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澤田 瞳子著「若冲」を読む

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澤田瞳子さんの最新作「若冲」を読み終える。
この作品は「オール読物」に2013年6月号から
2015年3月号にかけて8回にわたり連載されたもの。

澤田さんの著書を読むのは、平安時代の大仏師、定朝を描いた
「満つる月の如し」に次いで2作目である。
澤田さんは歴史時代小説界の次世代のエースだと、
文芸評論家の北上次郎さんは語っている。

京は錦高倉青物市場で4代続く桝源の長男に生まれ、
5代目を継ぐはずの源左衛門が主人公。
所が店のことは何もせず、専ら絵を描く毎日。
嫁を娶れば気も変わるかと、親族一同が心配して、
お三輪という女性と一緒になるが、源左衛門の生活は全く変わらず、
店では母親のお清や次男の幸之助、三男の新三郎などに
役立たずとお三輪は虐められるばかり、ひどい扱いをされて
終に首を吊って自害して果てる。
源左衛門は隠居を決意、桝源を離れる。妹のお志乃(実は腹違いの妹)が
ともに家を出て、義兄の面倒を見る。
この源左衛門がのちの伊藤若冲である。

若冲と池大雅との交流が少しばかり登場する。
若冲は人づきあいが悪く、部屋に閉じこもって画業に専念。
そんな中、大雅は京で活躍するほかの絵師の話題を
若冲に提供する。
直接の交流はなかったのだが、大雅を通じて、円山応挙、
与謝蕪村、谷文晁などの活躍を若冲は知ることに。
若冲と蕪村が同じ年に生まれて、同じ京都のすぐ近くに住みながら、
直接の交流があった根拠がないとは、
以前日記で書いたのではと思う。

「生誕300年、若冲と蕪村」展が今春、サントリー美樹幹で開催されたばかり。

何度か展示会で伊藤若冲の作品は目にしているが、
もっとも印象に残っているのは、
平成19年5月から6月にかけて、
京都相国寺承天閣美術館にて開催された「若冲展」だろう。
相国寺開基足利三代将軍、義満公600年遠忌記念として催された特別展である。

小説の中でも登場するが、若冲は相国寺第113世住持梅荘顕常大典禅師とは
密接な交友を重ね、そのことが画業に大きく影響している。
数々の作品が相国寺に納められている。
とくに名高い「動植綵絵」30幅は若冲の代表作、
その美しい色彩と細緻な描写、奇抜な構図など、
その魅力は最近一段と評価されているようだ。
この「動植綵絵」は明治22年に明治天皇に献上された。
上記の「若冲展」には、現在宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の
「動植綵絵」が120年ぶりに相国寺に里帰りし、
「釈迦三尊像」、鹿苑寺の「大書院障壁画」50面などともに
一挙に公開された。
この素晴らしい特別展を見学に出かけたのが、ついこの間のことのように思える。

澤田さんの「若冲」は主人公が画業一筋に生きる姿、
そして自害した妻お三輪への捨てきれない思いなど、
丁寧に、そして感動的に描かれている。
素晴らしい作品で、お薦めの一作である。

文芸評論家の縄田一男さんは、この著書に最高の賛辞を与え、
「誰もが自分を置き去りにしていってしまう、という晩年の
若冲の哀しみまで、作者はまるで若冲と一体化することで、
その生涯を見事に解釈し切っている。」
と述べられている。


by toshi-watanabe | 2015-05-26 09:50 | 読書ノート | Comments(0)