葉室 麟著「孤篷(こほう)のひと」を読み終える

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葉室麟さんの作品「孤篷(こほう)のひと」を読み終える。
丁度留守中の昨年9月に出版されている。
この作品の主人公は、大名、茶人、作庭、建築、
そして書家として名を遺した小堀遠州である。

孤篷庵(こほうあん)は、京都市北区紫野にある臨済宗の寺院、
臨済宗大徳寺派大本山大徳寺の塔頭である。
他の塔頭群とは離れた、大徳寺境域の西端に位置する。
庵号の「孤篷」は「一艘の苫舟」の意で、
小堀政一(遠州)が師事した春屋宗園から授かった号である、
遠州の遺骸は孤篷庵に葬られた。
因みに遠州出身地の近江長浜にも「近江孤篷庵」がある。

読み終えた感想を先に書けば、非常にすぐれた作品だと思うし、
とにかく面白く、途中で止められず先を読みたくなるほどだ。

有縁の人々との巡り合いを通じて、遠州の人柄が見事に描かれている。
書籍の帯に、「さわやかであたたかな遠州の心が胸を打つ、歴史小説」
と書かれているが、まさにその通りだろう。

遠州は天正7年(1579)、近江国坂田郡小堀村に生まれた。
父は小堀新介正次で秀長の家臣、母は磯野丹波守貞正の娘。
名は政一、幼名を作介という。
秀長が大名として大和郡山に移封されたのに伴い、
小堀一家も郡山に移り住むことに。
政一は小姓として秀長に仕える。

慶長2年、政一19歳の折、藤堂高虎に気に入られ、
高虎の養女、栄(13歳)と夫婦となる。
後に政一は作事奉行を務め、建築と造園に才能を発揮する。
また父親の手ほどきを受けて茶の湯を学んでいたが、
古田織部の指導を受けて、めきめきと茶道の腕を上げる。
織部亡き後、大名茶の総帥として、多くの大名茶人を指導する。

慶長13年、従五位下遠江守に叙せられ、遠州と呼ばれることになる。

第1章の「白炭」では、政一が初めて利休と顔を合わせる場面が
登場するが、二人が会うことはその後二度となかった。
それは政一が豊臣秀長に仕えていた時のことで、
秀長が茶の湯の接待をすることになり、茶の湯を指導するために、
利休が秀長の屋敷にやって来たのだが、その場に控えていたのが
小姓の政一。
利休は政一のことがふと気になり、政一に言葉をかける。
石田三成のこと、山上宗二のこと、黒茶碗のことなどに
話は及び、のちに政一は織部を通して、利休の孫弟子になるのだが、
茶の湯の根本的な考えにおいて、利休とは異なるものを
すでにその場で政一は感じ取る。

第2章の「肩衝」では、三成と禅僧の沢庵が登場する。
茶道具名器の「万代屋肩衝」を三成が手放す下りは面白い。
三成の遺骸を三玄院に葬ったのは沢庵だという。

第3章「投頭巾」、続いて「此世」、「雨雲」、「夢」、「泪」、
「埋火」、「桜ちるの文」、第10章の「忘筌」で締めくくる。

利休が切腹を命じられ堺に向かう時、古田織部と細川三斎(忠興)の
二人だけが見送った。
いずれも利休七哲と言われた利休の高弟である。
因みに利休七哲の他の5人とは、
蒲生氏郷、高山右近、芝山宗綱、瀬田掃部と牧村利貞。
利休は茶杓を削って、見送ってくれた二人に渡した。
三斎に渡したのが「ゆがみ」、織部に渡したのが「泪」という
銘で、第7章の主題となっている。
古田織部が自刃した後、古田屋敷を接収したのが遠州の義父、
藤堂高虎だが、「泪」銘の茶杓が見つからず、
遠州にその茶杓を見つけてくれるように依頼する。
実は自刃する前に織部は娘の琴にその茶杓を手渡していた。
琴は織部の娘であるということで、
京都所司代の牢屋敷に閉じ込められている。
琴が病で倒れたのを機に、遠州は「泪」の茶杓を手に入れる。
高虎は琴の面倒を見、琴は病からすっかり快復する。
琴は高虎の屋敷を出る前に、遠州の茶の点前を見たいという。
遠州は茶を点てた高麗茶碗を琴の膝前に置く。
琴は茶碗を落ち着いた所作で手にして、茶を喫すると、
茶碗を膝前にゆっくりと戻してから、おもむろに口を開く。

「わたくしの父は常日頃ひとを喜ばせようと茶を点てていた気がします。
 ひとが喜ぶ姿を見て自らも嬉しくなる。
 それが父の茶ではなかったかと思います。
 小堀様はいかようなお心で茶を点てておられましょうか。」
遠州は少し考えてから、
「さほど、確たる思いがあるわけではございませんが、
 強いて申せば、相手に生きてほしいとの思いは
 込めているように思います。」
「生きてほしい、とはどのようなことでしょうか。」
琴は問い詰めるように聞く。
「さて、ひとがこの世にて何をなすべきかと問われれば、
 まず、生きることだとお答えいたします。
 茶を点てた相手に、生きておのれのなすべきことを
 全うしてもらいたいと願い、それがかなうのであれば、
 わたしも生きてあることを喜ぶことができる。
 さような思いでおります。」
遠州は考えながら答えた。
琴はそんな遠州をじっと見つめる。
このあとも二人の会話が続くが、この小説の一つの
クライマックスだと思う。

お薦めの一冊である。


by toshi-watanabe | 2017-01-16 08:47 | 読書ノート | Comments(0)