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山本 一力著「千両かんばん」を読み終える

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山本一力さんの著書「千両かんばん」を読み終える。
平成25年7月に新潮社から出版された作品が、
このたび新潮文庫の一冊として出されたばかりである。

江戸時代の人情物語で、主人公は飾り行灯の職人、武市。
武市は文化14年(1817)、江戸深川は高橋の裏店で生まれた。
ふすま絵を描く職人の父と、針仕事の腕に秀でた母は、
表通りで経師屋を営む夢を抱いていた。
ところが武市が生まれて四か月後、大火が町一帯を襲い、
逃げ遅れた両親は焼死する。
長屋の女房たちの手で育てられた武市は、
幼いころから絵を描き始め、6歳のころ、
偶々通りがかった飾り行灯造りの頭領、六造が武市の才能を見出し、
手元に引き取った。

厳しい修行に耐え、めきめき技量をあげる武市に、
六造は期待し、「緋色の六造」の異名をとる紅花の技を伝授すると
約束したものの、伝授寸前に急逝してしまう。
以前より武市を疎んじていた六造の女房は、
武市を追い出し、弟弟子の祐三に六造の書き残した
紅花絞りの技法を見せてしまう。

武市は裏店で居職として、飾り行灯造りを細々としているところから、
この物語は始まる。
大川につながる大横川に架かる塩見橋に多くの見物客。
眺めているのは、川沿いの料理屋「いさき」の行灯看板。
幅五間、高さ六尺、途方もなく大きな掛行灯の看板が
「いさき」の張出屋根に乗っていた。
この行灯看板を造ったのが、かっての弟弟子、祐三。
武市はこの看板を見てショックを受けるが、
やがて立ち直り、「いさき」の行灯看板を超えるものを
造ろうと意欲を燃やし始める。

新趣向の飾り行灯の創出に向けた武市の貪欲さが見事に描かれ、
人情味の厚い町人、船頭、船大工の親方、そして大店の主や大番頭などに
助けられて見事な行灯看板を完成させる。
門前仲町の乾物問屋大木屋の屋根に、
川を滑る猪牙舟(ちょきぶね、猪の牙のように、
舳が細長く尖った、屋根なしの小舟)を乗せ、
その舳先に据える行灯には加賀あかねで描いた
梅鉢の紋をあしらうという、前代未聞の趣向を凝らしている。

加賀あかねの色については、加賀前田藩上屋敷と関わりのある、
本郷の料亭「浅田屋」の女将から教示を受ける。
加賀前田藩と言えば、前田藩の大名行列をテーマにした、
山本一力さんの著書「べんけい飛脚」を思い出す。

お披露目の日、人混みに紛れて看板を見つめていた
武市に、祐三が話しかける。
「とことん見事な趣向ですぜ」
「舳に取り付けた梅鉢の色味のよさは、
 六造親方だってほめてくださるにちげえねえ」
「あにいの千両かんばんには、一本取られやした」
「次の仕事で、おれもあにいに褒めてもらえるように
 気張りやすぜ」
「年が明けるめえに、六造親方の墓参りに付き合ってくだせえ」
武市は目の前にいる祐三に、胸のうちで一度、
しっかりと礼を言い、そして、
「もちろんだ」と応えた。

武市の周りに登場するのは、いずれも頑固な一面、
根は優しく、正直で面倒見が良い人たちである。
江戸の町民の人情が見事に描かれている作品。





Commented by banban0501 at 2016-01-13 14:22
職人堅気の心意気を表現する一冊ですね〜

江戸の文化を育てた市井の人々の暮らし
読めば 勇気と人情を感じることでしょうね

Commented by toshi-watanabe at 2016-01-14 08:46
banbanさん、
早速のコメントを有難うございます。
そうです、職人気質の心意気に魅了される一冊です。
江戸時代の市井の人々の暮らしと人情が描かれています。

by toshi-watanabe | 2016-01-13 10:17 | 読書ノート | Comments(2)