葉室 麟著「おもかげ橋」を読み終える

d0037233_09084993.jpg



再び葉室麟さんの著書である。
今回読み終えたのは「おもかげ橋」。
この作品は2年前の1月に、既に刊行されているが、
今回、幻冬舎の時代小説文庫として、
装いも新たに発行された。

九州肥前の蓮乗寺藩で繰り広げられる騒動が発端で、
藩追放も同然の致仕となった幼馴染の二人の男が。
江戸に出て、既に十六年が経つ。

一人は剣の腕前は一流だが、その厳しすぎる指導のため、
道場には閑古鳥が鳴いている、まだ独身の草波弥市。
月に二度ほど、神田駿河台の笠井兵庫助守昌という
三千石の旗本屋敷で稽古をつけ、糊口をしのいでいる。

もう一人は武士の身分を捨てて、日本橋の丹波屋という
老舗の飛脚問屋に婿入りしている小池喜平次である。
既に家督を継ぎ、丹波屋の主人として、
見事経営を立て直し、問屋仲間でも重んじられている。

国許の勘定奉行の娘、萩乃がある使命を帯びて
突然江戸にやってくる。
弥市と喜平次にとっては萩乃は初恋の女性なのだが、
二人は頼まれて、萩乃の用心棒をすることになる。

藩のため、藩主の殿様のためではなく、
二人の男は萩乃のために、命を懸けて悪に立ち向かう。
武士は命懸けで、人を信じるものと、
儘ならぬ人生を哀歓豊かに描いている。

物語の終わりは、萩乃が主人と離縁し、江戸を出立し国許へ向かう場面。

弥市は日が昇ってから家を出て高田村へ向かった。
明け方までどうしたものかと考えてためらっていたため、
出るのが遅くなった。
俤(おもかげ)の橋のあたりに近づいたころ、
すでに昼ちかくになっていた。
「これは、いかぬ。 萩乃殿はもはや出立したかもしれぬ」
焦る気持ちはあったが、間に合わなければ、
それはそれでいたしかたがないと思った。
俤の橋にさしかかった時、
橋の上に町人髷の男がひとり佇んでいるのが目に入った。
後ろ姿を見ただけで、喜平次だとわかった。

「苦しかろう、せつなかろうな。 しかし、たんと苦しむがいい。
 それが小池喜平次の恋なのだ」
胸の中でつぶやいて弥市は空を見上げた。
大きな白い雲がぽっかりと浮かんで西へとゆっくり流れている。
あの雲は国許までたどり着くかもしれない、と弥市は思った。
俤の橋では、遠くを眺め遣る喜平次が心の奥で行きつ戻りつ、
思案に暮れて佇んでいる。

巻末には、文芸評論家の縄田一男さんが解説を書かれている。



Commented by banban0501 at 2015-07-11 10:56
葉室さんの時代小説の面白さ

徐々に理解です

共通するのは 人を想うということで
今回のお話も主人公は やはり女性でしょうね~
Commented by toshi-watanabe at 2015-07-12 10:24
banbanさん、
早速のコメント有難うございます。
banbanさんも葉室ファンになりつつあるようで嬉しいです。
武家社会の時代がテーマとなっていますが、登場人物の生き様、人への想いが見事に描かれていると思います。

by toshi-watanabe | 2015-07-11 09:13 | 読書ノート | Comments(2)