折々の記

tnabe.exblog.jp

日々見たこと、 感じたこと、気づいたことをメモする

ブログトップ

楡 周平著「和僑」を読み終える

d0037233_09274011.jpg
d0037233_09275235.jpg


楡周平さんの最新著書「和僑(わきょう)」を読み終える。
読み始めたところ、東北の小さな町の話で、
若者が町を離れて、過疎化、住民の高齢化、
そして土地の主要産業である農業、畜産業の後継者不足という
問題を抱えているときに、TPPの大筋合意と、
町の行く末はどうなるのか、これは小説ではなく、
社会問題を取り上げた書物なのだろうかと一瞬考えてしまう。

著者は7年前に「プラチナタウン」という作品を書いておられる。
財政破綻に落ち込んでいた東北の緑原町の復興を念じ、
山崎鉄郎は一流商社を早期退職して故郷に帰り、町長に就任、
豊かな老後をコンセプトに老人向け定住型施設、
老人施設プラチナタウンの開設にこぎつける、という粗筋の作品。

「プラチナタウン」の続作となる「和僑」は、
この老人向け定住施設の開設から4年たったところから
物語が始まる。

主人公は町長の二期目を務める山崎鉄郎、通称「鉄ちゃん」。
プラチナタウンの入居者は8千人、施設関連の雇用者が6百人にも及び、
町には定住者も現れ、町の人口も増え、町は活気を呈している。
町の活況がプラチナタウンの存在一つに依存している構図は、
将来を見据えると、現状は続かず大きな課題となるのは間違いない。

突然、時田隆という人物が孫娘のジュリーを伴って、
米国から緑原町にやってくる。
彼は55年ぶりの日本、故郷の実家は後継ぎがなく、家を整理するためである。
米国では、鉄板焼きのレストランで成功している。

ここで思い出したのは、ロッキー青木である。
慶応大学在学中にレスリングの選手として、日本選抜チームの一員となり、
米国に遠征する。
彼は帰国せず、そのまま米国にとどまり、現地のカレッジに入り、やがて卒業する。
その一方でレスリングの選手として活躍し、米国の大会で優勝もしている。
ロッキー青木の実家は東京で洋食屋「紅花」を営んでいたのだが、
彼は父親の支援を受けて鉄板焼レストラン「BENIHANA OF TOKYO」を
ニューヨークに開設する。
客の目の前の鉄板で、シェフが派手なしぐさで牛肉やエビを焼くのが
米国人の人気を博し、評判となる。
ニューヨーク以外にもチェーン店を増やして行く。
私がプエルトリコからシカゴに移ったのが1971年、
当時シカゴ店がオープンして間もないころだが、
店に行くと、いつも満員の盛況だったのを思い出す。
フロリダの店にも行ったことがある。

さて緑原町の役場、産業振興課の課長を務めるのが、
若干38歳の優秀な職員、工藤登美子、通称「トコちゃん」。
山崎町長と時田は共同出資で、新たな事業を思い立つ。
緑原町特産の牛肉と野菜を加工して、米国に持ち込み、
B級グルメのレストランの開設を企てる。
緑原町に明るい将来をもたらすだろうと。
新事業に集中する為に、山崎は町長再出馬をやめ、
工藤を次期町長に推す。

この作品は、架空の設定ではあるが、
ある意味、現在われわれが抱える問題点を取り上げ、
地方創生のために何をすべきか、
一つの提案なのかもしれない。

作者は米国企業のコダックに勤務された経験をお持ちで、
国際的な視野を持たれていると思う。
この作品、読んで行くうちに段々面白くなる。

工藤新町長が誕生し、ニューヨークはマンハッタンの
ビジネス街マジソンアベニューに開店したばかりの
「TEPPANYAKI TOKITA」の店に山崎たちが到着。
コロッケ、メンチ、トンカツ、ハンバーグが売られている
店内に感動するところで物語は終わっている。




by toshi-watanabe | 2015-11-24 09:33 | 読書ノート | Comments(0)