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内田 康夫著「壺霊」を読み終える

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内田康夫さんの浅見光彦シリーズの一作「壺霊」(上・下巻)を読み終える。
この作品は、著者にとって百五十作目に当たる。
京都新聞に10か月にわたり掲載され、
角川書店から単行本として出版されたのが2008年12月。
その後角川文庫版でも発行されている。
ところが最近、文春文庫として新装版が発刊される。

大原の里に三千院とともに立つ古刹「寂光院」が
真夜中に何者かにより放火され、燃え上がる場面の、
前途に事件を予告するがのごときプロローグから始まる。

お馴染み主人公、浅見光彦は「旅と歴史」の藤田編集長から、
秋の京都取材を依頼される。
しかも原稿料は破格、アゴアシ付きで滞在費プラスアルファという好条件、
京都高島屋の7階に、「ダイニングガーデン京回廊」という
しゃれたレストラン街があり、会席料理の「たん熊」、
天ぷらの「つな八」など16店の有名店が並んでいる。
「和モダンな庭がつなぐ美食空間」がキャッチフレーズ。

  → http://www.takashimaya.co.jp/kyoto/restaurant/

今回の依頼はこの16店の探訪記事を書くこと。
光彦は引き受け、京都へ出かけることに。
すると、警察庁刑事局長の職にある兄の陽一郎から、
突然、どうせついでだから、引き受けてくれと頼まれごと。
陽一郎が若いころ京都勤務だった折りにお世話になった人から、
内々で相談を受け、光彦名指しで頼まれたとの話。

光彦は、京都に到着すると、兄から言われた「正雲堂」という
古美術商を先ず訪ねる。
古都の骨董街といった感じの通りで、大きな店構えのところ。
店から「正雲堂」社長の自宅に案内され、社長の伊丹大吉、大吉の孫娘に当たる
伊丹千寿そして千寿の叔母に当たる諸橋琴絵などと顔を合わせる。
大吉の息子の嫁で、千寿の母親であり、また琴絵の姉に当たる伊丹佳奈が失踪し、
同時に亀岡の諸橋家から佳奈が嫁入り時に持参した、高価な高麗青磁の壺が
伊丹家から忽然と消えてしまった。
母親と高麗青磁の壺を探してほしいというのが、今回光彦への依頼。
警察には届けたくない事情があってのことだが、
光彦にとっては全く雲をつかむような依頼。

この壺は、数千万円から1億円でもという高価な品物で、
「紫式部」という名前も付けられている。
実は、「紫式部」と名付けた本人が7年前に亡くなっている。
病死として簡単に済まされてしまったのだが、
殺害されたのではと、調査を進めるうちに光彦は推測する。
心臓発作で亡くなったとされた場所は自宅ではなく、
女性の住むアパートだったのだが、その直前に、
近くの寂光院で放火事件が発生し、地元警察署はそちらに手を取られ、
死因に全く不審を抱く余裕が無かった事情がある。

ところが、そのアパートに住む女性が殺害され、別の場所で遺体が
発見されるという事件が発生。
光彦は人探しや壺探しどころではなく、殺人事件に否応なく巻き込まれて行く。
殺害された女性は7年前に亡くなった男性の実の娘であることも判明。
謎は混迷を呈して行くが、名探偵光彦の推測は次第に謎を解いて行く。

伊丹家から世話されて、光彦は四条河原町からさほど遠くない
松原通の町家を滞在先として過ごしている。
千寿は京都造形美術大学の学生で陶芸を専攻している。
彼女の陶芸作品の展示を手伝ったりと、多忙を極め、
本来の目的である「ダイニングガーデン京回廊」の店での食べ歩きも
なかなか思うように進まない。

結果的には、母親も高麗青磁の壺も無事戻ってくるのだが、
そこには仕掛けがあり、光彦はその仕掛けの中で泳がされた様なもの。
この小説には魅力的で美しい京女が何人も登場する。
優しそうでいて、頭がよくしっかり者の美人たちである。
そして何より楽しいのは、京都の道案内、
よく知られた場所や店も登場するが、普段あまり訪れたことのない場所も
出てきて、興味をそそられる。

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下巻の終わりに、作者の「自作解説」に加えて、
本書のところどころにある挿絵を描かれている
小林由枝(ゆきえ)さんの絵と文による「空想迷路 - 浅見光彦と歩く -」
が嬉しい読み物となっている。

(追記)

平家物語ゆかりの京都大原寂光院は天台宗の寺で、清香山玉泉寺と号す。
平成12年(2000年)5月9日、何者かに放火され、
本堂は焼失、ご本尊お地蔵菩薩立像は損傷。
残念ながら犯人は不明のまま時効となる。



by toshi-watanabe | 2015-11-28 09:31 | 読書ノート | Comments(0)