藤原 緋沙子著「百年桜(人情江戸彩時記)」を読み終える

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藤原緋沙子著「百年桜(人情江戸彩時記)」を読み終える。
新潮文庫の一冊として最近出たばかりである。
書名となっている「百年桜」を含め、五作の小品で構成されている。
藤原緋沙子と言えば、「隅田川御用帳」などのシリーズもので、
数多くの作品を出され、どの作品も江戸の町人の人情味で溢れている。
この著書の作品いずれも、江戸の下町、隅田川の近くが舞台。

「百年桜」は、日本橋の呉服問屋「大津屋」に12歳で奉公に入り、
苦節15年まじめに働き、やっと手代の小頭に昇進しようかという新兵衛が主人公。
ところがある夜、店に押し込み強盗が入り、新兵衛を脅かして
金を奪っていった男が、故郷の蒲生で幼馴染みだった伊助ではないかと、
いう疑念を抱いた新兵衛は探索を重ね、本人であることを突き止める。
最後の場面で、渡し船の上から見事な桜が眺められ、故郷の百年桜を思い出す。
「葭切(よしきり)」は、本所で茶の湯の道具を扱っている
「大和屋」の娘で、今年22歳になるおゆきの恋が描かれている。
親の決めた許婚がいるものの、おゆきには忘れられない人がいた。
三年前、隅田川の渡し船から降りたところで、胃の腑に痛みを覚えて
苦しんでいたのを助けてくれたのが、富山の薬売り姿の啓之助。
やっと巡り合えた啓之助は江戸を離れ甲府へ旅立つことに。
おゆきは家を抜け出し、船着き場で啓之助と会う。
見つめあう二人の耳に葭切の声が二人を見送る喜びの声のように、聞こえてくる。

「山の宿」は、かって愛した男の遺骨を引き取りに、出羽里見藩から江戸にやってきた
おまきという女性が隅田川の「山の宿の渡し」を渡って、江戸の地を踏むところから始まる。
かって里見藩の部屋住みの奥井継之進と愛しながら、
藩の理不尽な仕組みにより夫婦になることができず、
別れたおまき、その後、継之進は命じられた上意討ちを果たすが、
なぜか出奔、星霜を経て、江戸で死去したとの知らせが奥井家に届いた。
奥井家の好意で江戸にやってきたおまきは、継之進の上意討ちの真相を知ることに。
「初雪」は、甲州勝沼からブドウを運んできた秀治という若い衆の、母親探しが描かれる。
子供のころ、生活のために身を売った母親を拒絶した、苦い過去がある。
江戸で、何とか母親のおかじを見つける。
秀治は病の母親を背負い、船着き場に急ぐ。
「おふくろ、今日の渡しは、富士の初雪が見えるぞ」。
「海霧」は、国を出てから13年が経った土屋禮治郎の、女敵討ちの顛末。
八代藩士だった禮治郎は、ある事情から密通をした妻を斬り、逃げ出した
伊沢重三郎を追って、旅を続ける。
行方をつかんだと思ったら、重三郎は人を斬り、石川島の人足寄せ場に送られている。
船着き場近く本湊町の長屋で暮らしながら、赦免された重三郎が
戻ってくるのを待ち受ける禮治郎だが、意外な展開で終わる。
海の霧が晴れ始めるのを背に、禮治郎は重三郎に会わずに、渡し場を後にする。

江戸の人情にほろっとさせられる作品集である。

by toshi-watanabe | 2015-10-17 10:09 | 読書ノート | Comments(0)