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池井戸 潤著「陸王」を読み終える

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池井戸潤さんの最新作「陸王」を読み終える。
埼玉県の行田市といえば、足袋の郷として知られる。
ところが最近は、足袋の生産出荷高では、
四国の徳島県が圧倒的に多く、埼玉県は二位に甘んじている。
徳島では、足袋を伝統的特産物としている。
すくなくとも戦前は、行田が足袋の8割を生産していた。

この作品は、行田で百年余り続く足袋の老舗「こはぜ屋」の物語。
行田市の中心地からやや南、水城公園とさきたま古墳公園に
はさまれた場所に、こはぜ屋は昔ながらの本社屋を構えていた。
創業は大正2年(1913)、綿々と足袋製造を生業としてきた。
四代目を継ぐのが社長の宮沢紘一。
以前の活気あふれた業界もすっかり時代の変化に対応できず、
衰退の一途をたどるばかり。
足袋と足袋本体の底部にゴム底を取り付けた地下足袋の生産で
細々と商売をしている、こはぜ屋の宮沢社長は、
一念発起、ランニングシューズの製造を思い立つ。

ランニングシューズで重要な部分の一つが靴底のソール。
ソールの素材が非常に重要である。
軽くて、耐久性があって、ランナーの足にフィットしなければならない。
倒産したシルクールの飯山晴之社長がある特許を持っているのを
宮沢社長は知り、その技術により作られたサンプル素材を目にする。
繭(といっても不良品やシルクに加工できないような半端な繭)を
特殊加工し、成形したもので、およそ8センチ四方にカットされた
キューブ上の素材である。
天然素材である繭の特性として、強靭で軽く、防虫効果がある。
成形も簡単で、しかも環境に優しい。
まさにソールの素材にピッタリ。
ランニングシューズのソールに使う素材を「シルクレイ」と呼ぶことにする。

飯山を顧問に迎え、飯山の試作した機械設備もそのまま導入、
全く新しい素材のソールを取り付けたランニングシューズの製造に入る。
スポーツ用品の業界には全くの素人であるこはぜ屋に
大きな味方として支援するのが、シューズマイスターの村野尊彦。
シューズマイスターとは、一流のランナーと専属契約を結び、
ランナーにピッタリ合うシューズの開発に当たる。
村野は一流ブランドのスポーツ用品企業に所属していたが、
上司の営業方針と意見が合わず退社する。
こはぜ屋の相談役としてランニングシューズ開発の支援を行う。
こうして順調に新しいスタートを切ったに見えたが、
試作用で、何とか部品を交換しながら使っていた
機械の心臓部がついに故障し、修理も利かない状況に。
新たに設備するには、1億円単位の資金が必要になる。

池井戸作品に度々登場する銀行の対応の悪さが
この作品でも書かれている。
こはぜ屋のメインバンクは例の如く、
実績もなく、明確に先の見えない新規事業には
一切資金援助をしない。

こはぜ屋が作り始めたランニングシューズのブランドが
作品名となっている「陸王」である。
村野の伝手で一流ランナーの茂木裕人に陸王を紹介し、
正月の全日本実業団駅伝で使用してもらう。
結果は見事成功し、事業はこれからというときに、
肝心の製造機械の新設が成らず、宮沢社長は苦悶するばかり。

そこに救いの神が現れる。
最後はめでたしめでたしで物語は終わる。
小さな足袋メーカーが苦難の壁を乗り越えて行く
姿が生き生きと描かれ、ハラハラしながら読んでしまう。

いずれは、ドラマ化されて放映されることと思う。



by toshi-watanabe | 2016-07-16 09:40 | 読書ノート | Comments(0)