かみさんもすっかり大ファンとなった
宇江佐真理さんの作品「甘露梅」を読み終える。
サブタイトルとして「お針子おとせ吉原春秋」とある。
光文社文庫新装版、760円+税。
この作品は平成13年11月に光文社から出版されており、
今回新装版文庫が発売された。
宇江佐真理さんの作品新装文庫本は、
このあと1月、2月にもそれぞれ出版が予定されている。
6編の作品から成る短編集という形をとっているが、
物語は継続しており、1篇の長編小説として読める。
「仲の町・夜桜」、「甘露梅」、「夏しぐれ」、「後の月」、
「くくり猿」、「仮宅・雪景色」の6編である。
物語の主人公、おとせは前年の春、岡っ引きだった亭主の勝蔵が亡くなり、
口入れ屋の紹介で吉原の遊女屋を紹介された。
江戸町の「海老屋」にお針子として住み込む。
給金は年に4両、着物と布団を縫うのが主な仕事。
おとせには鶴輔という20歳の息子とお勝という18歳の娘がいる。
お勝は勝蔵が亡くなる前年に嫁入り。
鶴輔は呉服屋に奉公していたが、手代になったばかりで店の女中と懇ろになり、
あろうことか彼女の腹には子供ができ、
勝蔵の四十九日を過ぎたばかりで、祝言を急ぎ執り行い、
鶴輔には一軒家を借りるだけの甲斐性もなく、
おとせの家で暮らすことになり、おとせの居場所がなくなる。
それもおとせが家を出てお針子として住み込む原因でもあった。
お針子として働き始めたおとせが、様々な恋愛模様に直面することになり、
物語は進展して行く。
文芸評論家、末國善己さんの的確な解説が掲載されている。
また、今回の新装版発刊に伴い、
宇江佐真理さん生前に親しく付き合われていた、
作家の諸田玲子さんが、「宇江佐真理姐さんのこと」と題して、
素敵な解説を書かれている。
その中から一部をそのままご紹介すると、
「そう、宇江佐姐さんは気風がよい。
媚もしないし威張りもしない。
ご自分では、江戸っ子でもないのに江戸の市井物を書くのは後ろめたいと
仰っていたけれど、とんでもない、宇江佐さんこそ江戸っ子だった。
ひとつにはもちろん、東京人でない負い目があったから、
かえって人一倍、勉強をされたのだろう。
それは本書を読んでも分かる。
本書の舞台は吉原だが、四季折々のたたずまいから風俗しきたり、
廓言葉、そこに生きる人々のきめ細かな描写まで、
ただの上っ面な知識を超えて吉原に精通し、
自家薬籠中の物にしていなければ、とてもこれだけの小説を書くことはできない。
けれど、もっと大事なことがある。
宇江佐さんご自身が江戸から抜け出したようなお人だったということだ。
つまり、江戸庶民の生き方や考え方に心底、共鳴していればこそ、
読者諸氏を江戸へ導く水先案内人の役を見事に果たせたのだと思う。」
まったく同感である。
この作品を読んで、益々宇江佐真理ファンとなってしまった。
お薦めの一冊である。