宇江佐 真理著「雪まろげ」を読み終える

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宇江佐真理さんの著書「雪まろげ」(新潮文庫)を読み終える。
「古手屋喜十 為事(しごと)覚え」の第二作である。
この期待されたシリーズ、「雪まろげ」に続く作品、第三作は、
昨年11月、作者が亡くなられたため、日の目を見ることはない。
実に残念である。

浅草田原町で古手屋「日乃出屋」を営なむ喜十と女房のおそのが
このシリーズの主人公、古手屋とは、現代でいう古着屋のこと。
江戸時代、庶民には新品の着物は高嶺の花で、
古手屋で着物を買うのが一般的。
大切な着物を売りたい人と、買いたい人を繋ぐ役目を果たしていた。
そこには悲喜こもごもの人間ドラマが起きる。

第一話の「落ち葉踏み締める」は前作の最終話「糸桜」の続きで、
何故、日之出屋の店先に赤ん坊が捨てられていたのか、
赤ん坊を捨てた、悲しい家族の事情が書かれている。
新太は勉強好きな子供で、手習所に通っていたのだが、
病に倒れた父親が一年寝ついて死ぬと、新太の下に五人も
弟や妹がいては、手習所に通うどころではなく、
母親を助けて食べて行かなければならない。
まだ14歳の新太は業平橋の袂でしじみを採り、その業平しじみを
売り歩き売上金で行徳の貝屋に行き、はまぐり、あさり、さるぼう、
あおやき等の貝類を分けてもらう。
仕入れた貝は母親が剥き身にし、深川めしを出している
「おたふく」という飯屋に持って行く。
とても一家の生計を立てるのは難しく、末っ子の捨吉
(まだ生まれて半年もたっていない)を育てるのは手に余るから、
どこかにもらってくれる人を探すように、母親のおうのは新太に言う。

本所界隈でしじみ売りをしていた新太は、吾妻橋を渡り浅草まで
足を延ばしたことがあり、その折りに気持ちよくしじみを買ったくれたのが
日之出屋の女房おそのだった。
それを思い出して、夜遅く浅草田原町へ新太は出かけ、
末弟の捨吉を日之出屋の軒先に置いた。
子供のいなかった喜十とおそのは捨吉を養子にし、大事に育てる。
捨吉を日之出屋の前に置き去りにしてからひと月、新太は思い切って
浅草へしじみ売りに、そしておそのに背負われた 捨吉を見て一安心。
その後、ひょんなことから捨吉の養育先を母親が知ることになり、
母親は日之出屋に行くという。
そこで悲劇が起きてしまう。

第二話は著書名となっている「雪まろげ」。
このシリーズには、日之出屋によく姿を現す、
北町奉行所隠密廻り同心の上遠野(かとの)平蔵が登場。
平蔵は何かと事件を持ち込んでくる。
効果のない偽薬を売る薬種屋を探る話である。

第三話は「紅唐桟(べにとうざん)」。
喧嘩沙汰を起こしてしょっ引かれた男が
分不相応なまでに高値な紅唐桟の紙入れを持っていた。
拾ったという男の証言が信じられず、
上遠野は紙入れの持ち主を探してほしいと喜十に頼む。

第四話は「こぎん」。
殺人の疑惑もある身元不明の男の死体が寺の本堂の下に。
死体には妙な縫い取りがある半纏のような上着が手掛かり。
喜十は、上着を店の前に置き、事情を知っている人が
現れるのを待つ。
こぎんと呼ばれる着物の縫い取りが誕生した裏側には、
東北の貧しい農家における哀しい歴史がある。

第五話は「鬼」。
左耳の傍に瘤がある母親と、重い皮膚病ゆえに
肌に負担が少ない古い浴衣がほしいという息子が、
日之出屋を訪れる。

第六話は「再びの秋」。
喜十とおそめが、再び捨吉を捨てた家族と向き合うことになる。
新太(すでにこの世にはいない)の弟で、捨吉の兄にあたる
幸太も日之出屋に引き取られ、新太の下の二人の妹たちも
無事近くの家に引き取れることになる。
家族の本質とは何か、家族の幸福とは何か、
喜十とおそめ、そして養子に入った捨吉が、
ともに家族として成長していく物語を通じて、
考えてほしいと訴えているのではないだろうか。
一気に読ませる作品である。



by toshi-watanabe | 2016-07-08 09:47 | 読書ノート | Comments(0)