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史上最大の運慶特別展を見学する

去る10月31日、曇り空の上野公園を抜けて、東京国立博物館へ。
史上最大と銘打った「運慶特別展」が9月26日から11月26日まで開催中。
すでに開始後一カ月経過、そろそろ空いているのではと予想していたのだが、
入場券を買い求め、平成館の前に行くと、何と長蛇の列。

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列の最後尾には案内の若者が立ち、掲げたプラカードには「60分待ち」。
諦めて列に並ぶ。
日差しがないので、暑くもなく寒くもなく、辛抱する。
建物の間からは、東京スカイツリーが望める。
紅葉はまだこれからである。

実際には40分程度で平成館には入れる。
エスカレーターを登って2階の展示会場へ。
見学者でごったかえしている。
とてもゆっくり見られたものではない。
各自がかってな方向に移動するので、ぶつかることもしばしば。
それでも、会場を二回りして見学する。

時代の移り変わりに沿って、展示は大きく三つのセクションに分けられている。
第1章は「運慶を生んだ系譜 -- 康慶から運慶へ」。
康慶は仏師慶派の祖と言われ、運慶の父親である。
康慶の作品と運慶初期の作品が展示されている。
奈良長岳寺の「阿弥陀如来及び両脇侍座像」(1151年、重要文化財)。
平安時代、奈良仏師により造られた仏像、奈良仏師の一派から独立して慶派が形作られる前、
運慶がちょうどこのころ生まれたとされている。
残念ながら、10月30日以降は勢至菩薩座像のみの展示。
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山の辺の道を歩かれた方は、長岳寺に立ち寄り、参拝されていることでしょう。

奈良円成寺の「大日如来坐像」(1176年、国宝)。
現存する最も早い運慶の作品とされ、溌剌とした表情と体格、髪のふくらみも写実的、
運慶の類まれな才能を感じさせる。
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数年前円成寺を訪れた際は、本堂から離れた小さなお堂(多宝塔)の奥に安置され、
外部から覗き見るだけでは、十分に鑑賞できなかったが、
今回は間近に見られ、じっくりと観賞できた。

次いで目を引いたのが、奈良興福寺の「仏頭」(運慶作、1186年、重要文化財)。
見事な造りの仏頭である。
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この時代の運慶の他の作品と比べて、作風に疑問を感じる専門家もおられる。

康慶作、奈良興福寺の四天王立像(1189年、重要文化財)
写真は多聞天立像。
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同じく康慶作、奈良興福寺の「法相六祖坐像」(1189年、国宝)。
写真は伝行賀。
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このセクションには、他に「毘沙門天立像」(1162年、東京国立博物館所蔵、
元は奈良中川寺十輪院伝来、重要文化財)、
「地蔵菩薩坐像」(康慶作、1177年、静岡瑞林寺、重要文化財)なども出展。

第2章は「運慶の彫刻 -- その独創性」。
運慶の作品がずらっと展示されている。
静岡願成就院の「毘沙門天立像」(1186年、国宝)。
「願成就院」
この伊豆の寺院には、今回出展された毘沙門天立像の他に、
阿弥陀如来坐像、不動明王立像と2童子像の国宝が安置されている。
運慶作品の宝庫である。
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引き締まった体で左に腰をひねって立ち、力がみなぎって、
武将のような顔つき、今にも動き出しそうである。

次いで神奈川浄楽寺所蔵の仏像群。
「阿弥陀如来坐像及び両脇侍像」(1189年、重要文化財)。
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「不動明王立像」(1189年、重要文化財)。
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「毘沙門天立像」(1189年、重要文化財)。
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京都六波羅蜜寺の「地蔵菩薩坐像」(12世紀、重要文化財)。
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東京真如苑真澄寺の「大日如来坐像」(12~13世紀、重要文化財)。
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今から9年前の2008年、ニューヨークでのオークションに登場、
宗教団体・真如苑が高額な価格(約14億円)で落札し、
大きな話題になった運慶作の仏像。

栃木光得寺の「大日如来坐像」(12~13世紀、重要文化財)
珍しく厨子に納められている。
台座の下を獅子の像が支えていっるのも面白い。
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愛知瀧山寺の「聖観音菩薩立像」(運慶・湛慶作、1201年頃、重要文化財)。
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この像内に頼朝の髪と歯が納められたと、「瀧山寺縁起」に記されているが、
X線写真により確認されている。
表面の彩色は後補である。

1998年に発見され、つい最近の2014年に、運慶の作と認定されたのが、
神奈川光明院の「大威徳明王坐像」(神奈川県立金沢文庫保管、1216年、重要文化財)。
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奈良興福寺の「無著菩薩立像・世親菩薩立像」(1212年頃、国宝)。
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このセクションには、他に和歌山金剛峯寺の「八大童子立像」(1197年頃、国宝)、
奈良興福寺の「四天王立像」(13世紀、国宝)なども展示されている。

第3章は「運慶風の展開 -- 運慶の息子と周辺の仏師」。
運慶には6人の息子がおり、いずれも仏師になっている。
そのうち、単独で造った作品(仏像)が残るのは、湛慶、康弁と康勝である。
奈良東大寺の「重源上人坐像」(13世紀、国宝)。
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康弁作、奈良興福寺の「龍燈鬼立像」(1215年、国宝)。

天燈鬼立像も同時に出展されている。
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「十二神将立像」(13世紀、重要文化財)。
京都浄瑠璃寺伝来であったが、明治の初めに流失、
現在は東京静嘉堂文庫が7躯、東京国立博物館が5躯を所蔵しており、
この12立像が勢ぞろいするのは、42年ぶりのこと。
写真はそのうちの3躯。
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このセクションには、他に京都清水寺の「観音菩薩立像・勢至菩薩立像」
(12~13世紀、重要文化財)、京都東福寺の「多聞天立像」(12~13世紀)、
神奈川満願寺の「観音菩薩立像・地蔵菩薩立像」(12~13世紀、重要文化財)、
京都海住山寺の「四天王立像」(13世紀、重要文化財)、
高知雪蹊寺の「毘沙門天立像・吉祥天立像・善贓師童子立像」
(湛慶作、13世紀、重要文化財)、京都高山寺の「善妙神立像」
(湛慶作、13世紀、重要文化財)、京都妙法院の「千手観音菩薩坐像の
光背三十三身像のうち、迦楼羅・夜叉・執金剛神」(湛慶作、1254年、国宝)など。

この特別展見学後、本館の14室に向かう。
「運慶の後継者たち -- 康円と善派を中心に」と題して、
重要文化財を含む14躯が展示されている。
展示期間は、8月29日から12月3日まで。

その後、本館の裏側に広がる庭園を散策する。
紅葉はこれからである。
久し振りに歩いたので、足が棒のよう、帰途に就く。




















Commented by omachi at 2017-11-03 18:40 x
運慶展を観た方にWEB小説「北円堂の秘密」をお薦めします。
グーグル検索にてヒットし、小一時間で読めます。
少し難解ですが面白いです。
18パートを順に追えば思考力を試せます。
Commented by semineo at 2017-11-03 23:55
こんばんは
運慶展に行かれたのですね。
仏像ファンのwatanabeさんらしい、
解説と写真のアップでとても楽しめました。
一堂に運慶作品を見られるまたとない機会なので、
行きたいと思っていますが、混んでいるようですね。
Commented by toshi-watanabe at 2017-11-04 09:02
omachiさん、
ご紹介を有難うございます。
大町さんの書かれたものですね。
今度ゆっくり読ませていただきます。
Commented by toshi-watanabe at 2017-11-04 09:05
semineoさん、
早速読んでいただき有難うございます。
運慶展は見逃せません。
特に今回の特別展は規模も大きく、運慶の作品を見る絶好の機会です。
ぜひお出かけください。
週末は夜間も開いていて、ゆっくり見学できるという話も聞きました。
Commented by desire_san at 2017-11-26 14:14
こんにちは、
私も「運慶」展を見ましたので、美しい画像のブログを読ませていただき、北斎の傑作を再体験することができました、運慶展の最初に展示されていた、26歳のときの作、円成寺「大日如来座像」は、若々しい面相と体躯には青年運慶の想念が伝わってきて、整然とした刀の冴えのすばらしさに、人間の体の動きの方向を把握して自然の動きの方を捉える眼と適切な造形をする添付の才能を感じました。無著像、世親像は、どっしりとした塊量を持ち、揺るぎない存在感に溢れていていました。世親像は、壮年のたくましさと覇気に満ち、無著像はきびしさたくましさのうちにやや枯れた感じでしたが、精神の深みを感じました。今までじっくり見たことのない四天王像や十二神将像も見られ、高野山霊宝館、静岡県願成就院、浄楽寺など、東国の寺にも運慶の傑作がたくさんあることを知り、運慶という仏像彫刻家のスケールの大きさを改めて知りました。

私も「運慶」展を見て、以前奈良・京都で見た運慶の傑作も含めて、運慶の優れた仏教彫刻の全貌を整理して、その魅力を考察してみました、観ていただけると嬉しいです。ご感想・ご意見などをブログにコメントいただけると大変します。


Commented by toshi-watanabe at 2017-11-27 09:10
desireさん、
コメントをいただき有難うございます。
鎌倉幕府の頼朝の要請もあって、
運慶などの仏師が、東国にやって来たのでしょうね。
伊豆の願成就院へは、今年を含めて3度でかけています。
願成就院のホームページがまた素晴らしいです。

desireさんのブログ、拝見させていただきます。
by toshi-watanabe | 2017-11-03 11:49 | 寺院・仏像 | Comments(6)

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