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葉室麟著「紫匂う」を読み終える

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葉室麟さんの最新作品「紫匂う」を読み終える。

主人公の澪(みお)は、
黒島藩六万石の勘定方七十五石の三浦佳右衛門の
三女として生まれ、
十八歳の春、郡方五十石の萩蔵太に嫁いで十二年になる。
嫁して三年後に長女、由喜を、
さらに二年ののちに嫡男、小一郎を生した。

ところが澪が十七歳の折りに
だだ一度だけ契りを交わした隣家の幼馴染で、
家の事情で江戸藩邸の側用人となっていた
葛西笙平が突然江戸を離れ、澪の前に姿を現す。

黒島藩を揺るがす政争の嵐の中、
かっての想い人との再会が澪の心を揺らす。
心極流の達人ながら、
凡庸な勤めに留まる蔵太は、
二人の仲を知りながら、手を差し伸べる。

「ひとの生き様はせつないものだな」
という蔵太の淡々とした言葉を聞いて、
澪は思わず口にする。
「わたくしにも迷いがあったように思います。
どうすればひとは迷わずに生きられるのでしょうか」。

蔵太はぽつりと、
「さようなことはわたしにもわからぬ。
ただ、迷ったら、おのれの心に問うてみることだと私は思っている」。

「おのれの心に問うてみる。。。。。。。」
小声で繰りかえし、澪は思いをめぐらす。
「知恵を働かせようとすれば、迷いは深まるばかりだ。
しかし、おのれにとってもっとも大切だと思うものを
心は寸分違わず知っている、とわたしは信じておる」。
蔵太の答えが澪の胸にしみ、
わからぬこと、迷ったことは、わが心に問えばいい。
その通りだ、と澪は思った。

「紫草が花をつけているようだな」
蔵太に不意に告げられて、澪は庭に目を落とした。
庭の隅に小さな白い花が咲いている。
屋敷の門のそばにも、この白い花を見せたくて
蔵太が紫草の種をまいたのだが、澪は知らずに雑草と勘違いして
抜いていたことも。

蔵太のまいた紫草の花を見たいと願い、
思いをこめれば願いはかなうはずと、澪は涙ぐんだ。

紫草(ムラサキ)は古来から知られ、
万葉集にも歌われている。
薬草として、そして染料として使われる。
助六で名高い江戸紫も紫草を原料として染め上げられたもの。

葉室さんらしい、きめ細かな作品に仕上げられている傑作である。
Commented by banban0501 at 2014-05-17 12:05
冷静に男女の愛の姿を描いた作品のようですね

歴史小説の中にある人間模様に
現代人が捨ててしまいがちなものが
あるように思いました
Commented by toshi-watanabe at 2014-05-17 14:49
banbanさん、

早々とコメントいただき有難うございます。
物語の主題は藩を牛耳る悪家老に立ち向かい
悪事を暴き、正道を目指す藩の武士たちの闘い、
謂わばお家騒動ですが、現代にも通じる人間模様、
そして愛情に揺れ動く女心が見事に描かれています。
by toshi-watanabe | 2014-05-17 09:22 | 読書ノート | Comments(2)

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