今井 絵美子著「残りの秋」を読み終える
2017年 11月 20日
お馴染み「髪ゆい猫字屋繁盛記」シリーズの最終巻
となった「残りの秋」を読み終える。
角川文庫、600円+税。
2015年にステージ4の乳がんを宣告された今井さん、
その後療養しながら執筆をつづけられていたが、
本年10月8日、病院で息を引き取られた。
享年72歳。
この場を借りてご冥福を祈るばかりである。
合掌
この作品は書き下しで今井さん最後の著作となった。
日本橋北内神田の照降町にある髪結床猫字屋がメインの舞台である。
そこには仕舞屋の住人や裏店に住む町人たちが日々集う。
江戸の長屋に息づく情景が見事に描かれている。
猫字屋を取り仕切っているのが女主のおたみ。
倅の佐吉は、廻り髪結いをしながら、お上から十手を預かる身。
自分の娘として育てたおよしとおけいもいる。
およしが嫁入りしたのが、紅師として身を立て独立、
坂本町に紅藤という見世を出している藤吉。
1人男児に恵まれ、二番目の子供が腹の中に。
ところが突然、大金を手に藤吉がどことも知れず出かけたまま。
結局、藤吉が幼い頃に生き別れとなっていた母親が
見つかり、その面倒を見るためだったとわかる。
母の最期を看取り、遺骨を手に、いざ帰ろうとした
藤吉のところに、見世の使いが急いで駆けつける。
およしはお産がうまく行かず大変な事態になっていると知らされる。
産婆では手に負えず、医者を呼んだと言われる。
猫字屋の面々や普段付き合いのある人たちが、
何かと手助けし、困ったことがあれば親身になって面倒を見る、
人情味溢れた話が盛りだくさん。
おたみをはじめ、登場する人物が交わす、
気風のいい江戸言葉がたまらなくいい。
初代水谷八重子演じる新派の舞台を見ているようだ。
とにかくほろっとさせられる、感動の一編である。
もう作品が読めないのは、残念です。