折々の記

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安部 龍太郎著「佐和山炎上」を読み終える

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安部龍太郎の短編集「佐和山炎上」を読み終える。
2001年8月に「忠直卿御座船」として、刊行されているが、
今回改題して、角川文庫の一冊として発刊された。
九編の小品時代小説から成っている。

「峻烈」
朝倉を攻めた信長は、義弟の浅井長政の裏切りで窮地に立たされる。
裏切りの原因を調べるうちに、長政が「高貴の方」から密書を
受け取っていたことをつかむ。
内裏を巻き込んだ、さきの関白近衛前久の企てを破るには、
荒療治が必要と、信長は峻烈な意志を以って比叡山を焼き打ちにし、
僧俗男女3千人をなで斬りにしてしまう。

「玉のかんざし」
肥前名護屋城の城壁作りの普請場で働く伊奈正吉は
父親譲りの石工職人であるとともに、弩(ボウガン)の名手でもある。
対馬の領主、宗義智は朝鮮国王との交渉役を命じられたものの、
板挟みになって苦境に立たされる。
宗義智から話のあった秀吉暗殺を正吉は引き受け、釜山から名護屋へ。
その折に朝鮮人妻の玉かんざしを持ち去る。
秀吉暗殺の機会が到来、かんざしを加工して鋼の棒に、
鋭い矢尻が出来上がるのだが。

「伏見城恋歌」
関ヶ原の合戦の時、伏見城は宇喜田秀家を総大将とする
西軍に責められ、家康に留守居役を命じられた鳥居元忠は壮絶な討死に。
秀吉の正室ねねの甥で、若狭少将の異名を持つ木下勝俊は、
伏見城松の丸守護を命じられていたが、総攻撃の前に
退去したことから所領を没収される。
勝俊が退去した真相を説き明かし、その後文化人として勝俊が生きる側面を描く。

「佐和山炎上」
石田三成が持つ過ぎたるものとして、「島左近」とともにあげられる
名城「佐和山城」がテーマとなっている。
佐和山城は、関ヶ原の合戦後に東軍に攻められ、
三成の一族はことごとく戦死、又は自害するが、
生き伸びる三成の三男、八郎への忠義を貫いた八十島庄次郎の生き様が
見事に描かれている。

「忠直卿御座船」
大阪城落城の時に、秀頼が秘かに助け出され、
薩摩に落ち延びたとの伝説がある。
その伝説を踏まえての話である。
家康の次男、結城秀康の嫡男である松平忠直は、
大坂夏の陣で真田幸村を討ち取り、大阪城一番乗りを果たした。
この武勲が認められ、薩摩に落ち延びた豊臣秀頼を牽制する
鎮西将軍に任じられた(実態は遠ざけられたのだが)。
忠直が五百石積みの御座船に乗り込み、瀬戸内海を
九州へと向かう船の道中が描かれる。
嵐に巻き込まれ、忠直は正気を取り戻したかに見えるのだが。

「魅入られた男」
越前朝倉家の武士ながら、世の無常を感じで出家した僧が、
剣の腕と「平家物語」の知識を買われ、
京の豪商、若狭屋から不可解な依頼を受ける。
世にも不可思議な夜叉の話で、最後の土壇場、恐ろしい場面で終わる。

「雷電曼荼羅」
史上最強の力士、雷電為衛門が真の力士に生まれ変わる瞬間に着目。
人並み以上の肉体を持ちながら、気が小さい雷電。
力任せに角力を取り、相手に重傷を負わせてしまう。
師匠の谷風は、「張手」、「鉄砲」、「閂(かんぬき)」の三手を禁止する。
雷電を抱える出雲藩は、上覧角力での雷電と陣幕の勝負に、
高価な茶入れ、油屋肩衝(かたつき)を賭ける。
雷電は得意な三手を使うのを禁じられ、陣幕に敗れるものの、
この勝負を機に目覚める。

「斬奸刀」
土佐の出身で坂本龍馬の同志、岡田以蔵は幕末四大人切りの一人。
武市半平太の命を受けて、暗殺に手を染めたのが始まり。
道場では強くても、人を斬った経験がないので、
最初はそう簡単には人を斬れない。
「斬奸刀」と称される銘刀を手に入れ、暗殺者の道にのめり込んで行く。
龍馬とは全く異なる道に進むことに。

「難風」
ジョセフ・ヒコの著書「アメリカ彦蔵自伝」にも登場する、
英国総領事の傭人、ダンが主人公。
ヒコとダンは船乗りだったが、船が難破、漂流の末に米国の商船に救われる。
伝吉ことダンは、海外で苦労しながら働き、英語と新しい知識を
身に着けて、英国公使のオールコックの通訳として帰国。
武士を前にすると身構え、日本を捨てて英国に帰化することには
ためらいを感じてしまう。
そんなダンが、白昼、高輪の往来まっただ中で斬殺される。


従来余り日の目を見ない人物を表面に取り上げたり、
歴史上の仮説を元に筋書きを考えたり、
どの作品も、主人公が生き生きと描かれ、
大変面白いストーリーとなっている。


by toshi-watanabe | 2015-07-20 09:34 | 読書ノート | Comments(0)