朝井 まかて著「残り者」を読み終える


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朝井まかてさんの最新作「残り者」を読み終える。
因みに著書カバーの挿画は瀬知エリカさん。
時は慶応4年(1868)の4月10日、
天璋院はいよいよ江戸城西丸の大奥を立ち退き、
御三卿の一家である一橋邸に引き移る。
その二日前の8日、大総督府から徳川家へ
「江戸城明け渡し」の沙汰があったばかり。

天璋院とは、島津家の養女、さらに近衛家の養女となり、
徳川13代将軍、家定三度目の御台所として江戸城に迎えられた篤姫、
家定亡き後、天璋院となる。
14代将軍、家茂の御台所、和宮は家茂亡き後、静寛院宮となり、
すでに前日、西丸を出て御三家の一家、田安邸に移っている。
当時西丸には天璋院、静寛院宮のほかに、家定公の御生母、
本寿院、家茂公の御生母、実成院も暮らしていた。
しかも各々が数十人から百数十人の奥女中を召し抱え、
奥女中らはまたそれぞれ部屋方という下女を雇っていた。

大広間に集められた百七十人ほどの奥女中を前に姿を現したのが
天璋院で一同をお目通りする。
天璋院と高位の奥女中が第一陣として、
中級の御目見得である、この物語の主人公りつなどの奥女中は
第二陣として退去し、一橋邸に向かうことになっている。
天璋院は「ゆるゆると、急げ」と一同に伝えると、
瞬きもせずにもう一度広間を見まわして、御上段の間から下りた。
天璋院が召した上掛は、呉服之間に奉公するりつが縫い上げたもの。
銀糸や色糸で葵と七宝文様を配した黒綸子地で、
りつの手は綸子特有の粘りけと膨らみをはっきりと覚えている。

この小説は5人の女性が江戸城を引き上げる最後の一日を、
朝井さん流のきめ細かなタッチで描かれている。
りつの生家、阿藤家は直参旗本である。
とはいっても提灯や煙草盆作りで家計をやっと支えるような家庭。
りつは15歳になった折、伯母の口利きで本丸大奥、
御台所様付きの女中奉公に上がった。
呉服の間はりつの役職の名であり、働く場の名でもある。
西丸大奥の北西に呉服の間は二部屋が並んでいて、
一部屋はりつら天璋院付きが七人、もう一部屋には
静寛院宮付きの五人が詰めていた。
呉服の間の静寛院宮付きの一人が、
この物語に登場し、りつのライバルでもある、もみぢである。
ほかに登場するのは、御中臈のふきと、御三之間のちか、
御膳所のお蛸。三人の女性たちである。
天璋院が可愛がっていた、猫のサト姫が逃げ出し、
サト姫の面倒を見ていたお蛸が一生懸命に探し、
りつとちかが手伝い、退去に手間取っているうちに、
ふきともみぢに出会い、5人の女性はとうとう
その日のうちに退去できず、西丸内で夜明かししてしまう。

翌朝江戸城を退去する終盤の場面は圧巻で、
素晴らしい筆致で描かれている。

エピローグという形で、
新しい明治時代、5人の女性が久し振りに
顔を合わせる場面が描かれている。




by toshi-watanabe | 2016-06-18 09:08 | 読書ノート | Comments(0)