葉室 麟著「春雷」を読み終える

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葉室麟さんの最新作、「春雷」を読み終える。
月刊誌「小説NON」に平成25年から26年にかけて、
連載された作品で著者が加筆、訂正を加えて、
今月、単行本として発刊された。

「蜩の記」の場面となった、豊後羽根藩(架空の藩だが)の
シリーズで、「蜩の記」、「潮鳴り」に続く、第3弾である。

羽根藩の藩主、三浦兼清は15年前に藩の新しい主君として
初めてのお国入り。
その折に、殿様の乗っていた馬が暴れだし、あわやという場面で
偶々通りすがりの浪人が窮地を救う。
この浪人が、本作品の主人公、多聞隼人である。
永年浪々の身が続き、妻子をともない、仕官に一縷の望みを
かけて大阪から羽根藩にたどりついたばかりの出来事だった。
ところが、殿の馬に蹴られたことが原因で、
一人娘の弥々が亡くなり、身重だった妻女の楓は流産。

名君となられる殿の名に傷がつかぬ様言われ、
この事件を内密にする代わりに、妻が泣いて止めるのを聞かず、
隼人は羽根藩仕官の道を選ぶ。
しかし隼人の心から、このことが消えることはない。
楓と別居した隼人は御勝手方総元締に任じられ、
領民家中に激烈な痛みを伴う改革を断行し、
財政難に喘ぐ羽根藩の再建を目指す。
いつの間にか鬼隼人と呼ばれるように。
藩主が名君となってもらうためでもある。

誰もなし得なかった黒菱沼の干拓の命が下る。
農民一揆さえ招きかねない難題であったが、
隼人は家老に就くことを条件に受諾する。
難工事に着手するものの、
城中では、多聞隼人を鬼隼人と呼ぶ反隼人派が
策謀し、農民一揆を起こさせ、工事を妨害するばかりでなく、
隼人を窮地に陥れる。

藩主は名君となる資質になく、隼人は藩のために死を覚悟する。
物語の終盤は素晴らしく盛り上がり、
主人公の生き様が読む者にひしひしと伝わってくる。
死の間際に、「大願成就」と呟く。

隼人の身の回りを世話していた、
おりうという女性は、のちにこう語っている。
「多聞様は、世のひとを幸せにしたいと願って鬼になられたのです」
「世のひとのために……。その思いで多聞様は生きられた方なのです」
その時に、遠い雷鳴が。
蒼穹を春雷がふるわせていた。


by toshi-watanabe | 2015-03-26 11:07 | 読書ノート | Comments(0)