏子(後の樋口一葉)、三宅花圃(かほ)など。

最初の序章では、中島歌子が病で入院し、
歌子の自宅で、三宅花圃(本名:龍子・たつこ)と中川澄(すみ)の二人が
歌子から依頼された書類などの整理にあたる場面で始まる。
花圃は三宅雪嶺の夫人。
澄は「萩の舎」に奉仕していた女中だったが、頭がよく、
女執事の役目を果たしていた。
書きつけを目にし、二人で読みながら、中島歌子の若かりし頃の生き様を知ることに。

愈々、本題の中島歌子の物語が始まる。
当時は登世(とせ)という名で、17歳。
父親の中島又右衛門は既に亡く、母親の中島幾(いく)とともに住んでいた。
幾は小石川で宿を営んでいた。
水戸様の上屋敷とは目と鼻の先、御定宿の指定を受けていた。
登世の兄・孝三は父方の叔父の家を継ぐことになり、
幾は登世に婿取りして、宿屋の商いを引き継いでもらおうと算段したが、
宿に偶々泊まった水戸藩の中士で美男の剣士、林忠左衛門以徳(もちのり)に、
登世はすっかり惚れてしまった。

母親は婿取りを諦め、以徳と一緒になるのを認めて、登世を水戸へ送り出す。
ところが、水戸藩は天狗党と諸生党に分かれ、以徳は天狗党の主要メンバー。
1864年、天狗党の乱を起こした罪で、以徳は自害。
登世は以徳の妹・てつとともに2か月間にわたり投獄の憂き目に。
悲惨な牢内での生活に苦しめられた。
本を閉じたくなるような内容となっている。

終章は、中島歌子が60歳で亡くなり、
その後始末をするのが、花圃と澄で、歌子の手記と遺書を目にした。

書評家の大矢博子さんが、丁寧な解説を書かれている。

お薦めの一冊。






# by toshi-watanabe | 2024-10-29 11:52 | 読書ノート | Comments(0)

永嶋 恵美著「檜垣澤家の炎上」を読み終える

永嶋恵美さんの書下ろし作品「檜垣澤家の炎上」を読み終える。
新潮文庫、1,100円+税。
774頁の書下ろし大作。

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主人公は高木かな子、後に檜垣澤かな子。
明治37年(1904)、日露戦争開戦の年に誕生、
父親は檜垣澤家の当主、檜垣澤要吉、母親は要吉の妾、高木ひさ。
母が亡くなり、7歳でかな子は父のもとに引き取られた。
当時、父親は病床に臥した状態で、かな子は父の看護を担い、
話し相手を務めていた。

明治維新、群馬から出てきた檜垣澤要吉は、
生糸や織物の輸出で一儲けし、檜垣澤商店を立ち上げ、
大事業主となった。
かな子が檜垣澤家に引き取られた頃には、
要吉の妻,スエが商売を切りまわしており、
家の中では「大奥様」と呼ばれ、対外的には「山手の刀自」、女傑と呼ばれていた。

要吉とスエの間には、二人の娘がおり、
長女の花は「奥様」と呼ばれ、大事な話はスエと花の二人で進められていた。
次女の初は、檜垣澤家の屋敷の向かい側にある山名医院に嫁いでいた。
初の主人、山名研祐医師は檜垣澤要吉の主治医。

明治天皇の大喪の礼が執り行われた、その当日に檜垣澤要吉はその生涯を閉じた。

長女、花と婿の辰一の間には3人娘。
3姉妹で、郁乃、珠代、雪江、長女郁乃の婿は惣次で、
その後、宗右衛門を名乗り、檜垣澤商店を継ぐことになる。

いずれにしても、典型的な女系家族の家。
かな子は、やがて檜垣澤家の一員となり、高木かな子から檜垣澤かな子に。
花の娘、4女という位置づけに。

色々な事件に巻き込まれながら、かな子は成長して行く。
次々と真実が明かされて行く。
サスペンス物語でもある。
圧倒的な長編物語に引き込まれてしまう。

かな子は、19歳で、高等女学校を卒業し、
その年、大正12年(1923)9月1日、「関東大震災」が起き、
檜垣澤家の山手の豪邸が灰燼に帰し、スエも花も郁乃も亡くなる。
幸いかな子だけが災害を免れた。

書名にある通り「檜垣澤家の炎上」で、この物語は終わる。

著者は、この作品を書きあげるのに調査をしたり、数年かけたようだ。
読者としては、この続編を大いに期待したい。

凄い作品、読みごたえがあり、お薦めの作品です。







# by toshi-watanabe | 2024-10-19 15:00 | 読書ノート | Comments(0)

日々見たこと、 感じたこと、気づいたことをメモする


by toshi-watanabe