葉室 麟著「秋霜」を読み終える

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葉室麟さんの最新作「秋霜」を読み終える。
豊後羽根藩(ぶんごうねはん)の第4弾である。
羽根藩が著者の作品にはじめて登場したのが、
直木賞受賞作で映画化され好評を得た「蜩(ひぐらし)の記」だ。

読み始めてすぐ気が付いた。
「秋霜」は昨年3月に出版された、葉室作品「春雷」の続編。
「春雷」は羽根藩シリーズの第3作で、
主人公は鬼隼人とも呼ばれた多聞隼人。

多聞隼人はすでに亡く、
事情があって多聞隼人から離縁された楓が、おりうとともに、
身寄りのない子供たちの面倒を見乍ら羽根藩領内の欅屋敷に住んで、
平穏な生活を送っている。
欅屋敷には前作にも登場した千々岩臥雲という
学者が学問を教えている。
大酒のみで、屋敷では全く役立たず。
同じく前作に登場した修験者の玄鬼坊も時折屋敷に顔を出す。

そんな折、一見武士風、32,3歳の若者が欅屋敷に
紹介状を持って訪れる。
草薙小平太という、ある使命を帯びている。
屋敷の主ともいえる楓はまだ36歳、美しい婦人である。
小平太は屋敷で下男のような仕事を快く受け負い、
力仕事は何でもこなす。
楓をはじめ、子供達とも気心が通うようになる。
同時に楓のためには何でもしようという思いに至る。

江戸幕府から巡見使が羽根藩に向かう。
多聞隼人が直訴した結果、先の藩主三浦兼清は隠居し、
新しい藩主、新しい家老となっているものの(前作で書かれている)、
幕府の疑念が晴れない、ある事情があった。
それを恐れた前藩主は巡見使が藩入りをする前に
関係者を口止めする必要があり、
家老の兵衛を使って色々と手を打つことに。
その一つとして、小平太も欅屋敷に送り込まれたのである。

事態は急を告げ、結局臥雲が犠牲者となるものの、
楓や子供たちが無事羽根藩を逃れて行くところまで、
葉室流の見事な筆致により、
読者は物語に引き込まれてしまう。

原文の一部をそのまま紹介したい。

羽根藩存続のために、已む無く藩主兼清を斬った
家老職の兵衛に向かってお付きの佐十郎は
真剣な表情で言う。

「旦那様は、まことに厳しきお覚悟をされておられます。
 されど、羽根藩のため、これからもなさねばならぬことが
 おありだと存じます。
 大殿を殺めたのはそれがしということにしてはいただけませぬか。」

苦笑して兵衛は答える。

「わしがさような誤魔化しが嫌いであることは知っておろう。
 秋霜のごとく、ひとに苛烈にあたるからには、
 おのれにも厳しくあらねばなるまい。
 遅れれば未練が増す。
 介錯を頼むぞ。」

by toshi-watanabe | 2016-06-02 11:03 | 読書ノート | Comments(0)