伊東 潤著「池田屋乱刃」を読み終える

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風邪ひきのため、ここ数日は終日家に閉じこもる。
この前から読み始めていた
伊東潤さんの著書「池田屋乱刃(いけだやらんじん)」を読み終える。
この作品は「小説現代」に昨年から今年にかけて
発表されたものを纏めて、本年10月に単行本として出版された。

幕末の京都、尊王攘夷志士たちが活動していた。
毛利家の縁戚にあたる古髙俊太郎は「桝屋」という小さな商家を営み、
宮家や公家との連絡係を務めていたが、
或る時、浪士組(新撰組)に捕えられてしまう。
この古高を救出する相談で志士たちが集まったのが三条小橋西詰の「池田屋」。
ところがこの密会の事が漏れ、新選組が急襲する。
いわゆる「池田屋事件」である。

著者の伊東潤さんは、別の所で、この著書について書かれている。

著者は少年の頃、司馬遼太郎氏の小説で池田屋事件の事を知り、
鮮烈な印象を受けた。
ところが、池田屋事件が出てくる小説や映像物は、
新選組サイドから描かれたものばかりで、志士たちは不逞浪士と呼ばれ、
テロリストと何ら変わらない扱いを受けてきた。
しかも彼らの実像や事績は、全く知られていない。
いつか志士たちの池田屋を書きたいと思っていたところ、
中村武生氏による『池田屋事件の研究』(講談社現代新書)
という好著が出た。
新選組の引き立て役に過ぎなかった志士たちを、
血の通った人間として現代に蘇らせようと、「池田屋乱刃」を書いた。

さて作品のテーマは一つなのだが、5章からなり、
各章にはそれぞれ別の主人公が登場する。
連作という形になるのだろうか。

第1章「二心なし」に登場するのは、福岡祐次郎。
伊予松山藩を脱藩、京都に出て来たものの喰うのに困り、
浪士組に拾われ、土方歳三の指図で間者となる。
宮部鼑三の信頼を得、スパイ活動をする傍ら、
次第に尊王攘夷の心情に引き込まれて行く。
池田屋に駆けつけ、志士の仲間が逃げるのを助け乍ら、
自らは土方の刃に倒れる。

第2章「士は死す」の主人公は、土佐藩出身の北添佶摩。
土佐勤皇党に入り、実行力に富み、
熱心に海防策を主張する。
池田屋事件では逃げ出したものの、重傷を負い、
逃げる途中で命を落とす。

第3章「及ばざる人」は肥後を代表する志士、宮部鼑三が主人公。
長州の吉田寅次郎(松陰)との出会いが宮部の運命を決定づける。
長州藩の京都留守居役、乃美織江、桂小五郎との交遊も始まる。
池田屋事件では、近藤勇との死闘の末、自害する。

第4章「凛として」では、長州藩士の吉田稔麿が描かれている。
強硬論に与せず、長州藩と幕府の融和を唱える。
老中首座の板倉周防守勝静との面談にも功を奏す。
伊藤利輔(博文)とは同年齢の幼馴染、
吉田松陰の薫陶を受ける。
池田屋事件では、桂小五郎を助け出すために池田屋に向かうものの、
途中で会津藩兵に見つかり命を落とす。

最後の第5章「英雄児」は長州藩京都藩邸留守居役の
乃美織江の視点から桂小五郎(木戸孝允)を描いている。
明治10年、木戸孝允は死の床にあり、乃美を枕元に呼び、
池田屋事件当時、己がとった行動について懺悔話をする。
同志が新選組との死闘のさなか、自分一人だけ逃げて生き延び、
そして維新後は最高位を極めた桂小五郎、名前も改め木戸孝允。
話の内容を文書にもし、自分の死後、公表してほしいと、
木戸は乃美に伝えるのだが。

著者がこの著書で何を訴えたかったのか、
読み終えてみるとわかる気がする。
幕末という時代を駆け抜けていった志士たちの清冽な
生き様と死に様が描かれていると思う。


by toshi-watanabe | 2014-12-30 09:36 | 読書ノート | Comments(0)