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再び、宇江佐真理さんの遺作を読む

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昨年11月に不帰の人となられた宇江佐真理さんを追悼して、
祥伝社から出版された文庫本「高砂」を読む。
江戸時代、心温まる夫婦の人情物語であるが、
一つ一つの短編として読むこともできる。
「夫婦茶碗」。「ぼたん雪」、「どんつく」、「女丈夫」、
「灸花(やいとばな)」、「高砂」の6編から成っている。

江戸の下町深川蛤町で材木の仲買人を生業としていた
又兵衛は、長男の利兵衛に商売を譲って隠居をすると、
連れ合いのおいせとともに蛤町を出て、
日本橋堀留町へ移った。
長男夫婦と一緒に住み続けていたら、
親子関係が怪しくなりそうな気がしたためである。
早い話、又兵衛は様々なしがらみから離れて、
知らない町でのんびり余生を送りたかったのだ。

幼馴染の孫右衛門の紹介で、今は堀留町の会所に住む。
会所とは町役人が本来詰めているところで、
名主の役宅を兼ねる場合も多かったが、
夫婦者が管理人として住むようになっていた。
町触を伝達したり、人別(戸籍)、道中手形など、
住民が届ける書類を作成したり、町内で訴訟が起きれば、
話し合いの場として使われ、火事の時は、
町火消連中の待機場所ともなった。

又兵衛は3度妻を娶り、母親との姑嫁問題などが原因で、
3度とも離縁、おいせとは4度目になるものの、人別の
届を出していない、現在でいう内縁関係にある。
又兵衛より五つ年下のおいせは町医者の娘で父親の死後、
相当の遺産を継いでいる。
おいせは一度嫁いだものの離縁となっている。
又兵衛は度重なる離縁の体験者であるとともに、
人別の届けを出すと、お伊勢名義となっている遺産が
又兵衛のものとなり、万一の場合には遺産はすべて又兵衛の
子供たちに移り、おいせには何も残らないのではと心配。

三番目の女房が家を出て行ったとき、
又兵衛には、二人の息子と一人の娘、
それに物忘れが多くなっ母親がいて、
苦労を重ね疲労困憊の体だった。
そこへ亭主と別れたおいせがやってくる。
実は又兵衛とおいせは従兄妹同士で幼馴染。
又兵衛の母親とも気心がよく知れている。
子供の面倒を見てほしいという話から、
又兵衛とおいせは形の上では夫婦となった。

又兵衛とおいせ、それに幼馴染の孫右衛門が
何かと世話を焼き、お節介をしながら、
次から次と登場する難題を抱える人たちの相談に乗り、
面倒を見て問題を解決して行く物語が続く。

「高砂」の最後の場面では、
秋も深まった長月の吉日に又兵衛は晴れて
おいせと夫婦になる。
堀留町の会所に大勢の人々が集まる。
二人は近くの神社でお参りをした後、
世話になった人々を招いてお祝の席を設ける。
音頭を取ったのはほかならぬ孫右衛門。
名主の長い挨拶が終わると、
病気で世話になった医者の岡田策庵が祝言の
恒例の「高砂」を謡い始める。

又兵衛と孫右衛門の仕事はこれからも続く、
と、この小説は幕を閉じる。

ほろっとさせられる、心に染み入る珠玉の人情時代小説、
お薦めの一編である。



by toshi-watanabe | 2016-05-12 10:08 | 読書ノート | Comments(0)