武内 涼著「駒姫」を読む
2017年 03月 14日
武内涼さんの最新作書き下ろし「駒姫」を読む。
サブタイトルとして、「三条河原異聞」とある。
この作家の作品を手にするのは初めて。
秀吉が関白の地位を甥の秀次に譲り、
己は身を引いて太閤殿下となるのだが、
何かと口出しをし、甥の行動を監視し続ける。
しかも寵愛の側室、淀君(最近は淀殿というのが通常だが)に
男児が誕生、お拾と名付けて可愛くてしょうがない。
豊臣家をお拾(のちの秀頼)に継がせたい秀吉は、
秀次が邪魔になり、側近の石田三成や増田長盛を使って、
秀次を窮地に陥れ、紀州高野山に追いやる。
やがて秀次は高野山で自害して果てる。
後顧の憂いが無いように秀吉の命により、
秀次の正室、側室とその子供たちと侍女など
総勢39人の女子供が京都三条河原で処刑される。
無実の罪で処刑へ至る、涙を誘う物語である。
プロローグは、秀次が高野山で自刃する場面。
本文は、山形十九万石の太守、最上義光(もがみよしあき)の
息女、駒姫が出羽を出発、柏崎、直江津を通り、北国街道を南下、
琵琶湖を経て京の都へ向かう長途の旅から始まる。
前年、山形城を訪れた秀次に見初められた駒姫が
秀次の側室として輿入れするためである。
最上家の老家老、氏家尾張守が一行をまとめ、
鮭延主殿助(さけのべとものすけ)や
主殿助の許婚で御物師のおこちゃが付き従う。
父親の義光と人質として京に住む母親のとしよが
京の最上屋敷で駒姫を迎える。
駒姫は最上屋敷から秀次の宮殿、聚楽第に輿入れする。
豪華な嫁入り道具、そして駒姫の小紋など、手仕事に優れた
おこちゃが侍女扱いでともに聚楽第へ。
ところが、秀次はすでに高野山に居り、
東国一の美女と評判の15歳の駒姫、秀次のお目通りもなく、
聚楽第で無為の日々を過ごす。
秀次には正室が二人、一の台(母親が武田信玄の妹)と
若政所(池田恒興の娘)、そして十指に及ぶ側室たち。
一の台は駒姫の面倒をよく見てくれる。
駒姫が聚楽帝にあがって4日目、秀次が自刃した日なのだが、
聚楽第に詰問使がやって来て、侍女を減らすように指示。
そして翌日には、正室の一人、若政所と侍女は放免され
(父親の池田恒興は秀吉の命を救ったことがある)、
残りの39人の女子供(側室の幼子が5人)は丹波の
一の台が、駒姫とおこちゃは秀次と未だ夫婦生活を
しておらず、側室とは言えない状況なので、放免するよう
依頼するのだが聞き入れられず。
このことを知らされて最上屋敷では大騒ぎ。
義光は何とか話をつけようと動き回るも、逆に蟄居を命じられる。
家臣の堀喜吽(ほりきうん)と鮭延主殿助は、
両替商の柿屋宗春の助けを借りて、いろいろと手を尽くす。
増田長盛にはけんもほろろにあしらわれ、秀吉の侍医をしている
施薬院全宗に頼み込むものの功をなさず。
次いで北政所に二人の救助を頼むものの、
秀吉の意思を曲げることならず。
更に徳川家康に頼み込むと、家康は秀吉の後、天下平定のために
最上の存在は価値ありという打算もあり、依頼を引き受ける。
秀吉との会談、一度目は失敗、そして斬首の当日、二度目の会談に、
丁々発止と交わされる二人の対話が物語を盛り上げる。
最後の切り札、淀君に忍びを使って接触、淀君が茶々の時代、
15歳の時に両親が自刃に果てたことなどを思い出させ、
淀君は駒姫たちの助命嘆願のため、秀吉の元に駆けつける。
その場には秀吉と家康がいる。
淀君の言葉に秀吉も二人の助命を認め、急きょ早馬を三条河原へ。
ところがわずかなところで間に合わず、
すでに39人すべてが処刑済みだった。
武内涼さん、どんな方か全く存じていないが、
この作品は素晴らしい出来栄えである。
小説なので、全てが事実とは限らないが、
実によく調べられている。
物語の筋立ても優れているし、登場人物が生き生きと描かれている。
秀吉と家康のやり取りは真に迫ってくる。
義光の妻、としよは直ぐ亡くなり、最愛の妻と娘に先立たれた
義光だが、駒姫の遺言を守り、藩のために力を尽くす。
関ケ原の合戦では東軍につき、その働きを認めた家康は加増し、
最上家は五十二万石(五十七万戸という説も)の大大名となる。