内田 康夫著「氷雪の殺人」を読み終える

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内田康夫さんの著書「氷雪の殺人」を読み終える。
ご存知名探偵、浅見光彦シリーズの一冊。
本作品は、平成10年10月から11年7月までおよそ40回にわたり、
「週刊文春」に連載され、
その後平成15年11月、文春文庫より、
平成19年4月、角川文庫より刊行されているが、
今回手に取ったのは、本年2月に祥伝社文庫として出版されたもの。

この作品が書かれたとき、浅見探偵は日本全国くまなく訪れていたが、
北海道に関しては、旭川より北にはまだ足を運んでいなかった。
稚内港からフェリーで渡る利尻島から物語はスタート。
私自身も礼文島とともに、利尻島には何度も訪れており、
利尻山(利尻富士)は実に美しい山である。
主人公は美しい利尻山と利尻昆布、そしてこの美味しい昆布を食べて
成長するウニを楽しみに利尻島への取材に出かける。
利尻や礼文で食べるバフンウニは最高の味である。

利尻山は標高1,721メートル、すそ野を長く引いた美しい山だが、
八合目からは急峻、岩盤厳しい山である。
本格的な登山装備が必要である。

浅見探偵が利尻島に出かけるのには、ある目的を携えていた。
光彦の兄、陽一郎は父親代わりでもあるが、刑事局長の要職にある。
その兄が政府高官から光彦名指しで、調査を依頼された。
利尻山の六合目で、東京のエリート会社員が不慮の死を遂げたが、
環境証拠が見当たらず、事故死か自殺と推察され、
結局地元警察では自殺として処理されていた。
警察には内密で、この不慮の死について調べることになる。
現地に渡った光彦は、調べを進めるうちに殺人であることを確信する
ものの、容疑者の姿が全くつかめぬまま時間は過ぎる。

殺人事件の推理小説で始まった、この作品だが、
読み進むうちに、全く異なる方向に進行して行く。
当時北朝鮮が、弾道ミサイル、テポドンを発射して、防衛庁の対応が
急を要す事態になっていた。
日本の防衛庁では、このミサイルが三陸沖に落下した事実を確認できず、
韓国からの情報で初めて知るという極めて弱体な状況。
防衛力の増強が緊急を要することとなった。
日本の北の守りということで、
利尻に防衛情報基地を設ける計画も浮上し、
殺害されたエリート社員はその調査のために
利尻山に登ったことが後で判明する。
殺人事件から段々ややっこしい話に進展。

殺害される前に、「プロメテウスの火矢は氷雪を溶かさない」
という謎の言葉を残し、一枚のCDを知人に送っている。
CDには演歌「氷雪の門」(星野哲郎作詞、市川章介作曲、
畠山みどりが歌っている)。
ところがCDには、歌とは別にデータが保存されており、
驚愕のメッセージが隠されていた。
防衛庁と業者との癒着が表面化する証拠資料となり、
防衛庁幹部による汚職事件が明るみに出る。

著者は書かれているが、
作品のテーマに至るもう一つの入口は、
稚内の丘で見学した「氷雪の門」と「九人の乙女」の
悲劇を追悼する碑であるとし、(私も見学している)
この作品を「氷雪の殺人」と命名したのは、
その時の直感によっている。
さらにこう書かれている。
稚内市内にはロシア人の姿が多かった。
湊には赤さびたロシアの貨物船が停泊し、
ラーメン屋はロシア人の客で賑わっていた。
よく晴れた日には宗谷岬からサハリンが望めるそうだ。
文字通りの一衣帯水、外国と向き合っていることを実感する。
私も全く同感である。

北朝鮮の挑発が続いている現状を考えながら、
この作品を読み終える。

作品の幕切れは、殺人事件の黒幕と思われる高官とその部下の実行犯が
乗った航空機が消息を絶ち、事件は闇の中。



by toshi-watanabe | 2016-04-01 09:54 | 読書ノート | Comments(0)