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内田 康夫著「長野殺人事件」を読み終える

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最近角川文庫の一冊として出版された、
内田康夫さんの著書「長野殺人事件」を読み終える。
この作品は、2010年に書かれたもので、
浅見光彦シリーズの百二番目の事件となる。

宇都宮直子は品川区役所の税務課に勤めている。
ある時、住民税を滞納している住民の岡根寛憲の自宅を訪問する。
滞納している住民税は納付すると確約を得る。
さらに、奇妙な頼みごとを言われる。
暫く預かってほしいと、書類の入った角封筒を渡される。
それも直子が信州の人間だからお願いしたいと。
岡根の言を借りれば、
「信州の人間は妙に理屈っぽいくせに、
 どこか抜けたところがあるんだよな。
 用心深くて慎重なようで、少したちの悪いやつにかかると
 コロッと騙される。
 それでいてプライドが高いから、騙されたことを隠したがる。
 人がいいっていうのか、諦めが早いっていうか、
 まったくいい人たちだよ」
書類は長野県にゆかりのあるもので、誰にも見せないで
しばらく預かっていてほしいと再三頼まれ、直子はしぶしぶ引き受ける。

ところが南信濃を流れる遠山川で男性の死体が発見される。
遺体はなんと岡部寛憲と報じられ、直子は吃驚する。
事件現場は「遠山郷」と呼ばれる山奥の山村、直子の実家にも近い。
さらに渡部公一と名乗るヤクザ風の男が、
岡根から書類を預かっているはずだと、直子に接近してくる。
直子は預かった書類をどうしたものか一人で悩んでいたが、
夫の正享が心配して声をかけると、ようやく意を決して、
預かった書類のことを正享に打ち明ける。
角封筒の中身を見てみると、「長野冬季オリンピック」と表紙に書かれている。
数年前に開催された長野冬季オリンピック開催に絡む使途不明金の
内容が明らかにされる書類だった。

警察には届けないようにとの岡根との約束もあった。
宇都宮正享は大学時代の同期生、浅見光彦に相談することに。
他の友人の難事件の時も、浅見光彦が見事解決の道筋をつけている。
いよいよ名探偵、浅見光彦の登場である。

長野県警の竹村岩男警部が殺人事件の担当主任として任を受ける。
通称ガンさんの岩村警部と言えば、
内田康夫さんの作品ではたびたび登場し、
「信濃のコロンボ」とも言われる腕利きの警部、
光彦探偵とも何度か顔を合わせている間柄である。

その後、渡部公一も南信濃で殺害され、第三の殺害と続く。
悪の本態、殺人の犯人像がようとしてつかめない状況が続く。

時を同じくして、長野県知事選挙が行われようとしていた。
現職の秋吉知事が登場するまでは、代々、ほとんど官製と
言っていいような知事が続き、副知事も中央官庁から送り込まれた
高級官僚で保守党の全面的なバックアップを受けていた。
秋吉知事は、長野県出身でもなく、東京在住の作家で
評論家だったのが、にわかに長野県知事選挙に名乗りを上げ、
見事当選をはたしている。
だが脱ダム宣言などで議会の猛反発を受け、県議会とはうまく行っていない。
不信任決議案可決されたものの、対抗馬がおらず、
秋吉知事が再選されている。
一風変わった言行でも名を成し、テレビなどマスコミに
登場する機会も多く、コメンテーターとしても活躍していた。
秋吉知事は再選を目指して、立候補を決意した折に、
上記の殺人事件が起きた。
殺人事件が知事の選挙と関連があるような様相に。

こう読んでくると、実在した知事さんのことを思い出す。
実際、著者の内田さんも書かれている。
この作品を書くために取材を始めた頃、長野県では
知事選を巡って泥仕合のような大騒動が起こっていました。
まず一回目の戦況で大方の予想を裏切って当選した
新知事・田中康夫の初登庁の際、挨拶で知事から
名刺を渡された幹部職員が、知事の名刺を折り曲げるという
この目を疑うような椿事がありました。
その後、「失職」やら再当選やらを経て、三度目の知事選に突入する。
そういう、長野県の特異性とでもいうべき世相を背景にして書かれています。

秋吉知事が知事選挙に初めて立候補する際に、参謀として
裏方で活動したのが殺害された岡根寛憲だった。
岡部はオリンピック関連使途不明金関連の書類を
密かに入手していたのだろう。
それが己の命を縮めることになろうとは露知らず。
さて、真犯人は?


by toshi-watanabe | 2016-05-24 09:45 | 読書ノート | Comments(0)