折々の記

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内田康夫の「汚れちまった道」を読み終える。
お馴染み素人探偵、浅見光彦シリーズの一作で、
ちょうど3年前に書き下ろし刊行されている。
今回祥伝社文庫の新装版が出され、上巻・下巻の2冊から成る。

舞台は山口、防府、宇部、美祢、萩と山口県内、
次から次に起こる殺人事件に光彦が挑み解決のカギを探す物語。

以前の事件で知り合った毎朝新聞の黒須からの依頼で、
行方不明となっている山口毎朝新聞、萩支局勤務の
奥田伸二氏を探す手伝いをしてくれないかと言われる。
単身赴任の奥田氏の実家は防府市にあり、こずえ夫人が住んでいる。
黒須夫人の大学時代の先輩を通して依頼があり、
黒須氏は光彦を最適の人物として紹介する。

同時に光彦が記事を書いている雑誌「旅と歴史」の藤田編集長から、
中原中也特集を組むので、現地に飛んで中也史跡を取材して、
レポートにまとめてほしいとの依頼。
ご存知、中也は山口出身である。
二つの目的を抱えて、いよいよ光彦は山口へ乗り込む。

物語の進行とともに、中原中也の詩が登場する。
いくつかをご紹介。

「ポロリ、ポロリと死んでゆく」
ポロリ、ポロリと死んでゆく
みんな別れてしまふのだ。
呼んだって、帰らない。
   何しろ、此の世とあの世だから叶はない。

「妹よ」
夜、うつくしい魂は涕(な)いて、
  ――― かの女(ぢょ)こそ正当(あたりき)なのに
夜、うつくしい魂は涕いて、
  もう死んだっていいよう・・・・といふのであった。

湿った野原の黒い土、短い草の上を
  夜風は吹いて
死んだっていいよう。 死んだっていいよう。と。
うつくしい魂は涕くのであった。

「汚れっちまった悲しみに・・・・」
汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

独身貴族連盟を標榜する浅見光彦の仲間の一人、
松田将明に見合いの話が出、そのお相手は山口にいる。
松田が見合い相手の八木康子に会いに山口にやってきて、
たまたま事件に巻き込まれ、光彦と共同作業をする場面も。

大きな社会事件を嗅ぎつけた奥田伸二は結局やくざの手により
殺害されてしまい。奥田に情報を提供したものや協力者も
次々と殺害される運命に。
直接手を下した殺害者は光彦たちの活躍により、
逮捕されるのだが、肝心の大物は闇の中。




by toshi-watanabe | 2015-10-29 08:43 | 読書ノート | Comments(0)
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葉室麟の著書「この君なくば」を読み終える。
朝日文庫の一冊として、今月発刊されたばかり。

時は幕末から明治維新にかけて、九州日向の伍代藩(架空の藩)が舞台。
物語に登場する主要人物は楠瀬譲(くすせゆずる)、
五十石の家の二男に生まれ、幼名は武蔵、
17歳の時に志を立てて大阪へ、蘭学者の緒方洪庵が営む適塾に学んだ。
国許に戻り、豊富な知識を評価されて、新知百石で召し抱えられた。
その折に藩主伍代忠継のお声がかりで馬回り役二百石の
杉浦家の三女由里を妻に迎えた。
譲は民間学者、檜垣鉄斎のもとに通い薫陶を受けていたのだが、
かねがね譲を一人娘の栞の婿にしたいと考えていた鉄斎は失望。
ところが、由里は夏風邪をこじらせ、3歳の娘、志穂を残して早逝、
譲は男やもめとなった。

もう一人の主要人物(主人公というべきか)が、
私塾「此君堂(しくんどう)」を開いた学者、檜垣鉄斎の娘、栞である。
和歌をよく詠み、父亡き後の此君堂を一人で守っている。
鉄斎没後、譲は和歌の指導を仰ぎたいと、栞の元を訪ね始める。
栞を思う譲、譲を慕う栞、二人の思いがここで絡むのだが、
いろいろな事情が生じて二人の愛はなかなか結ばれない。

此君堂の茶室の床の間には掛け軸がかけられている。

「竹葉々(ようよう)清風を起こす
 清風脩竹(しゅうちく)を動かす」

虚堂禅師(きどうぜんじ)の七言絶句の三、四句目である。
(相送って門に当たれば脩竹あり、君が為に葉葉清風を起こす)。
鉄斎はことのほか竹が好きで、この掛け軸も自ら筆を執ったもの。
譲が「先生は誠に竹がお好きでしたな」とつぶやくと、栞はうなずいて、
「この君なくば、一日もあらじが口癖でしたから」と。
此君堂の名は、「晋書(しんじょ)」王羲之伝にある、
竹を愛でた言葉の
「何ぞ一日も此の君無かるべけんや」
からとったもので、「此君」とは竹の異称。

日本国中が混乱の中に陥った幕末維新の時代、
小藩の伍代藩がいかに生き残れるか、
賢明な藩主忠輝を助けるために手となり足となり情報入手に駆け回る
楠瀬譲の活躍する姿が描かれる。
実在人物の久留米藩の今井栄との交流の話も大変興味深い。

生き生きと描かれている二人の女性の生きざまが素晴らしい。
賢明で美しい女性の姿が目に浮かぶ。
主人公の檜垣栞ともう一人は譲の亡き妻杉浦由里の妹、五十鈴。
五十鈴は譲の後妻にと自らも決めていたのだが、
結局、望まれて藩主忠輝の正室となり、
忠輝の良きアドバイザーとして活躍する姿が描かれている。

明治5年、榎本武揚らとともに赦免された、楠瀬譲は江戸から国許に戻るが、
榎本の誘いに乗り、北海道開拓の道を選ぶ。
竹林を抜けて近づいてくる洋服姿の譲を見て、
栞は微笑み、胸の中でつぶやいた。

「この君なくば一日もあらじ」

葉室流の感動の一編である。

by toshi-watanabe | 2015-10-25 11:01 | 読書ノート | Comments(0)
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藤原緋沙子著「百年桜(人情江戸彩時記)」を読み終える。
新潮文庫の一冊として最近出たばかりである。
書名となっている「百年桜」を含め、五作の小品で構成されている。
藤原緋沙子と言えば、「隅田川御用帳」などのシリーズもので、
数多くの作品を出され、どの作品も江戸の町人の人情味で溢れている。
この著書の作品いずれも、江戸の下町、隅田川の近くが舞台。

「百年桜」は、日本橋の呉服問屋「大津屋」に12歳で奉公に入り、
苦節15年まじめに働き、やっと手代の小頭に昇進しようかという新兵衛が主人公。
ところがある夜、店に押し込み強盗が入り、新兵衛を脅かして
金を奪っていった男が、故郷の蒲生で幼馴染みだった伊助ではないかと、
いう疑念を抱いた新兵衛は探索を重ね、本人であることを突き止める。
最後の場面で、渡し船の上から見事な桜が眺められ、故郷の百年桜を思い出す。
「葭切(よしきり)」は、本所で茶の湯の道具を扱っている
「大和屋」の娘で、今年22歳になるおゆきの恋が描かれている。
親の決めた許婚がいるものの、おゆきには忘れられない人がいた。
三年前、隅田川の渡し船から降りたところで、胃の腑に痛みを覚えて
苦しんでいたのを助けてくれたのが、富山の薬売り姿の啓之助。
やっと巡り合えた啓之助は江戸を離れ甲府へ旅立つことに。
おゆきは家を抜け出し、船着き場で啓之助と会う。
見つめあう二人の耳に葭切の声が二人を見送る喜びの声のように、聞こえてくる。

「山の宿」は、かって愛した男の遺骨を引き取りに、出羽里見藩から江戸にやってきた
おまきという女性が隅田川の「山の宿の渡し」を渡って、江戸の地を踏むところから始まる。
かって里見藩の部屋住みの奥井継之進と愛しながら、
藩の理不尽な仕組みにより夫婦になることができず、
別れたおまき、その後、継之進は命じられた上意討ちを果たすが、
なぜか出奔、星霜を経て、江戸で死去したとの知らせが奥井家に届いた。
奥井家の好意で江戸にやってきたおまきは、継之進の上意討ちの真相を知ることに。
「初雪」は、甲州勝沼からブドウを運んできた秀治という若い衆の、母親探しが描かれる。
子供のころ、生活のために身を売った母親を拒絶した、苦い過去がある。
江戸で、何とか母親のおかじを見つける。
秀治は病の母親を背負い、船着き場に急ぐ。
「おふくろ、今日の渡しは、富士の初雪が見えるぞ」。
「海霧」は、国を出てから13年が経った土屋禮治郎の、女敵討ちの顛末。
八代藩士だった禮治郎は、ある事情から密通をした妻を斬り、逃げ出した
伊沢重三郎を追って、旅を続ける。
行方をつかんだと思ったら、重三郎は人を斬り、石川島の人足寄せ場に送られている。
船着き場近く本湊町の長屋で暮らしながら、赦免された重三郎が
戻ってくるのを待ち受ける禮治郎だが、意外な展開で終わる。
海の霧が晴れ始めるのを背に、禮治郎は重三郎に会わずに、渡し場を後にする。

江戸の人情にほろっとさせられる作品集である。

by toshi-watanabe | 2015-10-17 10:09 | 読書ノート | Comments(0)
10月4日から8日にかけて、群馬倉渕へ出かける。

秋のお彼岸に墓参りに出かけられなかったので、
八柱霊園に立ち寄り、墓地の周りを掃除し、
生花を備え香をたいて、故人の霊を慰め、お参りする。

群馬の山里は、だいぶ秋の気配も深まり、肌に当たる風も冷たい。
最初の3日ばかり、うす曇り、時たま弱い日差しが出る程度。
朝晩もぐっと冷え込み、ホットカーペットにスイッチを入れたいくらい。
4日目になると、朝から青空が広がり素晴らしい秋晴れに。

一面コスモスの花が色とりどりに咲き乱れて、
改めて秋だという実感を抱く。

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紫式部と白式部の実。
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釣舟草。
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山萩。
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南蛮煙管。
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木通と烏瓜。
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オオレイジンソウ(?)。
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待宵草。
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秋海棠。
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吉祥草。
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青花藤袴とキバナアカギリソウの実。
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花虎の尾。
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水引草。
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現の証拠。
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百日草とコスモス。
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山茱萸の実、山査子の実、白花山吹の実。
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ツリバナ。
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竜胆。
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深山金鳳花とオキザリス。
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秋明菊。
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そして櫨の葉が一部すでに紅葉。
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短期間だったが、おかげさまでのんびりと過ごせた。



by toshi-watanabe | 2015-10-11 15:22 | 草花 | Comments(4)
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本書カバーの装画に使用されたのは(上記図参照)、
円山応挙の筆になる「雲竜図屏風」で、京都国立博物館より提供されたもの。


火坂雅志さんの遺作「左近」(上・下巻)」を読み終える。
関ケ原の合戦では、西軍石田三成隊が本陣を笹尾山に構え、
指揮したのが石田家家老の島左近である。
この島左近清興が、この小説の主人公。

NHKの大河ドラマ「天地人」の原作者である、
火坂雅志は今年2月26日、急性膵炎のため
58歳という若さで黄泉の世界へ旅立った。
惜しまれる作家である。
月刊誌「文蔵」に、平成19年10月号から連載され、
平成26年12月号を最後に、未完のまま、この小説は終わる。
連載されていた時の題名は「鬼神の如く」だったが、
今回、単行本の出版に当たり、「左近」と改題された。
因みに、葉室麟さんの著書「鬼神の如く」が出版されたばかり。

火坂さんの作品を読むのは、「天下・家康伝」以来である。
物語は永禄2年(1559)松永弾正の大和攻めから始まる。
左近はまだ20歳の青年である。
後妻おさいに精気を抜かれた左近の父、豊前守の策謀で
今井宗久のもとへ売られた左近は、流転の果てに
旧主筒井順慶と再会するが、落日の筒井家、打つ手もなく、
ようやく、左近はのちに妻となる茶々の父である
医師北斎法印の伝手で明智光秀の知遇を得る。
織田信長への道筋がつき、筒井順慶は大和守護に帰り咲く。

信長の求めに応じて、重い腰を上げた家康が
一行を伴い安土に到着するところで、上巻は終わる。
接待役を務めるのが光秀である。

下巻は、本能寺の変で物語が始まる。
信長から秀吉の天下に移り、左近の仕える順慶は亡くなり、筒井家は
愚蒙な養子定次が当主を引き継ぐ。
筒井家に見切りをつけた左近は、乞われて秀吉の弟、
大和大納言秀長に一万五千石で召し抱えられるものの、
秀長は病弱のため若くして亡くなり、左近は再び自由放浪の身に。

やがて三顧の礼に応えて、左近は石田三成に仕えることに。
石田家で二万石の家老職に。
勇猛果敢、鬼の左近とも称され、天下に名高い島左近が、
石田治部少輔三成の家臣になったという噂は、
たちまち世間に広がり、この意外な組み合わせに、人々は驚き、
「治部少輔(三成)に過ぎたるものが二つあり、島の左近と佐和山の城」
という俗謡が、京の巷で流行った。

文禄、慶長と二度の朝鮮出兵に三成は苦慮すぐが、
その間左近は三成を支える。
やがて秀吉が享年62歳で息を引き取る。
秀吉の死を境に、家康と三成の間に駆け引きが始まり、
俄かに怪しい雲行きになるところで、物語は終わりとなっている。

その後に起こる天下分け目の関ヶ原の合戦で
島左近がとった行動、役割など、
火坂さんがどう描こうとしていたのか、大変興味のあるところ。
実に残念である。

巻末に文芸評論家、縄田一男による詳細な解説が載っている。
縄田さんは、解説の中で、
「作者の急逝により未完に終わった長編だが、
 充分、読者に応え得るものとなっている。」
まさにその通りだと思う。

未完の長編ではあるが、内容の充実した、素晴らしい作品である。
島左近の一途な生き方が生々しく書かれており、
また多くの敵を作り、どちらかと言えば嫌われ者の存在だった
石田三成の本心、生きざまには納得させられる。





by toshi-watanabe | 2015-10-10 11:36 | 読書ノート | Comments(0)