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内田 康夫著「ユタが愛した探偵」を読む

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内田康夫さんの著書「ユタが愛した探偵」を、

最近出版された光文社文庫版で読む。

題名からもお分かりの通り、沖縄が舞台の物語。

この作品は199910月に単行本して徳間書店から

発行されているが、著者にとっては記念すべき作品である。

198012月に「死者の木霊」を発表して以来、

全国都道府県に足を残す作品群を書かれてきて、

「旅情ミステリー」と呼ばれた。

名探偵、浅見光彦が現地に出かけ、数々の事件を解決してきた。

およそ20年をかけて、全都道府県を巡り、最後が沖縄県で締めくくる。

著者はあとがきに最後の「聖地」沖縄として解説されている。

じつは、沖縄を書こうという計画はその数年前からありました。

取材も三回を数え、かなりの沖縄通になったつもりでもありましたが、

どうしてもイメージが湧いてこない。

というよりも、書く前から尻込みしているようなところがありました。

沖縄は戯れにエンターテーメントの取材対象などに

してはいけないと思っていました。

その理由はもちろん、あの戦争の被害と、長く米国の

占領下にあった苦難の歴史があるからです。

たんなる観光気分ではなく、真正面から沖縄と向かい合うには、

それ相当の覚悟が必要だと思いました。

そうでなければ沖縄に失礼だと、本気で思っていました。

私自身も正直なところ、沖縄は未知の土地、一度も現地を訪れたことがない。

この小説を読んで、本題のミステリーとは別に、

沖縄について改めて考え直す機会になったように思う。

終戦から丸26年間米国の占領下にあった沖縄、27年目にやっと

日本復帰を果たし、お祝いをし、時の総理大臣は

ノーベル平和賞を受賞したのだが、その後の沖縄には、

米軍の基地はそのまま残り、本土との地域差は埋められることもなく、

変わったのは、車が左側通行になったくらいではと言われる。

琉球王国だった歴史もあり、現在の姿が沖縄の人たちにとって
幸せなのだろうかと疑問を抱いてしまう。

さて作品に登場する「ユタ」という言葉は初めて目にする。

沖縄では当たり前のことのようだ。

沖縄の民俗というか宗教的な風習とでもいうのか、

単なる占術や悪魔祓いではなく、ごく日常的な通過儀礼なのだろう。

ある程度の年齢に達した女性が、「ユタ」になるようだ。

ところが生まれつきというか、幼い時から、幻覚にとらわれ、

普通の人に見えないものを感じ取り、

常識では理解できない能力を有する人がごくわずかだが存在し、

「ユタ」たちからは特に敬われている。

この作品のプロローグでは、物語の主人公となる女性の

幼い頃が登場する。

名前を式香桜里(かおり)という。
小学生時代に彼女は不思議な体験をする。

式という苗字も珍しく、調べてみると、九州地方に比較的多いようだ。

さて本題は、彦根で開催される「ブクブク茶会」の場面から始まる。

ブクブク茶とは沖縄で飲まれている振り茶のこと。

茶会があるのは彦根の清涼寺で、井伊家の菩提寺である。

先代井伊家に嫁いできたのが、沖縄出身、

しかも琉球王・尚家最後の姫君という縁で、

すでに恒例の未亡人となっている元姫君を囲んでの茶会。

この茶会を地元のテレビ局が取材し放映するところから、

沖縄で起きる事件へと進展する。

沖縄からの茶会参加者の一人に成人した式香桜里もいる。

香桜里が幼い頃、母親の運転で両親がある夜出掛ける。

香桜里も誘われるが嫌な予感がして一緒に出掛けるのを断る。

海岸沿いの崖っぷちで運転を誤り、車は海に転落、

両親は二人とも命を落とす。

警察では事故死として処理するのだが、香桜里には事故の現場が

はっきりと見えている。

対向車のライトにより、運転を誤り海に転落した姿が。

警察に調べるように依頼するも相手にされず。

過去にそんな事件があった。

実は対向車は存在し、その車には3人の男が乗っていたのだが、

彦根での茶会の後、沖縄で一人の男が遺体で発見される。

その遺体とは、香桜里の両親が事故死したときの

対向車に乗っていた男の一人。

殺人かどうかというのが、このミステリーの面白い所。

浅見光彦も途中から登場し、

推理と行動により、事件を解き明かしていく。

因みに、「題名」にある「ユタ」とは式香桜里、

「探偵」とは無論、浅見光彦のことである。

興味のある方は是非読んでいただきたい。



by toshi-watanabe | 2017-04-30 08:40 | 読書ノート | Comments(0)