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葉室 麟著「辛夷の花」を読み終える

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葉室麟さんの最新作「辛夷(こぶし)の花」を読み終える。
すっかり葉室ファンの身、この作品も読み始めると、
すっかり葉室世界に引き込まれ、一気に読んでしまう。

九州豊前(ぶぜん)、小竹(こたけ)藩の勘定奉行三百石の澤井家の長女、
志桜里(しおり)は船曳栄之進のもとに嫁いで3年になるが、
子に恵まれず、実家に戻っていた。
空き家になっていた隣の屋敷に小暮半五郎という
武士が年明けに引っ越してきた。
背丈は六尺を超える長身で肩幅も広い、
繭が太く、目は涼しげで整った顔立ちなのだが、
覇気を感じさせず、いつも穏やかな笑みを浮かべていた。

志桜里の父親で、澤井家の当主、庄兵衛は、
藩主、小竹讃岐守頼近から能力と実績を買われて
3年前、勘定奉行に取り立てられていた。
それには事情があった。
代々小竹藩の家老を務める安納、伊関、柴垣のご三家が
公金をひそかにわが懐に入れて肥え太っていた仕組みを暴くためで、
3年がかりで調べ上げる事が出来た。
また隣家に引っ越してきた半五郎も頼近に気に入られ、
郡方から加増されて近習役五十石となり、頼近の身近に仕えるようになった。
ご三家の始末を江戸のご老中に願い出るために使者として
役割を担うのが半五郎であった。

澤井家に新しい女中が深堀村からやってくる。
すみという16歳の少女だが、
村では10年前、強訴騒ぎが起こり、郡方の村まわりがなくなり、
村人からも死者が出た。
抗って、その場で斬られた百姓の一人が、すみの父親、
そして斬ったのが半五郎だった。
そこにはある事情があったのだが。

半五郎は10年前の事件後、己の刀に浅黄紘を結んだままにしている。
人は彼を「抜かずの半五郎」と呼んでいた。
半五郎が江戸へ旅立つとき、澤井家に出立の挨拶は無かった。
ただ、半五郎の家僕の佐平が、どこで伐ったものか、
辛夷の花がついた一枝を志桜里の元へ届けてきた。
志桜里は辛夷の枝を床の間の花瓶にそっと挿した。
辛夷の枝には、和歌が書かれた短冊が添えられていた。

「時しあればこぶしの花もひらきけり
  君がにぎれる手のかかれかし」

時がいたれば、蕾のころは、ひとのにぎりこぶしのような形を
していた辛夷の花も開く、あなたの握った手も開いて欲しい、
とはかたくなになって閉じている心を開いて欲しい、
という意だろう。

大団円というか、最後の場面は読者をぐいぐい引き込み、
終わりを迎える。
「生きていくうえでの苦難は、ともに生きていくひとを知るためのもの」
この物語は訴えているようである。
たおやかで凛々しく生きるヒロイン、志桜里おいう女性が見事に描かれている。





by toshi-watanabe | 2016-04-22 10:07 | 読書ノート | Comments(0)