人気ブログランキング | 話題のタグを見る

葉室 麟著「不義」を読み終える

本当に久しぶりに葉室麟さんの作品「不義」を読み終える。
葉室麟短編傑作選とサブタイトルが付いている。
角川文庫、720円+税。

葉室 麟著「不義」を読み終える_d0037233_10073560.jpg


歴史小説の名手、葉室麟さんが活写する「義」に生きた人々の物語で、
6編の作品から成っている。

「鬼火」:
新選組の沖田総司と芹沢鴨との出会い、
そして新選組を離脱した芹沢鴨を沖田総司が斬るに至る経緯。

「鬼の影」:
浅野家が断絶となり、家老の大石内蔵助良雄が
池田久右衛門という仮の名前で京都郊外の山階に隠棲。
そこへ血気盛んな堀部安兵衛が訪れる。

「ダミアン長政」:
キリスト教信者で、洗礼名ダミアンの黒田長政が登場。
関ケ原を逃れ、山中で捕らえられた、石田三成と
黒田長政は顔を合わせ、最期のはなむけの言葉をかける。

「魔王の星」:
蒲生氏郷忠三郎と織田信長。
天下布武に向かう信長の頭上に不思議な彗星が現れる。
氏郷は信長の次女・冬姫の夫で信長にとって娘婿である。

「女人入眼」:
「入眼」とは叙位や除目の際に、官位だけを記した文書に
氏名を書き入れて、総仕上げをすること。
慈円の「愚管抄」に、「女人入眼の日本国」とあり、
この時代に東西の二大権力者だったのが、京の藤原兼子(けんし)と
鎌倉の北条政子。
政子は19万騎の軍勢を京へ派遣、鎌倉幕府を護る。
いわゆる「承久の乱」で、後鳥羽上皇は隠岐に島流し、
18年を隠岐島で過ごすことに。

「不義」:
この作品は昨年、葉室麟さんの7回忌の直前に見つかったもの。
「小説 野生時代」の2023年11月号で初めて公にされた。
中國の漢の時代、長安の知事と警察長官を兼ねる
「京兆尹(きょうちょういん)」という役職があった。
謀反を未然に防いだ功によって抜擢されたのが不義で、
厳格でありつつも慈悲を忘れず、辣腕と名高い。
ある日、天子の色である黄色の車に乗った謎の男が宮殿に現れた。
男が反乱を起こして殺されたはずの皇太子を名乗ったことで、
宮殿は混乱の渦に巻き込まれる。

巻末には村木嵐さんの解説「圧倒的なリアル」。

葉室麟さんの作品には、いつも感銘を受ける。
是非読んでいただきたい著書です。





# by toshi-watanabe | 2024-03-16 10:07 | 読書ノート | Comments(0)

宇江佐 真理著「夜鳴きめし屋」を読み終える

宇江佐真理さんの著書「夜鳴きめし屋」を読み終える。
新装版・光文社文庫、760円+税。


宇江佐 真理著「夜鳴きめし屋」を読み終える_d0037233_10423084.jpg



作者が作家デビューして17年目の作品で、
「ひょうたん」の続編ともいえる作品である。
「ひょうたん」の舞台は、博打で店をつぶしかけた過去を持つ音松と
そんな夫を支えるお鈴が営む本所五間堀の古道具屋「鳳来堂」。

時代が移り、音松とお鈴は故人となり、
主人公で店の主は夫婦の一人息子、28歳になる長五郎である。
長五郎はお音松の兄が営む質屋で働いていたが、
父親が亡くなり、母親を助けるために鳳来堂へ戻った。
ところが、質屋と道具屋では勝手が違い、商売がうまく行かない、
母親の特技料理を活かして、居酒見世に鞍替え。
その後母親も亡くなり、長五郎はひとりで「鳳来堂」(店の名前はそのまま)を
夕方から朝まで開けて商売。
夜鳴き蕎麦屋ならぬ「夜鳴きめし屋」と綽名される店だ。

見世には、職人、大店の主人、武士、芸者、そして夜鷹まで、
さまざまの客が訪れて、日常茶飯事が話題になり、物語は進行。
長五郎をはじめ登場人物が、物語の中で生き生きと自在に活動している。
江戸の町に迷い込んだような気分にさせられる。

兎に角物語にすっかり引き込まれてしまう。
宇江佐真理さんの筆致には脱帽。
長五郎の初恋の彼女とその息子(実は長五郎の息子)と3人で、
除夜の鐘をききながら、年越しそばを食べるハッピーエンドで幕を閉じる。
お薦めの一作だ。

巻末に、文芸評論家・末國善己さんの解説と
作家の山口恵以子さんの一文「作家として、妻として、母として」が載っている。




# by toshi-watanabe | 2024-01-31 10:42 | 読書ノート | Comments(0)

宇江佐 真理著「ひょうたん」を読み終える

宇江佐真理さんの著書「ひょうたん」を読み終える。
光文社時代小説文庫、760円+税。


宇江佐 真理著「ひょうたん」を読み終える_d0037233_10361816.jpg


江戸は本所北森下町の古道具屋「鳳来堂」が舞台だ。
古道具屋と言っても、由緒あるお宝があるわけではなく、
文字通り中古の鍋釜、鉄瓶、漆器、花瓶、
しみのついた屏風、箪笥、長持ち。蒲団などが、
店の中に乱雑においてあるだけだ。

店の主は音松、そして家内のお鈴が主人公。
そして夫婦の一人息子、十歳になる長五郎(長と呼ばれている)は
音松の兄、竹蔵が営む質屋「菱屋」に小僧として住み込んでいる。
菱屋は浅草広小路にある。
岡っ引きの虎像が、時々鳳来堂を訪れる。
音松は定式幕で拵えた半纏を着て、古道具の整理をしたり、配達したり、
一方お鈴は店番の合間に店の外に七輪を出して、魚を焼いたり、
煮物の鍋を掛けたりしている。
通り過ぎる人々は、うまそうな匂いに、腹の虫を鳴かせる。
店には年中、音松の友人達が集い、酒を酌み交わしたり。

平穏無事な町民の生活が続くが、時折り事件が起きる。
作品は6篇のテーマで物語が進展。
「織部の茶碗」
「ひょうたん」
「そぼろ助広」
「びいどろ玉簪」
「招き猫」
「貧乏徳利」

文芸評論家の磯貝勝太郎が解説を書かれている。
また今回の新装版発行にあたって、
作家の朝倉かすみさんが「私の北極星」と題して、
宇江佐真理さんについて書かれている。

宇江佐真理作品、いずれも素晴らしく、
読んでいるうちにどんどん引き込まれてしまう。
お薦めの一作。




# by toshi-watanabe | 2024-01-24 10:36 | 読書ノート | Comments(0)

宇江佐 真理著「夕映え」を読み終える

引き続き、宇江佐真理さんの作品です。
昨年末に新装版として出版された「夕映え」。
角川文庫、980円+税。


宇江佐 真理著「夕映え」を読み終える_d0037233_10302098.jpg



激動の幕末期から明治へ、
この物語は慶応3年(1867)から始まる。
大川を挟んで東に位置する本所が舞台である。
浅草から御厩河岸の渡しに乗れば本所。
本所石原町の自身番のすぐ隣りに、
間口2間の小さな縄暖簾の見世(今でいう居酒屋)。

当年38歳になる女将のおあきと、
蝦夷松前藩の武士だった、今は岡っ引きの亭主・弘蔵。
夫婦には、17歳の息子・良助と16歳の娘・おてい。
そして見世の常連客に囲まれて、
つつましいが幸せな暮らしを送っていた。

ところが慶応4年(1868)に伏見の戦いが勃発。
旧幕府軍が大敗し、官軍の東征軍が東へ、江戸城総攻撃を目指す。
薩摩藩邸での勝海舟と西郷隆盛の会談で江戸城総攻撃は中止、
無血開城となったものの、
官軍に抵抗して彰義隊が結成されて上野の山に。
この彰義隊に良助が志願して、弘蔵とおあき夫婦も時代の流れに巻き込まれてゆく。

長編小説だが、筆者の巧みな筆致で、物語に引き込まれてしまう。
作品名の「夕映え」は物語の終わり近くになって出てくる。
松前の海上に二人は素晴らしい夕映えを目にして感嘆する場面だ。








# by toshi-watanabe | 2024-01-16 10:31 | 読書ノート | Comments(0)

宇江佐 真理著「甘露梅」を読み終える

かみさんもすっかり大ファンとなった
宇江佐真理さんの作品「甘露梅」を読み終える。
サブタイトルとして「お針子おとせ吉原春秋」とある。
光文社文庫新装版、760円+税。


宇江佐 真理著「甘露梅」を読み終える_d0037233_10573707.jpg



この作品は平成13年11月に光文社から出版されており、
今回新装版文庫が発売された。
宇江佐真理さんの作品新装文庫本は、
このあと1月、2月にもそれぞれ出版が予定されている。

6編の作品から成る短編集という形をとっているが、
物語は継続しており、1篇の長編小説として読める。
「仲の町・夜桜」、「甘露梅」、「夏しぐれ」、「後の月」、
「くくり猿」、「仮宅・雪景色」の6編である。

物語の主人公、おとせは前年の春、岡っ引きだった亭主の勝蔵が亡くなり、
口入れ屋の紹介で吉原の遊女屋を紹介された。
江戸町の「海老屋」にお針子として住み込む。
給金は年に4両、着物と布団を縫うのが主な仕事。
おとせには鶴輔という20歳の息子とお勝という18歳の娘がいる。
お勝は勝蔵が亡くなる前年に嫁入り。
鶴輔は呉服屋に奉公していたが、手代になったばかりで店の女中と懇ろになり、
あろうことか彼女の腹には子供ができ、
勝蔵の四十九日を過ぎたばかりで、祝言を急ぎ執り行い、
鶴輔には一軒家を借りるだけの甲斐性もなく、
おとせの家で暮らすことになり、おとせの居場所がなくなる。
それもおとせが家を出てお針子として住み込む原因でもあった。

お針子として働き始めたおとせが、様々な恋愛模様に直面することになり、
物語は進展して行く。

文芸評論家、末國善己さんの的確な解説が掲載されている。
また、今回の新装版発刊に伴い、
宇江佐真理さん生前に親しく付き合われていた、
作家の諸田玲子さんが、「宇江佐真理姐さんのこと」と題して、
素敵な解説を書かれている。
その中から一部をそのままご紹介すると、

「そう、宇江佐姐さんは気風がよい。
 媚もしないし威張りもしない。
 ご自分では、江戸っ子でもないのに江戸の市井物を書くのは後ろめたいと
 仰っていたけれど、とんでもない、宇江佐さんこそ江戸っ子だった。
 ひとつにはもちろん、東京人でない負い目があったから、
 かえって人一倍、勉強をされたのだろう。
 それは本書を読んでも分かる。
 本書の舞台は吉原だが、四季折々のたたずまいから風俗しきたり、
 廓言葉、そこに生きる人々のきめ細かな描写まで、
 ただの上っ面な知識を超えて吉原に精通し、
 自家薬籠中の物にしていなければ、とてもこれだけの小説を書くことはできない。

 けれど、もっと大事なことがある。
 宇江佐さんご自身が江戸から抜け出したようなお人だったということだ。
 つまり、江戸庶民の生き方や考え方に心底、共鳴していればこそ、
 読者諸氏を江戸へ導く水先案内人の役を見事に果たせたのだと思う。」

まったく同感である。
この作品を読んで、益々宇江佐真理ファンとなってしまった。

お薦めの一冊である。








# by toshi-watanabe | 2023-12-29 10:58 | 読書ノート | Comments(0)

日々見たこと、 感じたこと、気づいたことをメモする


by toshi-watanabe