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山本 兼一著「夢をまことに」を読み終える

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山本兼一の著書「夢をまことに」を読み終える。
読むうちに引き込まれてしまう感動の山本作品である。
2月13日に一周忌を迎えられたばかりの著者。
この作品は京都新聞に2012年7月から 2013年6月まで連載され、
この度単行本として文芸春秋から刊行されたばかり。

主人公は江戸時代末期、近江国友村(現在は長浜市国友町)の
国友一貫斉、九代目国友藤兵衛(1778~1840)である。
本書の帯には「ものづくりに命を懸けた日本のダ・ヴィンチ、
情熱の生涯」と書かれているが、鉄砲鍛冶(本書では鉄炮鍛冶) で
ありながら、様々な役に立つ道具を発明、考案した男の
「夢をまことに」するための奮闘記である。

鉄炮を完成させるためには、様々な技術が求められる。
鉄の吟味に始まり、筒の張り立て方やねじの切り方、
引き金をひいて火挟みを落とす真鍮の機関部(カラクリ)の 仕組み、
さらには火薬の調合など。 鉄炮鍛冶は、玉の大きさを聞いて
注文を受けると、 鉄の板で筒を張り立てる。

一貫斉は前代の父親から技術を学び、
鉄炮鍛冶としての 腕をめきめき上達、
何よりもものづくりが好きである。
和泉国の岩橋善兵衛の書いた「平天儀図解」には 一貫斉、
大いに触発される。 大宇宙の構造が理路整然と説明され、
天地のことには、すべて道理があると納得する。
役に立つ道具を数々考案したりするうちに、
阿蘭陀風炮を目にすると、現物を見て図面を書き、
仕組みを考えながら、さらに優れた風炮を仕上げてしまう。
今でいう空気銃である。

さらに関心を持ったのが、オランダ製のテレスコッフ。
藩主の所で、現物を見て、これを書き写し、
素材や仕組みの見極めを自分で考えだす。
この完成には15年という長い期間が必要だった。
今でいう反射望遠鏡である。 出来上がると、
藩主に納めるとともに、 自らも月や太陽を観察し、
太陽の黒点には 強い関心を抱く。
因みに、この反射望遠鏡、1台は上田市立博物館に、
もう一台は彦根城博物館に展示されている。
天保の飢饉の折には、テレスコッフを売却し、
その資金で国友村の農民たちを救済する。

一貫斉は空を飛ぶ船、月に向かって飛ばす筒、
海中に潜れる船などを夢見る。
必ずできるはずと考え、ほかの人達にも語っていたが、
残念ながら実現することはなく生涯を終える。
江戸時代末期に、既に飛行船、ロケット、潜水艦を
イメージしていたのだから、すごい人物である。

作者は技術的なことも含め、実によく調べている。
一貫斉という一人の人物を実に見事に描き切っている。
評論家の縄田一男さんも、「鉄炮鍛冶に託す職人賛歌」と 題して、
珠玉の出来栄えと最高の評価を与えている。



by toshi-watanabe | 2015-03-05 09:28 | 読書ノート | Comments(0)