諸田 玲子著「帰蝶」を読み終える

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最近出版されたばかりの、諸田玲子著「帰蝶(きちょう)」を読み終える。
帰蝶とは「美濃のマムシ」と言われた斎藤道三の娘のことであり、
美濃衆の期待を一身に背負って織田信長に嫁いだ。
道三は娘の嫁入りの折り、帰蝶の兄、玄蕃助と弟、新五を
同時に織田家に送り込む。
帰蝶は織田家の奥を取り仕切り、戦乱の世をたくましく生き抜いた女性。
信長は、美濃から嫁いできた帰蝶を「お濃」と呼ぶ。
山岡壮八、坂口安吾、司馬遼太郎などが、
すでに信長の正室として小説の中に描いているが、
「濃姫」として登場する。

諸田さんの作品を読むのは、「波止場浪漫」以来である。
「波止場浪漫」の主人公は、清水次郎長の娘、けん、
次郎長の死後、船宿「末廣」の女将として生きてゆく。
医者の植木との実らぬ恋も交えての、けんの生き様が描かれている。

作品の「帰蝶」は時系列的に物語が展開する。
第1章は出逢い(24歳)、永禄元年(1558)十月半ば ――
清州城下 道家尾張守の居宅。
清州城の本丸御殿から城下の武家屋敷町にある
道家尾張守の屋敷へやってくるところから始まる。
弟の斎藤新五利治に、信長の子として生まれた赤子は息災なのか、
母親は誰なのかを聞くために帰蝶は問いただす。

帰蝶と信長との間には子が恵まれず、信長は別の女性との間に、
次から次と子供が生まれる。
20数人の子供がいたといわれるが、全ての子供を自分の子供として、
帰蝶は大事に育てる。
この作品にも登場するのが、長男とされる奇妙丸(のちの信忠)、
次男の茶筅丸(のちの信意)、三男の三七丸(のちの信孝)、
長女の五徳(徳姫)、次女の冬姫などなど。

徳川家から出戻りの徳姫が恋に落ちた相手の
埴原佐京亮は幼名乙殿と呼ばれ、幼いころはお互い遊んだ幼馴染だが、
乙殿は赤子の時に埴原家に養子に出されたもの、
実の父親は信長、兄と妹の関係だったのを、
あとで二人は知らされることになる。

物語の終盤、天正十年(1582)六月一日 ―― 岐阜城、
帰蝶の兄、玄蕃助は信長の動向が気にかかる。
同日 ―― 京、妙覚寺、
信長の供として京に来ていた、帰蝶の弟、新伍は
宿泊先の妙覚寺の方丈で思いを巡らす。
同日 ―― 安土城 天守、
帰蝶は安土城の天守で落ち着かぬ時を過ごす。
ちょうど日蝕で、火が陰り始め、嫌な予感を抱く。

そして天正十年(1582)六月二日 ―― 京 妙覚寺、
新伍は床に入るや寝入ってしまったが、
「一大事にございますツ。旦那様、お急ぎ召されツ」
逼迫した声に眠りを破られる。
明智日向守光秀率いる軍勢1万が信長の首を狙い、
本能寺を襲う、「本能寺の変」である。
帰蝶の母は明智光継の娘、小見の方であり、
光秀と帰蝶とは従兄妹の間柄になる。

その後、帰蝶一行は安土城を後にして、
次女の冬姫の嫁ぎ先、蒲生忠三郎の居城、日野城へ避難する。
天正十年(1582)六月十四日 ―― 日野 八幡神社、
帰蝶は五徳を伴い、神社に参拝する。
そして安土城が焼け落ちたのを知らされる。

エピローグとして、「阿弥陀寺にて」という章があり、
慶長十三年(1608)六月二日 ―― 京 阿弥陀寺
帰蝶は70代半ばになる、すでに落飾、法名は養華院だが、
皆からは尼御前と呼ばれている。
毎年六月二日には、信長の墓参をするのだが、
行方知れずであった佐京亮が突然墓前に姿を現す。
実家の生駒家に戻った五徳に仕える家臣として、
佐京亮は五徳とともに過ごしているのを帰蝶は聞かされる。

実像がほとんど知られていない主人公だが、多くの参考文献を調べられに、
戦国時代に生き抜いた女性帰蝶の生涯を見事に描いている。




by toshi-watanabe | 2015-11-05 09:32 | 読書ノート | Comments(0)