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映画「蜩ノ記」を観る

二日前、久しぶりに劇場での映画鑑賞。
葉室麟さんの原作が映画化された「蜩(ひぐらし)の記」である。

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直木賞受賞の原作は2年前に読んでおり、
このブログでも取り上げているように記憶している。
今回、映画化が発表されたときから是非とも見たいと思っていた。
この原作を読んだのが、葉室ファンになった切掛けでもある。

脚本、監督は小泉堯史さん。
原作通りの筋で映画化されており、
原作者の書きたかった真意が忠実に表現されているように感じた。
ある事件により10年後の切腹を命じられ、寒村で蟄居しながら、
ひたすら藩主三浦家の家譜編纂にあたり、残り3年となる
元郡奉行戸田秋谷(しゅうこく)を演じる役所広司の演技は見事である。
城内で些細な事から刃傷沙汰を起こし、
秋谷の監視役を命じられるものの、
次第に秋谷とその家族への情愛に魅かれて行く檀野庄三郎を演じる
岡田准一も役所広司との呼吸がぴったり。
秋谷が日々の事を書き留めているのが、「蜩の記」である。

戸田秋谷を演じる役所広司

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檀野庄三郎を演じる岡田准一

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秋谷の妻、織江を演じる原田美枝子

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秋谷の娘、薫を演じる堀北真希

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愈々秋谷切腹の朝を迎え、
長久寺の境内へ向かう、最後の場面は
悲しくもあり、清々しくもあり、素晴らしい情景である。

この映画化に当たり、原作者の葉室麟さんは、
次のようなメッセージを書かれている。

「蜩ノ記」という小説は本来、わかり難い作品だと思います。
秋谷がなぜ、死へ向かって淡々と生きるのか。
自分自身に引き比べて、納得できるひとが少なくても
不思議ではありません。
ただ、書き手であるわたしは60を過ぎて生きている日々に
秋谷が見た風景が重なり合っていくような気がしています。
私は50歳を過ぎて、歴史時代小説を書き始め、
60歳で直木賞をいただきました。

そのおり、心に浮かんだのは、ある作品の中で使った諺の
「柚子は九年で花が咲く」でした。
「桃栗三年柿八年」と言いますが、すべて実がなるという諺です。
なぜか、柚子だけが「花を咲かせる」となっています。
人生の後半で何事をなしとげたいと思った人間にとっては、
「花」という言葉が若いときよりも心に染みます。
「蜩ノ記」は人生の残り時間を限られた人間の物語です。
作者自身、人生の時間を砂時計の砂が落ちるように見つめています。
その「蜩ノ記」で直木賞という花を咲かせることができたと思ったら、
まだ、花はありました。

小泉監督始めスタッフは黒澤組の伝統を引き継ぎ、
いわば日本映画のスピリッツを伝える精鋭の方々だと思います。
大学生のころ、映画研究部だったわたしにとって、黒澤組の手により、
自分の作品が映画になるのは、夢のような体験でした。
大袈裟ではなく、「生きていてよかった」と思いました。
遠野のロケ地を訪れ、主演の役所広司さん、岡田准一さん、
堀北真希さん、原田美枝子さんら輝くような俳優がそろっての
撮影風景を見学したときは、自分がこの場にいるということが
信じられない思いでした。

映画の中で戸田秋谷の家の庭に柚子が植えられています。
「蜩ノ記」には柚子のことは書いていません。
わたしがエッセイなどで書いた人生への感慨を
小泉監督が汲み取ってくださったのでしょう。
試写を見て、そのことを知ったとき、目が涙でかすんだように思います。
わたしにとって映画「蜩ノ記」は最高の贈り物でした。
多くの観客の方にこの映画の感動を味わっていただきたい。
そして、なにより、この映画はわたしが九年待った柚子の花であること
をお伝えしたいと思います。
どうやら、「人生の花」はゆっくりと開くようです。


(追記)

撮影現場で使われた藩主三浦家の家譜、本稿16巻に
清書18巻は、どのページもきちんと文字がしたためられた。
「新訂黒田家譜」などの家譜資料を参考に文章を作り、
書家が実際に書いたものである。
秋谷役の役所広司と庄三郎役の岡田准一には書道の練習が課せられた。
また岡田准一は居合を習うため、撮影開始の半年前から、
天真正伝香取神道流の道場に通った。
役所広司と娘役の堀北真希は所作を学ぶため小笠原流の稽古に励んだ。
Commented by ひろ at 2014-10-10 17:30 x
原作も読んでいたので映画も充分楽しめました。読んでないと分かりづらいかもしれませんね。
ハムリン先生のメッセージも素晴らしい。
先生が大好きな堀北真希さんと一緒に写真を撮られた時、先生の顔が緊張していたのが思いだされます。
Commented by banban0501 at 2014-10-10 22:16
原作も映画の効果で書店に平積みでしょうね

本屋さんを覗いて見ます
Commented by toshi-watanabe at 2014-10-11 10:54
ひろさん、
コメントいただき有難うございます。
私も原作を読んでいたのですが、原作を読まずにこの映画を見た方が、感動も一段と強いのではという気もしました。
Commented by toshi-watanabe at 2014-10-11 10:55
banbanさん、
書店にたくさん平積みされていますよ。
この映画まだでしたら、ぜひご覧ください。
by toshi-watanabe | 2014-10-10 14:02 | 一般 | Comments(4)

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