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北原 亞以子著「初しぐれ」を読む

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最近、文春文庫として出版された、
北原亞以子さんの著書「初しぐれ」を読む。
北原さんは、3年前の3月、心臓病の治療も甲斐なく、
75歳の生涯を閉じられた。

今回出された文庫本は、晩年に書かれた短編五編と
直木賞受賞後第一作の作品集で、
「オール読物」などで発表されて以降、
いずれも初めて単行本に収録された作品である。

因みに北原さんは、1993年に「恋忘れ草」で直木賞を受賞。
その後「慶次郎縁側日記」は高橋英樹を主演にNHKでドラマ化、
人気シリーズとして評判を得た。

書名ともなっている作品「初しぐれ」は江戸の市井が舞台、
糸物問屋三枡屋を営む長右衛門、おくら夫婦には娘が二人、
姉のおしずが婿をとり、婿の楠太郎が三枡屋の七代目を継ぐ。
所がまだ赤子の清太郎を残して、おしずが病で亡くなる。
両親から説得され、暖簾を守るために妹のおこうが楠太郎の後妻に。
二人の間に二人の子供、おゆみと正次郎が生まれるものの、
三枡屋楠太郎が37歳で亡くなる。
亭主に先立たれたおこうがこの作品の主人公である。
四十九日を済ませ十日経ち、亡姉おしずの息子、清太郎も
立派に成長している。
両親から頼まれた役目は無事につとめ終えて肩の荷が下りた、
おこうはかっての許婚者だった市之助を訪ねて行くのだが、
すでに所帯を持っている市之助はおこうのことを全く知らぬと言い切る。
雨の降りだした中を帰るおこうに清太郎が傘をさしかける。
巧みな作品に仕上げている。

「海の音」と「捨足軽」の二作は、長崎シリーズ。
長崎港にやってくる異国船に対応する長崎奉行に
絡んだ事件を題材に描いている。

「犬目の兵助」は南蛮渡来のぎやまんの手鏡である
「私」を主人公にした作品の一つである。
「老梅」は、丙午に生まれた女は夫を殺すと迷信に言われ、
二度もそういう目にあったおたかが主人公。
縁起の悪い女と言われた半生だが、
このまましぼんではたまらない。
はなやかな噂の一つや二つはたてて
『幸せだった』と笑ってあの世へ行きたい、
年老いた梅のように、もう一度花を咲かせたい。
縁側から庭に出る。
梅の老木はきれいに花を落として、
薄緑色の葉を芽吹かせていた。
よく見ると、たった一輪が花を咲かせていた。
苔の生えた幹の、それも根もとの方から、
数枚の葉をつけた小枝を従えて顔を出した花だった。

「アーベル・ライデル」は、平成5年(1993)
7月15日、「恋忘れ草」で第109回直木賞を受賞し、
忙しい最中ほぼひと月で書き上げた
直木賞受賞第一作だそうだ。
昭和5年(1930)の東京下町が舞台で、
26歳上の椅子職人芳次郎に嫁したふみが主人公。
ふみは17歳で後妻になった。
先妻の息子洋一郎とは5歳しか違わず、
道ならぬ恋ごごろを抱いている。
女の狂おしい心の揺れをテーマに据えて、
戦前の職人一家を描いている。

「イッヒ リーベ ディッヒ(私は君を愛す)
アーベル ライデル(だが残念ながら)
ドゥー リープスト ニヒト ミッヒ(君は僕を愛していない)」

巻末に、インタビュー「入院中も江戸の街を歩いていた」
が掲載されている。




Commented by Jun at 2016-07-07 06:41 x
姉が北原亞以子の作品が好きでよく読んでいたので、読み終えたものを時々送ってくれたり里帰りの時にもらって来たりしたんですが、これは知りませんでした(でもタイトルに憶えがあり・・・彼女が読んでいたかもしれない。)
3年前に亡くなられていたのは知りませんでした。惜しいことですね。
姉もすごい読書家なんですが、Watanabeさんの読書量にもびっくりします。
私は以前ここでご紹介戴いた「維新の肖像」を日本のアマゾンで注文してようやく手にしたんですが、ちょっと開いたきりまだ「読みかけ」のまま・・・・姉は先に(姉の所に発送したので)、2日足らずで読んでしまいました。
う~む、私も頑張らなくちゃ。
ご紹介のこの本もいつか読んでみますね。 きっと姉のところにあると思います^^
Commented by toshi-watanabe at 2016-07-07 08:55
Junさん、
コメントをいただき有難うございます。
文庫本(単行本)にまとめられて出版されたのは初めての作品ばかりです。
姉上様が北原ファンでしたか。
この本もすでにお読みでしょうね。
結構暇な時間があるものですから、時代物、歴史物が中心ですが、読みふけっています。
by toshi-watanabe | 2016-07-04 09:53 | 読書ノート | Comments(2)