カテゴリ:読書ノート( 154 )

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大分前に買い求め、そのままになっていた
藤沢周平の作品「静かな木」を読み終える。

短編集で、「岡安家の犬」、「静かな木」、
そして「偉丈夫」の3篇から成っている。
週刊新潮と小説新潮に平成5年から8年にかけて
連載されたものを、平成10年に単行本として出版される。
著者は平成9年1月に亡くなられているので、
没後1年後に出されたことになる。

藤沢さんは山形県鶴岡市のご出身。
鶴岡は江戸時代、酒井藩庄内藩、
この庄内藩をモデルに、架空の「海坂藩」を設定し、
藤沢作品に度々登場する。
映画化された「蝉しぐれ」などにより、よく知られている。
因みに同じ山形県米沢市の近くで生まれた
井上ひさしは大の藤沢ファンで、
「海坂藩・城下図」を作成してしまう。

「岡安家の犬」

岡安家は海坂藩近習組、十左衛門は隠居の身、
大の犬好き、犬の喧嘩があればどこへでも出かける。
岡安家の当主は孫の甚之丞、ほかに母と妹二人の
5人家族、誰もが犬好き、犬を飼っている。
犬の名前はアカ。

ある時、甚之丞は親友の野地金之助から
犬鍋をやるから喰いに来いと誘われる。
当時野犬狩りと称して、野良犬をとらえて
鍋で煮て喰っていたようである。
久しぶりに喰ったので、「味はどうだ」と聞かれて
「うまいと」答える。
すると、「うまいはずだ。
今喰ったのは、貴様の家のアカだぞ。」
激怒した甚之丞は金之助と
あわや果し合いを。

甚之丞の妹、八寿(やす)は金之助に
嫁入りがすでに決まっているというのに。

「静かな木」

布施孫左衛門は福泉寺の境内に立つ
欅の大木を見て過ごす。
孫左衛門は5年前に隠居し、2年後には還暦を迎える。
総領の権十郎が跡を継いで勘定方に出仕している。
次男の邦之介は間瀬家に婿入りしている。
この邦之介が果し合いをすると聞きつけて、
孫左衛門が一計を案じる。

今回の事件の裏には、
藩内の派閥争いが絡んでいる。

「偉丈夫」

海坂藩初代藩主、政慶公は次男の仲次郎光成を愛し、
死歿するときに、藩から一万石を削って、
仲次郎に与え、幕府の許しを得て支藩とした。
片桐権兵衛の属する海上藩である。

政慶公が没してから70年ほどが過ぎたころ、
本藩と支藩の間に漆木をめぐって
境界争いが生まれる。

権兵衛は六尺に近い巨躯だが、いたって寡黙。
この権兵衛が境界争いの掛け合い役に抜擢される。

いずれも小品の短編だが、きめ細やかな人情が
見事に描写され、物語にひこまれてしまう。
感動を呼ぶ藤沢作品である。
by toshi-watanabe | 2014-09-03 09:39 | 読書ノート | Comments(0)

半沢直樹が再び登場

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史上最大の倍返し、巨大権力に立ち向かう
半沢直樹シリーズの最新作が登場。
池井戸潤さんの新作「銀翼のイカロス」を読み終える。

東京中央銀行の営業第二部次長となった半沢直樹。
直属の上司、内藤寛部長から帝国航空の担当を
突然命じられる。
本来審査部が担当していた案件だが、
頭取・中野渡謙の特命である。
巨大航空会社である帝国航空は経営危機に瀕している。

与党・憲民党政府により、すでに帝国航空の再建案が出され、
債権者である金融業界も了承していた。
ところが、総選挙で憲民党が敗れ、
新たに進政党政府がスタート、
新政府の旗手とも称され、閣僚入りに抜擢された
白井亜希子国土交通大臣が私的諮問機関
「帝国航空再生タスクフォース」を立ち上げる。
先の帝国航空再建案の破棄を宣言、
債権者の銀行を慌てさせる。

特に高額の債権を有する東京中央銀行には
圧力がかかり、帝国航空への債権放棄を迫る。

一方では過去に起きたと推測される20億円に上る
融資の使途不明金問題を半沢達が見つける。
東京中央銀行は旧産業中央銀行と旧東京第一銀行とが
合併して発足した銀行。
債権監理担当常務の紀本平八は旧東京第一銀行の出身、
合併時には負債や不明金をすべて清算したはずだったが、
紀本常務が個人的に融資をし隠蔽していたことが発覚。
隠されていた書類探しに活躍するのが、
検査部の部長代理をすでに7年勤める
富岡義則、通称トミさん。
検査部とは”象の墓場”と揶揄されている部署、
出世コースを外された、出向待ちのポスト。

途中では、おなじみの金融庁検査官、
黒崎駿一も登場する。
せめぎあいが続き、
最終的には、東京中央銀行は
帝国航空の債権放棄をしないと宣言。

因みにトミさんは傍系会社、東京中央クレジットへ
審査部長として出向する。

いずれテレビ化され放映されるだろう。
by toshi-watanabe | 2014-08-27 09:01 | 読書ノート | Comments(2)

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すでに書き込んだ上巻の続きである。
ドイツ名家の令嬢で、新進気鋭ヴァイオリニストの
アリシアが、我が名探偵、浅見光彦の手助けにより
無事入手した「フルトヴェングラーの楽譜」を手に、
故国ドイツへ帰る。

この任務を命じた祖母のニーナの強い要望で、
光彦とヴァイオリニストの千恵子も同道することに。
因みに高所恐怖症の光彦は一度も飛行機に乗ったことがなく、
今回初めての海外旅行。

第二次大戦前、ドイツより日本を訪問し、
全国を歓迎と熱狂の渦に巻き込んだ
「ヒトラーユーゲント」。
その盛大な歓迎会の最中に、
ある秘密工作が粛々と仕組まれたいた。
それから70年がたつ。

「フルトヴェングラーの楽譜」は専門家から見ると、
目茶苦茶で、まともな楽譜になっていない。
途中からは、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の
プロムナードの部分が繰り返し続く。
少し種明かしをすると、四分音符と八分音符により
構成されており、実はモールス信号となっている。
モールス信号を使ったことのある、アリシアの父親が解読して、
謎が解けてくる。
種明かしの続きになるが、「絵のタイトル」、「画家の名前」、
そして「美術館の名前」の一覧表であることがわかる。

画家の名前をそのまま列記すると、
ベックマン、ブラック、セザンヌ、シャガール、ディックス、ドーミエ、
ゴッホ、カンディンスキー、キルヒナー、クレー、ココシュカ、
ロートレック、マネー、マチス、マルク、モジリアニ、ムンク、
ノルデ、ピカソ、ルノアール。。。。。。

ヒトラーとナチスドイツは近代芸術を身体的・精神的な
病気が表れた「頽廃」であり、道徳から人種的に堕落したものと
決めつけて、「頽廃芸術(エントアルテッテ・クンスト)」と称し、
破棄、焼却を命じる。
ナチスの宣伝省は各地の美術館、コレクター等から没収した
二万点近い絵画をベルリンの倉庫に押し込み、焼却の準備をした。
ところが400点ほどの絵画が、
こっそりと持ち出され、半数がドイツ国内に、
そして残りの半数が日本へ運び込まれた。

下巻の前半はドイツとオーストリア、
そして後半は光彦が日本に帰国してからの話となる。
川崎の登戸研究所も登場する。
戦時中、米国向け風船爆弾の開発や
中國の偽札の印刷にかかわった軍の施設、
今は明治大学生田キャンパスとなっている。
ほとんどの施設は撤去整理されたが、
一棟だけ残り、「平和教育研究所資料館」となっている。

上巻に登場した「フルトヴェングラーの楽譜」を
大事に保管していた丹波篠山の忌部老人は
後事を光彦に託し、96歳の生涯を閉じる。
そして光彦は、ついに「ライヘンバッハ・コレクション」の
保管部署を突き止める。


ほかの作家の皆さんのコメント。

「これで、誰も、浅見光彦が忘れられなくなった。」(西村京太郎)

「浅見光彦との別れは、国民探偵との別れである。
 さようなら、もしもこれが永遠の別れとなるなら。」(森村誠一)

「最後の事件とは正に、サプライズエンディング。
 で、次は浅見光彦最初の事件ですか? 一読者より。」(赤川次郎)
by toshi-watanabe | 2014-08-10 09:57 | 読書ノート | Comments(0)

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日本各地を旅して難事件を解決してきた
ルポライター、浅見光彦を主人公にしたシリーズの最新作、
「遺譜」の上下二冊が同時に出版された。
主人公は永遠の33歳とも呼ばれていたが、
115作目の本作品では、34歳の誕生日を迎える。

上巻を読み終え、下巻を読み始めたところである。
「浅見光彦さんの34歳を祝う会」が軽井沢の
軽井沢プリンスホテル、宴会場・千曲で開催される。
主催者の代表は光彦の兄、洋一郎の先輩の姪にあたり、
浅見家とは懇意にしている本沢千恵子。
いま売り出し中の若手のヴァイオリニスト。

誕生日パーティには、今まで光彦が解決してきた
事件の関係者がお祝いに駆けつける。
「軽井沢のセンセ」として、作者自身も登場する。

軽井沢の大賀ホールでは丁度時を同じくして、
クラシック演奏会があり、千恵子もこの演奏会出演のメンバー。
このコンサートには、ドイツの名家出身で、
欧州のコンクールで賞を受賞したりしている
アリシアというヴァイオリニストも加わっている。

この23歳のドイツ女性は、特別の使命を持って来日。
「フルトヴェングラーの楽譜」を受け取ってくるよう、
母国の祖母から言われている。
光彦は彼女のボディガードを依頼され、
女性二人とともに丹波篠山へ向かう。

丹波篠山では、「丹波の森国際音楽祭・シューベルティアーデたんば」
が開催され、二人の女性、千恵子とアリシが出演する。
その一方で篠山には「フルトヴェングラーの楽譜」を
所有している人物がいる。
調べた結果、今宮神社の宮司をしている忌部とわかる。
無事この楽譜を入手したところで上巻は終わる。

「フルトヴェングラーの楽譜」を軸に物語は進展するようだ。

著者は構想から完成まで約6年を費やした。
今年は作家デビュー34年目の節目の年、
一つの区切りと考えられたようだ。
副題は「浅見光彦最後の事件」となっているが、
これでシリーズが終わるのかどうかは不明。
by toshi-watanabe | 2014-08-10 09:52 | 読書ノート | Comments(0)

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故山本兼一さんの遺作が、単行本として出版される。
「修羅走る・関ケ原」、早速買い求めて、一気に読み終える。
「小説すばる」、2011年1月号から2012年11月号にかけて
連載された作品だが、466ページもの大作。

題名の通り、慶長5年9月15日(1600年10月21日)、
美濃国不破郡関ヶ原での合戦を扱っている。
最初は戸惑うが、読んでいくうちに次第に
横のつながり、時の流れがわかり、物語に引き込まれていく。
それぞれの登場人物の思いや行動が
同時進行で進む。

最初に登場するのが石田三成。
笹尾山の三成本陣では、重臣の島左近、蒲生郷舎たちと
評定を行ったり、それぞれ指示を出したり。
そして土肥市太郎と市次郎の兄弟に特命を与える。

次いで登場するのが徳川家康。
桃配山に葵の紋の陣幕を張り、
幔幕内の床几に家康は腰をおろす。
福島正則のことなどを気にかけたり、
これから始まる合戦に思いをめぐらす。

さらに黒田長政、福島正則、井伊直政。松野重元、宇喜多秀家、
大谷吉継、土肥市太郎、土肥市次郎、竹中重門、島左近、
明石全登、可児才蔵、織田有楽斎、
そして再び家康の登場と、登場人物を中心に、
合戦は進行する。

合戦自体よりも、合戦当事者たちの生きざまというか、
死生観を読者に訴えているように思えてくる。
とにかく読みごたえのある作品である。

最後の劇的な場面は、家康に向かって、
返答次第では家康を討つ覚悟の
福島正則が秀頼のいる大阪城を侵攻すのかどうか、
その意思があるのかどうか問い詰めるところで
物語は終わっている。

巻末に、安部龍太郎さんが、
「修羅の死生観」と題して書かれている。
安部さんと山本さんは年齢が一つ違い、
12年ほど前からは、親しく付き合う間柄。
山本さんが亡くなる半年前の
2013年10月17日、
京都上七軒の「萬春」でワインを飲み、
一条通の「花あかり」というスナックで
カラオケを歌ったのが最後の別れだったようだ。

因みに上記の作品を「小説すばる」に書き終えたあと
山本さんは直ぐに肺の病で入院された。
一度は回復されたものの、昨年末、再度発病。
本年2月不帰の人となった。
by toshi-watanabe | 2014-08-07 09:59 | 読書ノート | Comments(0)

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またまた葉室作品である。
単行本として2年半前に出版されている著書、
つい最近、文春文庫として出される。

読み始めて、あれと思う。
主人公の名前、別の作品で登場していたのを思い出す。
立花宗茂と正室のぎん千代(「ぎん」にあたる漢字が
ミクシィでは表示できないので、ひらがなで表示。
門構えに言が入る漢字である。)

山本兼一の著書「まりしてん ぎん千代姫」に
同じ主人公が登場する。
単行本の発行日で見ると、葉室作品が2012年1月、
山本作品は同年12月だが、雑誌に連載が始まったのは
2010年11月。
ほぼ同じころに書かれていると思われる。

山本作品では、摩利支天のようだと表現されている
ぎん千代姫が主人公であるのに対し、
「無双の花」は立花宗茂半生の物語である。

宗茂、幼名千熊丸は豊後大友氏の家臣、高橋紹運の長男として生まれ、
15歳の折りに大友氏の重臣、(あえて立花を名乗らず)戸次道雪の
娘で13歳のぎん千代の婿養子となり、立花山城主となる。
秀吉の九州平定の戦功により柳川(山本作品では柳河城)の大名に
大抜擢されるが、関ケ原の合戦では西軍に加担したため改易、
その後は浪人の日々を送る。
時を経、20年後に旧領柳川の大名に奇跡の復活を遂げる。
徳川2代将軍、秀忠、3代将軍、家光の側近として活躍の場を得る。

ぎん千代は若くして病を得、夫の宗茂に永別の言葉を告げる。

「お前様は西国無双の武将にございます。
 必ずや返り咲いて、だれにも負けぬ
 無双の花と咲かせてくださりませ」と。

ぎん千代が亡くなる直前、盗賊に襲われた
公家の幼い姫君を助ける。
この姫君、菊子がのちに宗茂の側室となる。

伊達家の家臣、片倉小十郎に真田信繁の遺児を
託す場面など感動的な場面である。
因みに立花宗茂、真田信繁(大阪夏の陣で最期を
遂げた真田幸村)、伊達政宗は同年生まれという。

お勧めの一冊である。
by toshi-watanabe | 2014-07-30 08:47 | 読書ノート | Comments(0)

愛読している葉室さんの作品が映画化される。
直木賞を受賞した「蜩の記」である。
役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子と
おなじみの顔ぶれが主演。
今年10月4日、東宝系映画館で一般公開される。
予告編が公開されている。
下記のウェブサイトをご覧ください。

 → 映画 蜩の記 公式サイト


下記は以前別のところで書いた読書ノートです。

葉室麟さんの直木賞受賞作「蜩(ひぐらし)の記」を読み終える。
読み手をぐいぐい引き込む、大変すばらしい作品だと思う。
葉室さんは5回、直木賞候補にノミネートされ、
この作品で、ついに直木賞を受賞された。

時は江戸時代、舞台は豊後(ぶんご)の国、羽根(うね)藩と
背景は設定され、物語は進展する。
無論、歴史上実在はしておらず、
現在なら大分県辺りである。
藩主三浦家に仕える、藩士戸田秋谷(しゅうこく)が主人公。

秋谷は羽根藩の江戸藩邸にて用人を務めていた折に、
先代藩主の側室と不義密通し、
それを見咎められて小姓を切り捨てた、
というかどで切腹を申付けられる。
(事実と反していることが後で判明するのだが)

しかし、秋谷は学問に秀で、その頃、三浦家の
家譜の編纂に取り組んでおり、
家譜編纂の中断を恐れた藩主が特別の命を出し、
切腹を10年後に執行することになる。

かって秋谷自ら郡奉行を務めていた山間の村、向山村に、
幽閉され、妻子とともに質素な生活をしながら、
家譜の編纂に取り組む。
周りは百姓が住み、長久寺という寺があるのみ。

そして7年の歳月が流れた頃(残り3年)、
城内で刃傷沙汰を起し羽根藩の奥祐筆、
檀野庄三郎が家老の特別な計らいで助命され、
その代わりに秋谷の家譜編纂の補佐をするとともに、
秋谷の監視役を命じられる。

物語はここから始まる。

庄三郎は秋谷の家族とともに生活し、
家譜編纂の手伝いをするうちに、
次第に秋谷にひかれてゆく。

やがて10年が過ぎ、三浦家代々の家譜の編纂が完成する。
庄三郎は秋谷の娘、薫とめでたく祝言を挙げる。
息子の郁太郎も元服の儀を執り行う。

子供たちの行く末を見届け、
秋谷は切腹のため、長久寺へ向かうところで
物語は終わる。


蜩の記とは、秋谷が家譜編纂を命ぜられて以降、
編纂の傍ら、毎日のことを書き留めた日記である。

「蜩とは?」と、庄三郎の問いに対して、
秋谷は、
「夏がくるとこのあたりはよく蜩が鳴きます。
 とくに秋の気配が近づくと夏が終わるのを
 哀しむかのような鳴き声に聞こえます。
 それがしも来る日一日を懸命に生きる身の上でござれば
 日暮しの意味合いを籠めて名づけました。」

命を区切られた男の凄絶の覚悟、武士の清廉が
見事に描かれた、感動の物語である。  
by toshi-watanabe | 2014-07-20 10:07 | 読書ノート | Comments(0)

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山本兼一の「赤絵そうめん」を読み終える。

本年2月に他界された山本さんの作品を纏めて
この5月に単行本として文芸春秋から出版された
「利休の茶杓」の読後感を書いたばかり。

既に紹介した通りだが、「オール読物」に連載された
「とびきり屋見立て帖」のシリーズ作品である。
幕末の京都を舞台に、道具屋「とびきり屋」の若夫婦を
巡る波乱万丈の筋書きからなっている。
「利休の茶杓」実はこのシリーズの4冊目であり、
その前に3冊がすでに単行本として出ている。

その3冊目が「赤絵そうめん」、3年前に出版されている。
因みに、つい最近6月に文春文庫として、文庫版も出ている。
読む順序が逆になったのも致し方なし。

秀吉の戦国時代、武将から商人となり、
数代にわたり、商いで莫大な財産を手に入れ、
両替商でもある大商人なった銅屋(あかがねや)が登場する。
茶人でもある当主の吉左衛門が
数寄者がのどから手の出るほど欲しい
万歴赤絵の鉢を手放したいという所から話は始まる。
銅屋の蔵の話は「利休の茶杓」に続く。

「赤絵そうめん」、「しょんべん吉左衛門」、「からこ夢幻」、
「笑う髑髏(しゃれこうべ)」、「うつろ花」、「虹の橋」と
6編の作品で構成されており、
いずれも「オール読物」に2010年から2011年にかけて
連載された作品である。

最後の「虹の橋」に特に感銘を受ける。
作者の眼力が実に素晴らしく、卓抜していると思う。
主人公の真之介とゆずの若夫婦の意気はぴったり合い、
ゆずの目利きは真之介のそれを凌ぐように
描かれているのが面白い。
このシーズの1作目と2作目も今度読むつもりである。
文庫本が出ている。
by toshi-watanabe | 2014-07-20 09:47 | 読書ノート | Comments(0)

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葉室麟さんの最新作を読む。
「天の光」で、昨年「読楽」に掲載されたものに
加筆訂正されて今回単行本として発刊。
私の好きな仏師の物語である。

主人公の柊清三郎は、
福岡藩の普請方五十二石、柊尚五郎の三男に生まれ、
部屋住みの身では行く末が覚束ないと、
仏師の道を志した。
博多の慶派の仏師、高坂浄雲に17歳で入門。

やがて6年の修業を経て、23歳となった清三郎、
仏像を彫っていても、木に仏性を見いだせないのは
自分に力がないからか、それとも仏像の素材となる木に
仏性を宿す歳月が足りなかったのか、と思いをめぐらす。

師浄雲のひとり娘おゆきと祝言を交わす。
師に見込まれたものだが、兄弟子たちからは詰られる。
祝言を前に、兄弟子の玄達は浄雲の門人三人を伴い出奔。
浄雲の工房はすっかり火が消えたように。

その後1年経って、清三郎は己の彫る仏像に満足できず、
師匠の止めるのも聞かず京仏師の元へ。
新妻のおゆきには3年の約束で京の都へ向かう。

ところが、その間に悲劇が起きる
浄雲の工房に盗賊が入り、
浄雲は殺害され、おゆきは乱暴を受ける。
3年後、博多に帰った清三郎はこの惨劇を初めて知る。
おゆきは行方知れず。

その後物語は展開し、
島流しとなるおゆきをおって清三郎は姫島へ密航。

仏像を彫るということは、何という難行苦行なのだろうか。
何かをつかんだ、と思えば、
まだ、その先がある。
どこまでいっても到達するということがないのかもしれない。
そう思えば、仏像を彫るということは、
ひたすら空虚なものに向かって鑿を振るうだけなのかもしれない。
清三郎は漁師小屋で横たえながらそんなことを考える。
そして、自分がおゆきの「天の光」になろうと。
by toshi-watanabe | 2014-07-10 10:39 | 読書ノート | Comments(0)

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「私は歴史の敗者を描きたい。
 彼らの存在に意味はなかったのか、と。」
こう葉室麟さんは書かれているが、この著書は随筆集である。
28編の随想文で構成されている。
文春文庫の一冊。

司馬遼太郎の「龍馬がゆく」以来、
坂本龍馬は幕末薩長連合の中心人物と位置づけられ、
幕末の志士として人気を独り占めしている。
福岡藩の月形洗蔵(葉室さんの著書に登場する)こそ
薩長連合の口火を切った志士だと、葉室さんは語る。
新国劇の舞台で上演され、映画化もされた
「月形半平太」は月形洗蔵と土佐藩の武市半平太から
名前をとったのだろう。
陸上競技にたとえれば、洗蔵が第一走者としてスタートし、
中岡慎太郎がバトンを受けて走り、
龍馬が最後走者としてゴールのテープを切った。

私の知らないお二人のことが登場する。
上野英信さん。
戦時中、学徒動員で入隊し、広島で被爆。
戦後、京都大学を中退し、抗夫となる。
筑豊で労働者の文化運動に取り組み、記録文化作家となる。
葉室さんは学生のころ、ユースホステルで相部屋となったのが上野さん。
その時に上野さんに言われた言葉が忘れられない。
「いいか、駅のホームなんかで掃除をしているひとがいるだろう。
 そのひとの前でホームに煙草の吸殻を捨てるような人間に
 なったら駄目だぞ」と。
その後、筑豊に上野さんを訪ね、歓待される。

時代小説作家の北重人さん。
2007年、松本清張賞授賞式の二次会で、葉室さんは北さんと初めて会う。
北さんは山形県酒田の出身、一級建築として建築業の傍ら、
小説を書き始める。
最初の作品を出したのは56歳の時。
2009年、直木賞候補になりながら、お二人とも賞を逸する。
その年に、北さんは61歳の若さで逝く。

著書「刀伊入冦(といにゅうこう)」の主人公についても取り上げている。
藤原道長の兄で中関白と呼ばれた道隆の
四男が藤原隆家である。
当時権勢の絶頂にある道長の陰に隠れて、隆家は軽視されている。
日本の歴史上、海外から攻め寄せてきた異民族を
最初に撃退した英雄である。
ところが道長とはそりが合わず、生き方もまったく異なる。
道長にまったく従わなかったためすっかり冷遇されてしまう。

「桃栗三年柿八年」というが、続けて、「柚子は九年で花が咲く」。
著書の題名になっているが、著書の中でも何度も、
この言葉が書かれている。
お好きな言葉なのだろう。
葉室さんは50歳で作家生活に入っり、
10年後の69歳にして、直木賞を受賞する。
それも5回目の候補に選ばれての受賞。
受賞作は「蜩(ひぐらし)ノ記」。
柚子の花が咲くより1年余計にかかる。
授賞式のスピーチで、上野さんとのことを語る。

随筆集のあとに、おまけというのか短編小説が載っている。
「夏芝居」という、読んだ後清々しい気分になる小作品である。
by toshi-watanabe | 2014-07-08 09:20 | 読書ノート | Comments(0)