葉室 麟著「風かおる」を読み終える

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葉室麟の最新作「風かおる」を読み終える。

筑前国黒田藩郡方五十石、渡辺半兵衛の三女、菜摘(なつみ)は
幼くして同じ藩の竹内佐十郎のもとに養女に出された。
ところが佐十郎がわけあって致仕したため、離縁され実家に戻され、
16歳のときに鍼灸医(しんきゅうい)の佐久良亮に嫁した。
菜摘は夫の亮から指導を受けて、鍼灸術だけでなく
オランダ医学にも通じるようになり、
夫が長崎へ勉学に出かけている留守の間、
近隣の患者の治療に当たっていた。

佐十郎は妻が別の男と駆け落ちし、江戸で所帯を持って
暮らしているのを知り、「妻敵(めがたき)討ち」のため、
藩を致仕し江戸に向かい、無事目的を果たし、
10年ぶりに博多に戻ってきた。
あとで明らかになるのだが、佐十郎は二人に刃を向けたものの、
妻から思いもよらぬ駆け落ちの真相を知らされ、
二人を打つのを思いとどまった。

自分を陥れた目に見えない相手と決着するのが目的で、
帰藩したものの不治の病に侵され動くこともかなわず、
多佳という女性の住む待月庵のところで世話になる。
佐十郎と多佳は幼馴染で、将来を約束した間柄だったにも拘らず
一緒になることはなかった。

かっての養父の病の治療に、菜摘が待月庵に呼ばれるところから物語は始まる。
多佳の夫、嘉村吉衛は佐十郎とともに藩の重責を将来担うと
目されていた藩士だが、些細なことが原因で、
長崎時代に重い病いに罹り、若くして命を落としている。
多佳は未亡人暮らしである。

一連の事件には大きな仕掛けがあり、
推理の謎解きも面白く、推理小説のような一面もあるが、
組織の不条理、人間の業と欲、そして人を信じることの忍耐と苦悩。
現代社会にも通じるような物語が展開される。
おのれの背負った罪を知らず生きていく人間が描かれている。
佐十郎と多佳の死により、事件は一段落するのだが、
亮と菜摘の夫婦に菜摘の弟の誠之助、誠之助の恋人、千沙の
4人がそろって長崎へ旅立とうというところで物語は終わる。

原文をそのまま付記すると、
菜摘の問いに亮はしみじみと言う。
「いや、皆が長崎に来ると聞いて、なんだかよい風が吹くような
 気がしたのだ。 長崎での悲しい出来事をわたしたちが
 吹き飛ばしたほうがいいと思う。」
菜摘は涙が出そうになった。
そうなのだ、どのような悲しい思い出も
乗り越えていかねばならない。
風がかおるように生きなければ。
菜摘はそう思いつつ中庭に目を遣った。
朝方の光があふれる中、風がさわやかに庭木の枝を揺らしている。


by toshi-watanabe | 2015-09-27 10:13 | 読書ノート | Comments(0)